新年といえば、毎度おなじみこの企画再発CDアワードという訳で、去年一年間のCD再発市場を振り返ってみたい。
2016年の基本的な印象は、前年とほとんど変わらず再発の企画にも目新しいものはなかったというものだ。一枚の名盤のアウトテイクやミックス違い、場合によってはアナログ・レコードやUSBデータ、DVD、Blu-rayまでセットしたデラックス箱物や、アーカイヴ的な超重力級BOX、新素材を使った高音質盤、廉価盤再発、放送音源、等々。
廉価盤再発に関しては、相変わらずリマスターの有無がインフォメーションされないことが多い。僕が一番どうかと思うのは、SHM-CD化はするがマスターは旧来のままという再発である。
そんな2016年の再発シーンにおいて、僕が個人的にうれしかったものを順不動で挙げておく。
○ 大滝詠一 / BEDUT AGAIN
大滝さんのまさしく置き土産的な一枚。他人に書いた名曲群の本人歌唱バージョンを集めた作品集は、『A LONG VACATION』『EACH TIME』と並んでボーカリスト大滝詠一を堪能できるファン待望の企画盤である。
○ THE POP GROUP /FOR HOW MUCH LONGER DO WE TOLERATE MASS MURDER?
ようやく出そろったポップ・グループのリマスター再発プロジェクトの一枚。かつて徳間ジャパンからも国内盤が出ていたが、廃盤になって久しかったからこれは待望だった。何せ、一時はPROGRESSIVE LINEからブート盤まで出ていた始末である。
彼らは、NEW WAVEというよりPOST PUNKという表現が最もピッタリくるバンドというのが個人的な印象で、最も過激なFREE JAZZとROCKとFUNKの邂逅というべきミクスチャー・ロックの元祖と言えるのではないか。
○ 須山公美子 / 夢のはじまり
現在でも音楽活動を続けてる須山公美子の名盤で、ずっとほしかった一枚がようやくの再CD化された。今回のマスタリングを担当したのは、AFTER DINNERの音響に深く関わった宇都宮泰!
シャンソンとチンドンをミクスチュアした独特の世界観は、ある意味永遠に懐かしく、そして新しい。
○ CHUCK BROWN & THE SOUL SERCHERS / BUSTIN’ LOOSE
1980年代に一部で盛り上がったワシントンDCのローカル・ダンス・ミュージックGO-GO。同じビートでひたすらメドレー形式に長尺演奏を続けるスタイルで、代表バンドと言えばTROUBLE FUNKだけど、大ベテランのチャック・ブラウンによるプレGO-GOマスターピースといえば本作。
以前に一度CD化されたことがあったけど、ようやくの再発はまさに待望だった。
○ THE BEATLES / LIVE AT THE HOLLYWOOD BOWL
1977年にアナログ盤でリリースされたビートルズ唯一の公式ライブ盤で、かつて日本では東芝EMIから『ザ・ビートルズ・スーパー・ライブ!』として発売されていた。長年廃盤だったこのアルバムは、ロン・ハワード監督のドキュメンタリー映画「ザ・ビートルズ~エイト・デイズ・ア・ウィーク」公開に合わせて再発の運びとなった。
何も言うことなどない、ロック・ライブの歴史的モニュメントである。
○ LESTER YOUNG / CLASSIC 1936-1947 COUNT BASIE AND LESTER YOUNG STUDIO SESSIONS
MOSAIC渾身の8枚組。カンサス・シティのビッグ・バンド・ジャズと言えば、最高にスウィングするオール・アメリカン・リズムセクションを要したカウント・ベイシー楽団で決まりだが、その中心人物にしてサックスの革命者ともいえるプレス珠玉の名演を詰め込んだ一生もののお宝箱。
同じMOSAICには4枚組の『CLASSIC COLUMBIA,OKEH AND VOCALION LESTER YOUNG AND COUNT BASIE(1936-1940 』もあるが、もちろんそちらもマスト。
○ LOU REED / THE RCA & ARISTA ALBUM COLLECTION
生前にルー・リード自身が監修したこのボックスは、彼のキャリアを文字通り総括した圧巻の17枚組。もちろん、すべてのアルバムが必聴だと思うけど、RCAからリリースされた傑作ライブ『LIVE IN ITALY』が未収なのが個人的には大いなる不満だ。
このライブ盤、ロバート・クワインのギターが、本当に最高なんだけど。
○ THE ROLLING STONES / IN MONO
ビートルズのMONO BOXが限定生産でリリースされたときは、ものすごい争奪戦となったことが今となっては懐かしいが、こちらはあまり騒がれることなくひっそりリリースされた15枚組。
このボックスがすごいのは、ビートルズ同様に英米盤で微妙に収録曲を違えていたアルバム群を、すべてボックスに詰め込んでしまった点。強引と言えば強引な作りだけど、当時の雰囲気を伝えていて実に気分だ。ちゃんとレア・トラックス盤が用意されているのもうれしい。
やっぱり、60年代はMONOだよな!とつくづく思う。
○ BIG STAR / COMPLETE THIRD
一部に熱狂的なファンを持つメンフィスのローカル・ヒーロー、アレックス・チルトン。ボックス・トップスでの華々しい活動に比べて、地味な存在のまま終わってしまったビッグ・スターだが、元祖パワー・ポップ的なビート感とチルトンの黒っぽいボーカルが後進に与えた影響は決して小さくない。
本作は、サード・アルバム関連の音源をこれでもかと言わんばかりに詰め込んだタイトルに偽りなしのコンプリート版だ。
○ THE TIMERS / ザ・タイマーズ スペシャル・エディション
1988年に反原発がらみで東芝EMIから一度発売中止になった後、数か月後に古巣のキティレコードからのリリースされたRCサクセション唯一のオリコン・チャート第一位獲得アルバム『カバーズ』。
その怒りから、さらに活動をラジカルにした忌野清志郎が結成した覆面バンド、ザ・タイマーズ1989年のアルバムがデラックス・エディションとして蘇った。当時、テレビ出演やインタービューでも相当に尖っていたZERRYこと清志郎だが、今聴いても『カバーズ』以上に身も蓋もないヤンチャぶりだと思う。これをてらいもなくやれてしまうところが、清志郎の清志郎たる所以だろう。
何もなかったようにCMソングに使われている「デイ・ドリーム・ビリーバー」のポップさが、かえって皮肉に聴こえるから複雑と言えば複雑なんだけど。
個人的に、2017年再発で僕が密かに期待しているのは、プリンスのワーナー傑作群リマスター再発、P音なしのじゃがたら『君と踊りあかそう日の出を見るまで』、生活向上委員会大管弦楽団『This is Music is This!?』『ダンス・ダンス・ダンス』だ。