2011年5月10日にちくま新書から発行された荻上チキ著『セックスメディアの30年史―欲望の革命児たち』。
本書の表紙には、「エロ本、官能小説、ポルノ映画、大人のオモチャ、水商売、風俗、アダルトビデオ、風俗情報誌、風俗無料案内所、美少女ゲーム、アダルトサイト、出会い系サイトや出会い系スポット、ライブチャットなどなどなど。…セックスメディアの変化についての『証言』を残すことが、本書の第一の目的である。」と記されている。
ちなみに、著者は1981年生まれの男性評論家、編集者である。
僕は、本書で取り上げられている様々なアダルトメディアや社会事象について、年齢的にもリアルタイムで見聞きしている感じなのだが、現在34歳の著者にとってはそのほとんどが歴史的文化的考察に位置するトピックである。この人の他の著書から推察するに、社会学や情報、コミュニケーション的な題材を扱ったものが多いようである。
章ごとに取り上げられているトピックは、電話風俗・出会い系サイト・エロ雑誌・アダルト動画・大人のオモチャ性風俗である。「アダルト」というキーワードから世間一般がイメージするであろうアンダーグラウンドで胡散臭げなサムシングは皆無であり、本書の語り口はある意味社会学的かつビジネス書的なアプローチに近い。「ちくま新書」(筑摩書房)からの発行であるというのも納得である。
個人的には、掲載されているインタビューが一番興味を引いた。インタビューを受けているのは、出会い系サイトのワクワクコミュニケーション代表取締役、『オレンジ通信』元編集長、芳賀書店社長、アダルト動画紹介サイトの動画ファイルナビゲーター、アダルト総合サイトDMM担当者、株式会社典雅社長、ラブドールのオリエント工業社員である。
彼らのインタビューが面白いのは、当事者としてビジネスの成り立ちやコンセプト、あるいは経営戦略・業界動向を極めて冷静かつシリアスに語っているからである。
中でも一番読み応えがあるのは、株式会社典雅の社長・松本光一氏へのインタビューである。オナニーグッズ(オナホール)としてはつとに有名な商品TENGAを開発した松本氏は1967年生まれで、元々自動車の整備士をしていた人である。この人が物作りに賭ける情熱というのが本当に素晴らしく、冗談でも何でもなく『プロジェクトX』や『情熱大陸』等で取り上げてもらいたいような内容なのだ。それほどの志が「TENGA」という商品には込められており、感動的ですらある。
だか、インタビューの充実に比べて、各章の内容自体はいささか散漫というか焦点が絞り切れていない印象である。様々な統計データやビジネス用語等を用いての検証や言及、あるいは社会情勢への目配せに中途半端なアカデミズムが漂っているようにも思う。
もっと社会風俗や日本特有の文化論的視座があってもいいのかな…という物足りなさで、それはこれらの事象が筆者にとってあくまで研究の素材であるというところに起因しているように思う。
もちろん、題名が物語るようにこの本はあくまでもメディア論である。ただ、こと「アダルト」というジャンルを取り上げる以上は、社会事象としての側面についてもっと掘り下げてよかったのではないか?
その意味では、本としての性格こそ違うものの同じちくま新書から刊行された川本耕次著『ポルノ雑誌の昭和史』は編集当事者からの視点で書かれていて面白かった。
いずれにしても、ひとつのビジネス・モデルやスキームを知る上ではなかなか興味深い本である。
ちなみに、著者は1981年生まれの男性評論家、編集者である。
僕は、本書で取り上げられている様々なアダルトメディアや社会事象について、年齢的にもリアルタイムで見聞きしている感じなのだが、現在34歳の著者にとってはそのほとんどが歴史的文化的考察に位置するトピックである。この人の他の著書から推察するに、社会学や情報、コミュニケーション的な題材を扱ったものが多いようである。
章ごとに取り上げられているトピックは、電話風俗・出会い系サイト・エロ雑誌・アダルト動画・大人のオモチャ性風俗である。「アダルト」というキーワードから世間一般がイメージするであろうアンダーグラウンドで胡散臭げなサムシングは皆無であり、本書の語り口はある意味社会学的かつビジネス書的なアプローチに近い。「ちくま新書」(筑摩書房)からの発行であるというのも納得である。
個人的には、掲載されているインタビューが一番興味を引いた。インタビューを受けているのは、出会い系サイトのワクワクコミュニケーション代表取締役、『オレンジ通信』元編集長、芳賀書店社長、アダルト動画紹介サイトの動画ファイルナビゲーター、アダルト総合サイトDMM担当者、株式会社典雅社長、ラブドールのオリエント工業社員である。
彼らのインタビューが面白いのは、当事者としてビジネスの成り立ちやコンセプト、あるいは経営戦略・業界動向を極めて冷静かつシリアスに語っているからである。
中でも一番読み応えがあるのは、株式会社典雅の社長・松本光一氏へのインタビューである。オナニーグッズ(オナホール)としてはつとに有名な商品TENGAを開発した松本氏は1967年生まれで、元々自動車の整備士をしていた人である。この人が物作りに賭ける情熱というのが本当に素晴らしく、冗談でも何でもなく『プロジェクトX』や『情熱大陸』等で取り上げてもらいたいような内容なのだ。それほどの志が「TENGA」という商品には込められており、感動的ですらある。
だか、インタビューの充実に比べて、各章の内容自体はいささか散漫というか焦点が絞り切れていない印象である。様々な統計データやビジネス用語等を用いての検証や言及、あるいは社会情勢への目配せに中途半端なアカデミズムが漂っているようにも思う。
もっと社会風俗や日本特有の文化論的視座があってもいいのかな…という物足りなさで、それはこれらの事象が筆者にとってあくまで研究の素材であるというところに起因しているように思う。
もちろん、題名が物語るようにこの本はあくまでもメディア論である。ただ、こと「アダルト」というジャンルを取り上げる以上は、社会事象としての側面についてもっと掘り下げてよかったのではないか?
その意味では、本としての性格こそ違うものの同じちくま新書から刊行された川本耕次著『ポルノ雑誌の昭和史』は編集当事者からの視点で書かれていて面白かった。
いずれにしても、ひとつのビジネス・モデルやスキームを知る上ではなかなか興味深い本である。