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常本琢招『蒼白者 A Pale Woman』

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2013年6月8日公開の常本琢招『蒼白者 A Pale Woman』

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エグゼクティブプロデューサーは佐々木孝・岩井正幸・常本琢招、原案は常本琢招、脚本は木田紀生、ラインプロデューサーは菊池正和、撮影は福本淳、照明は木村匡博、音楽は竹内一弘、録音は光地拓郎、美術は宇山隆之、編集はタク・ツネモト、メイクは奥村裕子、助監督は黒川幸則、監督助手は地良太浩之・佐野真規、制作進行は加藤綾佳・中嶋知香。
製作は株式会社ゼンケン・常本家、配給はカプリコンフィルム、配給宣伝は岩井秀世。
宣伝コピーは「弾丸よりも痛い愛」
2012年/HD/カラー/90分
本作は、大阪市の映画制作助成制度「CO2」から権利を得て製作された。撮影期間は、2011年12月24日から2012年1月12日まで。
副題となっている「A Pale Woman」は、クリント・イーストウッド監督の西部劇『ペイルライダー』(1985)から取られている。そして、“pale rider”とは、黙示録「見よ、蒼ざめた馬(pale horse)を。それに乗っている者は“死”だ」からの引用である。


こんな物語である。

キム(キム・コッビ)は、母に代わり韓国で自分を育ててくれた人が亡くなったことを契機に、再び日本に戻る決心をする。最愛の人を闇から救い出すために。

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キムの母親フミ(中川安奈)は、夫亡き後キムを連れて大阪に行くと闇社会のフィクサー平山の後妻となった。表向きは精肉会社を営みつつ、その裏で悪辣にしのぐ平山。
そんな平山の家に、シュウ(西本利久:子役)という男の子が貰われて来る。彼は将来を嘱望されるピアニストの卵で、暴力の匂いたちこめるこの家で、キム(下山天:子役)にとっては優しい兄のような存在だった。まだ幼いキムが、シュウに恋心を抱くのにさほど時間はかからなかった。

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そんなある日、事件が起きる。平山がキムに劣情して襲いかかり、それを止めに入ったシュウは平山と格闘。階段から突き落とされた平山は植物状態となり、シュウは聴力を失ってピアニストとしての将来を断たれた。
そのごたごたでフミはキムを韓国に送り、彼女は平山の事業を引き継いで自分が暗黒社会でしのぐようになる。
彼女の元で若きチンピラ達がのし上がりのために野心を燃やし、シュウ(忍成修吾)は不承不承そのヤクザ稼業の下働きをしていた。しかし、シュウの本当の役目は、フミの若きツバメとして彼女の肉欲を解消することだった。
そんなシュウを自分の愛で救うため、キムは日本に向かったのだ。

破竹の勢いを誇るフミに、同じ闇社会で一大勢力を誇る塚越会長(渡辺護)が手を組まないかと持ちかけるが、フミは彼の申し出を袖にする。子分たちは憤るが、塚越は冷静に次の手段を練ることにした。

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キムはフミやシュウの前に現れて、自分が戻ったことを伝える。頑なに日本語を話さないキムに、フミは娘が腹にイチモツ持っていることを感じ取る。
フミの部下たちは、フミに断りなく表向きはスーパーを経営しつつ裏では地下銀行で荒稼ぎしている在日韓国人の男に目をつける。シュウも巻き込み、彼らは男が不正送金する金を強奪する計画を立てた。

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希望を失い自暴自棄になっているシュウは、気の進まぬ汚い仕事とフミの相手で日々を生き、彼にまとわりつくホステス(宮田亜紀)と気のない付き合いをしている。
そんなシュウのかつての才能を知っている音楽プロデューサー(長宗我部陽子)が彼に復帰を勧めても、それさえ今のシュウには疎ましいだけだった。
そこに、キムが現れて「あなたを救い出す」と宣言し勝手な行動を取り始めたから、シュウの戸惑いはさらに大きくなっていく。

シュウを暗闇から助け出すため、キムは手段を選ばず次々と過激な行動に出る。そして、キムはシュウたちが計画している地下銀行資金強奪計画の仲間にまで入り込むが…。

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本作は、CO2助成の条件「大阪で撮影すること」という規定と常本監督が大阪を舞台にした仕事が多いことから大阪が舞台として選ばれたのだが、大阪特有の猥雑さが作品からも立ち昇っている。
常本が目指したのは、強靭な女性映画と東宝アクションの融合。撮影を進める中で助成金では予算が足りなくなってしまい、自己資金と友人の出資を募って完成に漕ぎ着けたそうである。
キム・コッビも忍成修吾も監督本人の意向によりキャスティングされた。

(たとえば、座頭市やゴジラのような)圧倒的な存在の女性キムがヒロインの「情念の暴力映画」と常本が表現する本作を観た僕の個人的感想を述べさせて頂ければ、いささかストーリーが粗雑なキム・コッビのアイドル映画…ということになる。
大阪の街を奔走するキム・コッビの姿以外には、あまり魅力を感じることができなかったのだ。

暴力シーンが少ないのも闇社会の描き方に厚みがないのも予算を考えれば致し方ないし、そもそものコンセプトとしてヒロインが自分の想いに暴走するある種の実験映画であるというのも理解できる。
それでも、やはりこの作品の根本的な世界観の浅さが物足りない。キムの抱える「シュウへの一途な想い」だけを描いて他をあえて削ぎ落としているのは監督の意志だと思うが、平山の築いた闇の王国やフミの心に巣食う暗く燃える焔と一人娘への愛情、シュウの感情の描き方があまりにぞんざい過ぎるのではないか?

キムの情念にフォーカスして映画を語ることと、彼女の周囲を雑駁にしか描かぬこととはやはり違うと僕は思うのである。
映画としての疾走感はあるが、最大の見せ場である母娘の決闘シーンからラストに訪れる感傷までが、どうにも予定調和的でカタルシスに乏しいのも不満だ。

本作に限らず、近年単館系で上映される(自主製作体制をメインとした)低予算国産映画の多くに、僕は映画としてのミニマムで言い訳めいた雰囲気を感じてしまう。
特段、製作者が公に某かのエクスキューズを展開している訳ではないのだが、作品の端々に「当初からの限界」を嘆息するような匂いを感じるのだ。
これは、何故なんだろう。僕がたまたま観る映画に限ったことなのだろうか?

ヤン・イクチュン監督『息もできない』 (2009)で圧倒的な存在感を示したキム・コッビ、メジャーとマイナーとを越えて精力的に出演する忍成修吾、久しぶりの映画出演となる中川安奈はそれぞれに魅力的だと思う。
ピンク映画界の黒澤明とまで評される渡辺護監督の元気な姿や、長宗我部陽子も嬉しい。
しかし、ストーリー的にはもう少し何とかならなかったのか…と思う。

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本作は、役者陣の魅力に比して映画的には今ひとつ求心力に欠ける一本である。

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