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金子修介『百年の時計』

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2013年5月25日東京公開(2012年10月20日香川にて先行公開)、金子修介監督『百年の時計』

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プロデューサーは金子雄一、協力プロデューサーは岩本光弘・小松崎友子、アシスタント・プロデューサーは綾田真紀子、脚本は港岳彦、音楽は中村由利子、主題歌はD-51「めぐり逢い」、撮影は釘宮慎治、照明は田辺浩、美術は高橋俊秋、装飾は日野奈津子、編集は田辺賢治、助監督は村上秀晃・島田伊智郎、ポストプロダクションコーディネートは稲村浩(オムニバス・ジャパン)、オンライン編集は五十嵐淳、カラリストは戸倉良、CGIディレクターは辻本貴則、録音アドバイザーは星一郎、音響効果は伊藤克己(スワラ・プロ)、フォリーは赤平直樹、現場録音は庵谷文博、整音は武藤雅人(スリーエス・スタジオ)、衣裳は小海綾美、メイクは吉森香織・松下泉、宣伝美術は田村享昭(タムラデザイン)・猪熊信次(アイノグラフィカ)。
製作はさぬき地産映画製作委員会。製作プロダクションは株式会社ブルー・カウボーイズ。配給は太秦、ブルー・カウボーイズ(香川県)。
2013年/日本/カラー/HD(16:9)DCP/5.1ch/105分

本作は2011年に路線開業100周年を迎えた琴平電気鉄道(ことでん)の創業100周年事業の一環として製作された。


こんな物語である。

香川県高松市美術館の新米学芸員・神高涼香(木南晴夏)は、地元が生んだ世界的前衛芸術家・安藤行人(ミッキー・カーチス)の大回顧展を企画。これまでずっと美術館からのオファーを断って来た安藤が新作製作も含めて了承してくれたことで、涼香は狂喜する。
しかし、現在の安藤は年老いて、気難しさと被害者意識に拍車がかかっている。しかも、体調を崩してしばしば彼は入院していた。今回の回顧展も、娘で安藤のマネージャーを務める美咲(木内晶子)を通してのオファーだった。

安藤の奇行に、涼香も他の美術館スタッフ(宍戸開、金子奈々子)も初日から振り回されるが、安藤の熱烈なファンでもある涼香は、必死で安藤と行動を共にする。


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しかし、安藤は「周囲が自分の名声を利用して金儲けしたいだけだ」と断じ、新作も作らなければ回顧展もやめると言い出すに至って、さすがの涼香も怒りを露わにする。
涼香は、自分が学生時代に教会で体験した安藤のインスタレーションに感激したことを涙ながらに激白。その体験こそ、涼香が芸術と真剣にコミットするきっかけとなったのだ。

涼香は、町工場を経営する邦男(井上順)と切り絵作家の芳江(池内ひろ美)の間に生まれた一人娘。彼女は、大好きな母親の影響で芸術が好きだった。しかし、父親の経営する工場が傾き金策に奔走する最中、元々体の弱かった母親が他界。
芳江亡き後、邦男はタクシー運転手に転職して男手ひとつで涼香を育てたが、母を見殺しにしたとの思いが拭えず涼香は父を許せないままでいた。
そんな涼香の想いを癒し、芸術へと本格的に導いたのが安藤のインスタレーション体験だったのだ。
その体験後、本格的に芸術を学ぶべく美大に進学した彼女は、ニューヨークへの美術留学までして、美術館学芸員になった。
母を喪った経験は彼女を頑なにし、高校時代から付き合うことでん運転手の溝渕健治(鈴木裕樹)に対しても素直になれない。

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さすがの安藤も涼香の迫力に気圧される。安藤は、今の自分に芸術家としてのモチベーションが失われ新作が作れないと苦悩を告白した。
そして、彼は古びた懐中時計を取り出し、地元を離れて芸術家を志した若き日(近江陽一郎)に偶然電車に乗り合わせた女性(中村ゆり)から手渡されたこの時計が自分の原点であると言った。

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あの時の女性を探し出せれば、自分は芸術家として再生できるかもしれない…と語る安藤の想いに、涼香は安藤と懐中時計のかつての持ち主を探すことにするが…。


冒頭でも触れたとおり、ことでん創業100年記念事業として企画されたオール香川ロケのご当地映画である本作は、かなり特殊な環境の元で撮られた作品である。そもそも、「百年の時計」というタイトル自体が、ことでんが刻んできた歳月の象徴なのだから。
さぬき地産映画製作委員会も香川県政財界によって設立・支援された製作委員会だし、香川県知事・浜田恵造も知事役として登場する。また、高松市長・大西秀人もイベント客の一人として出演している。

まあ、映画誕生のバックボーンは鑑賞する側にとってはどうでもいいことで、問われるべきは言うまでもなくその“質”である。
ハッキリ言って、僕はこの作品を駄目だと思う。過剰なまでの感傷と、押しつけて来るような感動的情緒性も正直苦手だが、そもそも論として登場人物のキャラクターに魅力を感じない。
そして、何と言っても木南晴夏ミッキー・カーチの演技が精彩を欠くのではないか?特に、ミッキー・カーチスは滑舌の悪さも伴って、あまりにも演技が稚拙に過ぎる。彼を観ているだけで、どうにも醒めてしまう。

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その反面、若き日の安藤を描く場面で近江陽一郎中村ゆりに力があるから、尚更ミッキーの演技が気になるのだ。
本作において観るべき個所は、この近江と中村二人の演技と田園の緑の中を走ることでんの美しい映像である。

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物語的にも問題が多い。何故、安藤は懐中時計に関する回想で「見知らぬ女性から渡されたから、持ち主を探してほしい」などと涼香に嘘をつかなければならないのか?
また、涼香の人間像があまりに身勝手で独善的に映り、見ていて違和感を禁じ得ない。まったくと言っていいほど、魅力を感じないのである。
煮え切らない涼香の恋人・溝渕健治も、「草食系男子」と片付けるにはあまりに不甲斐ないキャラクターである。

むしろ、懐中時計の持ち主・氏部由紀乃を探す過程で登場する螢雪次朗や桜木健一、あるいは父親役の井上順や溝渕の同僚・菅原優役の岩田さゆりの方に魅力を感じる。
安藤と氏部の若き日以外にいい場面があるとすれば、それは教会でのインスタレーションのシーンくらいである。

そして、何より僕がダメだったのが映画の後半に描かれることでんを使っての安藤の新作インスタレーション。この場面は、映画のメインのようでいて、実は観客も映画のストーリーさえも置き去りにした時間なのではないだろうか?
この場面における主役は、ことでん自体、或いはことでんが刻んで来た百年の時間そのものである。この場面が映画の一部なのではなく、ことでん百年の歴史にとってこの映画自体がその一部であるかのようにさえ思える。


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それだからなのか、この場面の描き方はあまりにも感傷的過ぎる。そしてその感傷は、最後に用意された安藤と氏部(水野久美)の再会でさらに拍車がかかる。

もちろん、本作に自分の人生を重ねて感動する人も多いだろう。
しかし、あくまでも僕にとっては評価しかねる作品である。

余談ではあるが、劇中に登場する切り絵は金子修介の母親で切り絵作家だった金子静枝の作品であり、涼香の先輩学芸員役・金子奈々子は妻である。
また、地元劇団員の一人として、冨田じゅんが出演している。


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