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ラスカルズ『ゴーストライター』@上野ストアハウス

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10月12日ソアレにて、ラスカルズの舞台『ゴーストハウス』を観た。


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脚本・演出・映像監督は松本たけひろ(ラスカルズ)、アートディレクター・衣裳は中島エリカ(ラスカルズ)、宣伝写真・映像撮影は宮永智基、舞台美術は向井登子、照明は山浦恵美、音響は橋本絢加、舞台監督は大友圭一郎・松澤紀昭、舞台写真は永田理恵、宣伝美術製作は小西裕子、Website製作は森裕香、映像編集は山本清香、制作は山田真里亜(ひげ太夫)。企画・製作はラスカルズ。


オムツ姿でラブホテル「LOVE BOAT」の一室に監禁されている遠藤正雄(佐藤宙輝:ラスカルズ)。彼の隣には、風俗嬢を装って彼を監禁した辻本実花(山本真由美:舞夢プロ)が不敵な笑みを浮かべている。
そこに、わらわらと仲間たちが入って来る。映画監督で首謀者の三浦真吾(加藤敦:ホチキス)と元・看護師の高木豊春(長尾長幸:劇26.25団)の二人だ。彼らは、遠藤のアパートを家探ししていたのだ。
彼らは、遠藤が応募しようとしていたシナリオ原稿を無造作に投げ出した。どれも、もうすぐ締め切りの物ばかり。
部屋の片隅には、遠藤が育てていた観葉植物・モンステラの植木鉢が無造作に置かれている。遠藤は、何も口にしておらずかなり消耗しているが、彼の目は三浦への憎悪で激しく燃えている。

かつて、遠藤が脚本を書き三浦が監督した自主映画をコンテストに出品、作品は見事グランプリを獲得した。ところが、そのことは遠藤には知らされず、彼が作品上映に招かれることはなかった。
後で知ったことだが、何故か作品のクレジットには一切遠藤の名前はなく、脚本も三浦が書いたことになっていた。三浦は、この作品を評価されて監督デビューを果たし、今に至っている。
当然、幼馴染だった遠藤と三浦の関係は断絶した。

現在、遠藤は警備会社に勤務しながら、コツコツと脚本を書き続けているが、いまだデビューできずにいる。遠藤はいつしか酒に依存するようになり、今ではすっかりアルコールに体を蝕まれている。
一方の三浦は、デビュー作以降まともに作品を評価されることもなく、ずっと二流監督として燻り続けている。しかも、数年前に大麻を栽培した罪で、三浦は前科持ちに身を堕していた。
ただ、経済的に困窮しているばかりか友達はモンステラとメダカだけという遠藤とは異なり、三浦は父が医者ゆえ、経済的には豊かで友人も多い。
このラブホテルも、潰れかかったところを人助けのつもりで三浦の父が買い取ったものだった。

三浦は、今さらのように遠藤に接触。彼は、次の作品の脚本を書いて欲しいと遠藤にオファーした。今に至るまで、三浦は自分が遠藤をゴーストライターとして利用したことを否定し続けている。
プロットを送って、何度となく遠藤に説得を試みようとした三浦だが、遠藤は聞く耳など持たない。業を煮やした三浦が取った最終手段、それが今回の監禁だった。

あまりにも攻撃的な遠藤に、へらへらと説得を試みていた三浦たちも次第にヒート・アップ。苛立ちは、遠藤への拷問へと形を変えて行った。
そこに、ホテルで清掃婦をやっている川原琴子(江間みずき:キトキト企画)が入って来る。三浦は、川原にも手伝うよう命じた。鬼気迫る三浦の姿に、他の者たちの腰が引け出す。
実は、辻本も高木も川原も、三浦から借金をしていた。それをチャラにする条件で、三浦を手伝っているだけなのだ。

今回の企画に関する女優の資料映像を見ておけと、三浦は椅子に縛り付けた遠藤の膝にノートブック・パソコンを置いた。もちろんのこと、遠藤はディスプレイを見る気などない。
肉体的に衰弱している遠藤は、そのうち眠ってしまう。
夢の中で、遠藤は会ったこともないその女優を面接している。場所は、「LOVE BOAT」の一室で、遠藤は緑色のジャージ姿だ。
町山朋子(藤真美穂)は整った顔立ちの女性で、ラブホテルでの二人きりの面接にとても緊張しているようだった。遠藤もまた、同じように緊張していた。けれども、彼の緊張は魅力的な女性と、至近距離で相対していることへの緊張であった。

初対面にもかかわらず、不思議に二人は心通ずるところがあった。どうした成り行きからか、二人はごくごく自然に唇を合わせた。遠藤は、自分の気持ちを抑えることができなくなり、彼女に想いをぶつけた。すると、朋子は遠藤の手を取った。
遠藤は、自分がアルコール中毒であることを告白したが、それすらも朋子は受け入れてくれた…。

意識を取り戻した遠藤は、相も変わらずオムツ一枚でラブホテルに監禁されていた。
しかも、いよいよ彼の様子は尋常ではなくなってくる。極度の消耗で混濁した意識のせいか、それとも積年の三浦への怒りがそうさせるのか。
狂的なまでに錯乱する遠藤に対して、もはや後のない三浦は三浦で取り憑かれたように遠藤を攻め立てるが…。


上野ストアハウスという小屋は、外観上は雑居ビルの地下1階にあって何とも心許ないのだが、実際に入ってみると客席こそ少ないが舞台は奥行きもあってかなりしっかりした作りである。やはり、芝居をやるならこれくらいの規模は欲しいよな、と思う。

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いざ舞台が始まってみると、役者陣の演技は確かな力を感じさせる堂々たる芝居で、気持ちが入って行けた。
冒頭と中盤には適度にエロティシズムもまぶされるのだが、これもしっかりとした表現やくすぐりになっていた。僕はピンク映画の評論をかなり書いていて、まあエロに関しては結構うるさいのだけど、不満のない出来である。
デリヘル嬢役の手塚けだま(ラスカルズ)の迷いなき演技が心地よい。

しかし、である。なかなかいい役者たちを揃えたというのに、この脚本は如何なものかと思う。
幾つかのエピソードのピースも登場人物も悪くないのだが、それを一本の物語にできていない。断片が断片のままで、機能不全なのだ。
根本的な部分として、三浦と遠藤の関係性に説得力がない。それは、三浦真吾という男の造形を煮詰め切れていないからだろう。

二人が仲違するきっかけとなった事件。その描き方が曖昧だから、話の興味や劇空間としての物語的説得力に欠ける。ここが欠けた時点で、舞台は深刻なエンジンの空ぶかしである。
それに、三浦という男が映画作家として業界にしがみつこうとすることの“意味”が見えてこない。これもまた、物語的な停滞である。

そして、物語のもう一つの核である「町山朋子」という記号。彼女は、三浦にとっては心に深く刺さったまま抜けない棘であるし、遠藤にとってみれば、“理想”であり“夢の女”である。
然るに、「じゃあ、町山朋子という女性は、一体何を意味するのか?」という像が何処にもフォーカスしないまま、まるで蜃気楼の如き雰囲気のまま舞台をすり抜けてしまうのだ。

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しかし、最大の問題は、終盤に持って来るモンステラ(ワダタワー)の幻想シーンである。ある種宗教性を帯びたようなこのシーンが、僕には物語からの逃避にしか感じられなかった。しかも、中途半端に演出されたファンタジックな場面は、役者陣の拙い動きも伴って、何とも鼻白む思いであった。

物語として、最も対峙しなければならない部分から、松本たけひろは逃げているのではないだろうか?
逃げていないのだとすれば、彼の演出に大いなる問題があるのだ。
そもそもが、遠藤が置かれた立場は「ゴーストライター」(代筆者)ではなく、単に盗作の被害者である。

役者陣の表現力に劇作の表現力が負けている、何とももどかしい舞台であった。


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