3月21日、東新宿のライブハウス真昼の月・夜の太陽でNAADAが出演するライブ・イベント「太陽のセレナーデ」を観た。
僕がNAADAのライブを観るのは、これが34回目。前回観たのは12月20日 、場所は同じ真昼の月・夜の太陽だった。
NAADA:RECO(vo,bodhrán)、MATSUBO(ag)+宍倉充(eb)+笹沢早織(pf)
彼らにとって今年初となるライブは、4人編成という布陣である。会場では、完成間近のフルバンド編成による3年ぶりニュー・アルバムの予約も開始された。
では、この日の感想を。
1.愛 希望、海に空
各パートとも、音の輪郭がくっきりと聴こえる分離のいい音響。抱擁力と透明感を伴ったスケールの大きなRECOのボーカルと、繊細なコーラス・ワークが会場を包む。
サポートする宍倉のトリッキーなベース・プレイと時折挿入される笹沢の印象的なピアノも効果的だ。
この日の演奏は、敬虔な祈りの如き印象であった。
2.RAINBOW
この日のPAは音の解像度が高いためか、この曲では情報量が多すぎていささか耳が疲れないでもなかった。
4人編成時のコーラス・ワークに、洗練の度合いが増していることを感じる。演奏としても、隙のなさと安定感が共存していたように思う。
3.echo
この曲は、いつものようにRECOとMATSUBO二人だけでの演奏。僕の耳にはボーカル・エコーがいささか深過ぎるように感じられて、エモーションの発露がやや過剰のように思えた。
この曲はそもそも感傷的な表情を纏っているから、とても高度な歌声のコントロールとストイックな音作りが求められる。シンプルであるが故の難曲と言っていいだろう。
4.fly
RECOがひとこと「fly」と呟き、PCのキーボード音から演奏がスタート。多分にニュー・アルバムでのフルバンド編成のアレンジを意識した音作りだと推察するが、演奏する3人が一体となったスピード感と重心の低いRECOのボーカルが圧巻。この曲でも、宍倉のトリッキーなプレイと笹沢の流麗なピアノが冴える。
揺るぎなき自信に溢れたアレンジと演奏の素晴らしさは、間違いなく本日のハイライトだろう。聴いていて、気分が高揚した。
5.僕らの色
緻密に音を構築したPC音源をフィーチャーした演奏は、エスニックなテイストを感じさせるかなり技巧的なものだった。トーキング・ドラムのような音も聴こえて、僕はナイジェリアのミュージシャンであるキング・サニー・アデのジュジュ・ミュージックを想起した。曲の後半では、リズムがマーチのように変化したのも面白い。
ただ、この曲の音像はやや拡散気味で、ボーカルが遠くから聴こえて来るような感じだった。あるいは、風呂場の中でのくぐもった音というか。それゆえに、この曲本来の持ち味であるどんどん上がって行く高揚感には足りなかったように思う。
前述したとおり、この日の演奏コンセプトはニュー・アルバムの音像をメンバー4人とMacのPCで可能な限り再現するという試みだったように感じた。
セット・リストは、言ってみれば現時点におけるNAADAスタンダードで去年のライブでも繰り返し演奏されて来た楽曲たちである。
このメンバー編成もアンサンブルがかなりこなれて来ており、とりわけコーラス・パートの向上には目を見張るものがあった。個々のプレイでも、なかなかに刺激的な攻めの演奏が聴けてスリリングであった。
ただ、個人的に印象深かったのがRECOのボーカルに感じられたスケールの大きさである。あるいは、歌に込められた意志の強さとでも言えばいいだろうか。
彼女の声が好きで僕はもう5年以上ライブに足を運んでいるけれど、この日のライブを聴いていて、こんなことを思った。
“RECOの歌を聴いていて、やはり彼女の歌が自分にとって特別なものであることを再認識する。特別だと思っているものが、やはり特別であることを確認できるだけで十分じゃないか。それ以上、一体何を求める必要があるというのだろう?”と。
それは、なかなか素敵な気分だった。その夜、実は僕がへとへとに疲れ切った体を引きずってライブ会場を訪れていたとしても、だ。
この日のライブは、かなりの手応えを感じる頼もしいパフォーマンスであった。
ニュー・アルバムももちろん楽しみだが、アルバム完成後に彼らがどのような活動を展開するのか…その辺りにも注目したいと思う。