2014年7月26日公開の田尻裕司監督『こっぱみじん』。
プロデューサーは田尻裕司、脚本は西田直子、企画は須藤正子、キャスティングは石垣光代、撮影は飯岡聖英、美術は羽賀香織、録音は堀修生、編集は田巻源太、制作担当は坂本礼、助監督は山城達郎、衣装・メイクは鎌田英子、予告編音楽はSoRA、ロケ協力は群馬県桐生市・わたらせフィルムコミッション。製作は冒険王、配給・宣伝はトラヴィス。
宣伝コピーは「憧れの彼は私の兄を好きでした」
2013年/日本/DCP/カラー/88分
冒険王は、いまおかしんじ、田尻裕司、榎本敏郎、坂本礼(要するにピンク七福神のうちの四人)による映像制作会社であり、本作が第一回製作作品である。
こんな物語である。
地元の桐生市で新米美容師をやっている瀬戸楓(我妻三輪子)は、これといった目標もなく同業の彼氏とも惰性でずるずると付き合っている。何らモチベーションもないまま生きている楓は、当然の如く美容師としてもなかなか上達せず、同期で入った友人がカットを任させるようになってもいまだシャンプーしかやらせてもらえない。彼氏が求めて来ても、あれこれ口実をつけていまだ深い関係を避けている。
要するに、何もかも中途半端な毎日だ。
そんなある日、幼馴染で楓の憧れの人・小田拓也(中村無何有)が戻って来る。看護師になった拓也は地元を離れたが、6年ぶりに桐生市の病院に移って来たのだ。
小学校時代、拓也と楓の兄・隆太(小林竜樹)は同級生で親友同士だった。楓は、兄と拓也と一緒に遊ぶことが多く、そのうちに拓也の優しさに惹かれて行ったのだ。
小さな料理店を経営する隆太は、婚約者の今村美乃(野原有希)と同棲中で、美乃のお腹の中には子供がいた。
拓也と再会できたことで、楓の心は浮き立つ。しかも、拓也は仕事に悩む楓の話をちゃんと聞いてくれて、優しく励ましてくれた。いよいよ、楓の拓也に対する想いは強くなって行った。
しかし、拓也には大きな秘密があった。それは、彼がずっと想いを寄せる相手が隆太だということだった。その事実を知った楓は、自分の心を整理することができずに激しく動揺した。
一方、美乃の子供の父親が隆太でないことが分かり…。
あえて音楽を排し、手持ちカメラと自然光のみで撮られた作品である。暗めの画面の中に映し出されるドキュメンタリータッチの本作は、なかなかユニークでほろ苦い女の子の成長譚であった。ややツイストした青春恋愛映画として見ても、悪くない小品だと思う。
言うまでもなく本作の核になっているのは、どっちつかずに宙ぶらりんの毎日を過ごす楓と、ゲイであることを隠して孤独に苛まれながら生きる拓也の今である。
楓→拓也→隆太→美乃という如何ともしがたい一方通行の恋愛、拓也の想いを想いとして受け止める隆太、そんな拓也の気持ちを応援しつつも「好きになった人が、好きになってくれて、一生一緒にいたいって思えるなんて…奇跡だよ」と呟きながら拓也に対する自分の想いもあるがままに肯定しようとする楓…その描き方がナチュラルで、映画を観終わった後には爽やかな切なさが残る。
ただ、その一方で美乃が二股をかけて隆太以外の男の子供を妊娠する展開、しかも隆太に対しては酷い女でありながらもう一人の男にとっては都合のいい女であることにどうにも違和感を覚える。
また、それでも美乃のことを嫌いになれず、彼女に想いをぶつけようとする隆太にも僕はリアリティを感じることができなかった。
田尻が「登場人物たちがまっすぐぶつかっていくというキャラを、今のリアルとして体現できるかどうか」をこの映画で一番の課題にしたのであれば、それ以前に登場人物たちの抱く感情そのものに人間的なリアルを付与できていなければならないと思う。
その意味において、上述した二点が僕には映画としてのご都合主義的な設定に思えてならなかった。それが、本作における不満である。
また、劇中で唐突に緊急地震警報が鳴り出すシーンが挿入される。「震災以降、地震が出て来る映画には抵抗がある」と言いつつ、それと同時に「今、自分が一番感じている現実を外して映画を撮ることがどうしてもできなかった」と田尻は述べている。それが、彼にとっては地震そのものではなく“警報の音の生々しさ”だったのだそうだ。海沿いや東北地方ではなく、警報の音に人々がビクッとする反応を描くのであれば…ということで、ロケ地に桐生川沿いを選んだのだという。
しかしながら、僕は“今”“この時期”にあえて物語の本筋とは関係ない緊急地震警報の音が挿入されることで、そこに作り手的な作為や社会トピックとしての震災の匂いを感じてしまう。もちろん、田尻にそんな思いが微塵もないことだって分かっているが、それでもこの地震警報は素材としてこの映画に中途半端に組み込まれてまっているように思う。僕の個人的な受け止め方としては、ということだが。
役者陣に目を向けると、まず主人公の我妻三輪子の演技に好感を持った。楓の内的な感情のすべてを表情に出してしまうところにはリアルというより過剰さを感じてしまうものの、飾り気のない彼女の雰囲気は悪くない。
そして、中村無何有の演技にもあざとさのようなものがなくて良かったと思う。
個人的には、久しぶりにスクリーンで見た佐々木ユメカが“如何にも”な役をやっていてある種の懐かしさを感じてしまった。
冒険王製作の第二弾作品にも期待したい。