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山本政志『水の声を聞く』

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2014年8月30日公開、山本政志監督『水の声を聞く』




プロデューサーは村岡伸一郎、ラインプロデューサーは吉川正文、脚本は山本政志、撮影は高木風太、照明は秋山恵二郎、美術は須坂文昭、録音は上條慎太郎、編集は山下健治、音楽はDr.Tommy、助監督は野沢拓臣。製作・配給はCINEMA☆IMPACT。
2014年/日本/HD/129分


こんな物語である。

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在日韓国人ミンジョン(玄里)の祖母は、済州島で尊敬を集める巫女だった。しかし、島で起こった悲惨な事件を契機に難を逃れて日本に移住。ミンジョンの母親は日本人の三樹夫(鎌滝秋浩)と結婚した。
ところが、ある日何の理由も言わずミンジョンの祖母は娘夫婦を残して故郷・済州島に戻ってしまう。人間的に問題を抱える三樹夫と別れたミンジョンの母は、韓国に戻った母親のことを怨みながら幼いミンジョンを残して早世した。



東京都新宿区のコリアンタウンの一角。ミンジョンは友人の坂井美奈(趣里)から誘われて、占いを手始めにインチキ巫女を始める。
雑居ビルの一室に大きな水槽を置き、信者から告白を受けるとミンジョンは水の声を悩める人々に伝える…ただそれだけの儀式に過ぎなかったが、口コミで彼女の評判が広がり彼女の元を訪れる信者は増えて行った。当初は軽くひと稼ぎしたら辞めるつもりだったが、いつしかミンジョンと美奈は後に引けなくなる。




ミンジョンのことを聞きつけた広告代理店の赤尾(村上淳)は、彼女に接近。一時はミンジョンと男女関係も持ったが、彼の目的はミンジョンを利用することだった。ほどなく、宗教団体として真教・神の水が設立され、ミンジョン達の活動はより具体的にシステムナイズされて行く。




ブレーンとして教団をコントロールするのは赤尾と彼の同僚、運営をマネージメントするのは美奈、その他にもスタッフとして熱心な信者である宮沢裕太(富士たくや)と依子(西尾英子)の夫妻が加わり、いよいよミンジョンは教祖として祭り上げられて行く。
しかも、いつしか美奈は赤尾と男女関係を結んでいた。

ミンジョンの宗教が信者を集めていることを知って、三樹夫はしばしば金の無心に訪れた。今となっては何もいい印象のない父にミンジョンは借金の申し出を断るが、そんな娘のことを三樹夫は激しく罵った。というのも、彼は闇金から借金を背負っており、ヤクザの高沢(小田敬)から厳しい取り立てにあっていたからだ。
いよいよ追い詰められた三樹夫は、高沢の命令で人を一人殺すことになったが、直前で怖気づいてしまう。業を煮やした高沢は自分でターゲットに手をかけたものの、恐れをなした三樹夫は拳銃で高沢を撃つと逃走した。



行き場を失くした三樹夫は、自分がミンジョンの父親であることは隠して神の水にボランティア・スタッフとして入り込む。ミンジョンからは出て行けと言われるが、三樹夫はすでに他のスタッフや信者たちと懇意になっており、追い出すに追い出せなくなってしまう。そのまま、三樹夫は、神の水に住み込むようになった。
増え続ける信者、教祖としての重圧、インチキ巫女としての自責の念の中で、ミンジョンは苦しむようになる。そんな娘の姿を目の当たりにした三樹夫から「お前も、色々大変そうだな」と同情されるが、そんな父親の言葉に強がることさえできぬくらいミンジョンは疲弊していた。



ミンジョンが行方をくらました。しかし、今日も多くの信者たちと面会のアポイントがある。困った赤尾たちは、ミンジョンが修行に出たことにしてその代役を急ごしらえで信者の紗枝(中村夏子)にやらせる。彼女は、赤尾たちが書いた台本を暗記して何とかその場をしのいだ。




ミンジョンの不在はその後もしばらく続き、始めこそ戸惑っていた信者たちもやがては紗枝のことを受け入れて行った。
しかし、ようやく新体制が軌道に乗り始めたちょうどその時、ミンジョンが教団に戻って来る。
ミンジョンは、彼女自身のルーツを知るべく、祖母のことをよく知る人々のところを訪れていたのだ。巫女としての祖母の話を聞かせてもらううちに、ミンジョンは自分の中にも巫女としての血が流れていることを実感することができた。



自らのルーツを確認したミンジョンは、私を滅してこれからも教祖として自分を慕う信者たちの力になろうと決意した。

ミンジョンが戻って来たことを信者たちは心から歓迎したが、彼女のことを面白く思わない者もいた。紗枝はもちろんのこと、宮沢夫妻や赤尾も教祖としてのアイデンティティに目覚めたミンジョンの強さを煙たく感じていた。

ミンジョンは、自分が信じる正しき信仰の道に邁進しようとするが、彼女が行った野外での祈りの儀式の際に大きな事件が起こり…。



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なかなかユニークかつ刺激的な作品だと思う。
胡散臭い新興宗教を取り巻く人間の思惑が交錯する群像劇のようでありながら、そこに在日韓国人のコミューン、何かに取りすがろうとして集まる人々、済州島四・三事件、現代にも脈々と続く民間宗教の堂とシャーマニズムが交錯する。

登場する人々は、ヒロインのミンジョンを始め、美奈も三樹夫も赤尾も高沢も紗枝もシンジ(萩原利久)も宮沢夫妻もすべてが目の前の欲に忠実な俗物たちである。
彼らはみなそれぞれに利己的で刹那的な生き方に明け暮れしているが、神の水を取り巻く状況が変化するにつれ、ある者は破滅し、ある者は暴走し、ある者は傷つき挫折し、ある者は次の人生を模索する。

人物造形に関していえば、ヒールの側に位置する人々があまりにもステロタイプ的で気になるし、その行動の明快な短絡さも如何にも過ぎるように思う。
ただ、エセ巫女をしていた当時のミンジョンに引き寄せられる人々の姿には「鰯の頭も信心から」的な説得力を感じるし、彼らが翻弄される刹那的で自己愛にまみれた欲望にもある種の現代的なリアリティがある。
それは決して好ましいこととは言えないが、現代の閉塞的な社会状況を映し出す鏡のように思えてしまうのだ。

で、本作に一本筋を通しているのは、やはりミンジョンにルーツ回帰を促す祖母を知る人々との会話の場面と済州島の堂をロケしたシーンである。
これらの映像に、民間信仰の足腰の強さと人が祈り継ぐことの敬虔さが浮かび上がるから、映画の着地点があざとくならないのである。

個人的な感想を言わせて頂ければ、やはりこの映画はミンジョンを演じる玄里の魅力が大きいと思う。物語前半で見せる如何にも現代的な若者としてのミンジョンから、次第に彼女が巫女としてのアイデンティティを獲得して行く姿を玄里は熱演している。




また、彼女に敵愾心を燃やす紗枝役を演じた中村夏子にも不思議な魅力がある。




これで、赤尾や三樹夫や高沢にもっと深い描き方がなされていれば…と、惜しまれる。

いずれにしても、本作は刺激的な意欲作。
僕にとって玄里は今とても気になる女優の一人だが、彼女の資質を見事に引き出した一本である。

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