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牧羊犬旗揚げ公演『國富家の三姉妹』

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2014年11月16日、池袋シアターグリーンBASE THEATERにて牧羊犬旗揚げ公演『國富家の三姉妹』千秋楽を観た。




作・演出:渋谷悠、舞台監督:新里哲太郎、照明:サイトウタカヒコ、美術:Hikaru Cho、音響:下田雅博(劇団リベラトリクス)、楽曲提供:優河、制作:渡辺柚紀代(Beethoven)、ayako、西出実華、製作:牧羊犬。


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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國富家の三姉妹が、10年ぶりに揃った。それは、父である國富正蔵(黒川逸朗)が倒れて病院に搬送されたのがきっかけだった。

長女の國富薫子(森実有紀)は、キャリア・ウーマンとしてかつてバリバリ仕事していたが職場の上司・羽生田(渡邊聡)との不倫が泥沼化して心を病んでしまい、実家に引きこもって随分になる。
三女の國富ふみ(長谷川葉生)も男を見る目がなく、今はホストの伸也(たっぴー:ローレント)に貢いでいる。
唯一結婚している田村知恵子(玄里)は、彼女が子作りを拒否することが原因で夫・裕二郎(橋本仁)との仲が上手くいっていない。

三人の実母はすでに他界していたが、彼女は気性の荒い女性で正蔵とのケンカは日常茶飯事。いったん激すると、母は近くにある物を手当たり次第に夫に投げつけた。三姉妹は、その光景が恐ろしくてたまらなかった。
正蔵はそんな妻との生活に疲れ、次第に夫婦仲は冷え切って行った。そして、彼女が逝去して一年も経たぬうちに、正蔵は娘たちに付き合っている女性がいることを告げた。今から10年前のことだ。
正蔵とは20才も年が離れた茜(藤原麻希)は、薫子とさほど年が変わらない女性だった。

父の再婚が引き金となり、國富家には様々な波風が立ったが結局正蔵は自分の想いを押し切って茜と結婚した。茜は、とにかく酒好きの豪傑で細かいことにウジウジしない性格ゆえ、次第に三姉妹も彼女の存在を受け入れてしまう。
いささか無神経に過ぎるし酒癖も悪いが、根は悪い人間でもなく何と言っても父を大切にしてくれた。流石に、三姉妹は彼女を「お母さん」と呼ぶ気にはなれなかったが。
再婚以来、正蔵は前の妻の命日を三姉妹の誕生日を祝う日と決めて、この日には家族全員が集まることにすると勝手に宣言した。

自分が不倫にハマることなどないと高を括っていた薫子だったが、いざ羽生田との関係が深まると一向に妻を捨てる気配がない彼に苛立ち、次第に関係はギクシャクし出した。結局のところ羽生田が選んだのは妻であり、彼は薫子の元に戻ってはこなかった。
その喪失感は、薫子の心に深い爪痕を残し、そのことがきっかけで彼女は家から出られなくなった。それでも、彼女の首には今でも羽生田から贈られたネックレスがかけられている。あれだけ深く傷ついた関係にもかかわらず、いまだ薫子は過去に縛られ続けていた。
ところが、父の入院でバタバタしているこの家に、こともあろうに羽生田が訪ねて来る。彼は妻と別れており、独り身の寂しさから薫子の元を訪ね当てたのだった。玄関先で許しを請う羽生田を拒絶し、薫子は彼のことを激しく罵った。なす術なく、羽生田は帰って行った。

薫子とふみには告げていなかったが、知恵子は裕二郎と別居していた。知恵子は、三姉妹のうちで一番母親似だった。
かつて、母親が荒れた時に「自分は、母親になんてなりたくなかった」と暴言を吐いたことがあった。その言葉は、それ以降ずっと知恵子のことを縛り続けていた。「自分は、あんな母親のようになりたくない…」その考えに彼女は固執した。
結婚した夫は、とても優しく知恵子にベタ惚れだった。結婚する時、彼は知恵子の考えを尊重するからと言ってくれた。だから、決めた結婚だった。
しかし、彼の本心はそうではなかった。裕二郎は、子供の時から人一倍家族を持つことに強い願望を抱いていたのだ。そのことは、結婚以来二人の間にわだかまりとなって現れた。
ついに耐えきれなくなった裕二郎と、自責の念にかられて夫につい残酷な言葉をぶつけてしまう知恵子。

冷え切った夫婦関係は互いの心を蝕んで行き、いつしか裕二郎は新興宗教に走ってしまった。それが原因で、彼女は家を出たのだ。
家を出るには、安い物件を探す必要がある。そこで、知恵子が相談したのが茜だった。しかし、茜は知恵子が別居していることを今日、見舞いから戻ると酒が入っていたこともあって他の二人にバラしてしまう。薫子もふみも驚きを隠せず、知恵子は腹を立てた。
おまけに、茜は知恵子の胸が以前よりも大きくなっていることを指摘した。知恵子は、妊娠していたのだ。薫子もふみも言葉すら出なかった。

ふみは、入院して弱っている父を自分と一緒に見舞って欲しいと貢いでいる伸也に頼む。自分が今ちゃんと付き合っている恋人がいると紹介すれば、父も安心してくれると考えてのことだった。面倒臭がる伸也を、ふみは五万円で買った。

薫子の様子がおかしいのでどうしたのかと知恵子が尋ねると、薫子はしつこい宗教の勧誘があったのだと嘘を言った。それを真に受けた知恵子は、そういう輩は徹底的に撃退しなきゃダメだと語気を荒げた。知恵子の脳裏に浮かんだのは、もちろん裕二郎のことだった。
一方のふみは、姉の元をかつての不倫相手が訪ねてきたことに気づいていた。家から立ち去る羽生田の姿を目にしたからだ。かつて、姉が羽生田と仲睦まじく一緒にいるところをふみは目撃したことがあり、男の存在を覚えていたのだ。

その日、久々に再会した三姉妹と茜は、互いの距離を手探りするように微妙な空気感の中で過ごした。しばらく酒をやめていた茜は、この日はかつての酒豪が蘇ったように飲んでいた。
彼女が酒をやめたのは、正蔵が体調を崩して酒が飲めなくなったからだったが、この日弱った夫を見て、飲まずにはいられなかった。彼女は彼女で、深い悲しみと戦っていたのだ。

翌日、再び羽生田が國富家の周りをうろうろしていた。本当の事情を知らない知恵子は、ここぞとばかり羽生田を家に入れて詰問した。当然のことながら、羽生田には知恵子の話がさっぱり分からない。
家の中が騒がしかったので、薫子が居間に出て行くとそこに羽生田がいて凍りついた。ちょうど間が悪いことに、ふみが伸也を連れて来た。薫子と知恵子の予想をはるかに超えて、伸也はガチガチの軽薄ホストそのものだった。

動揺する薫子と彼女のネックレスを目にしてその真意を正そうとすがる羽生田、マイペースに家の中を混ぜ返す伸也と國富家はカオス状態だった。
そこに、病院から電話が入る。正蔵の意識がなくなったので、すぐ来てほしいとのことだった。慌てて支度する四人。茜はタクシーを呼んで来たが、やはり薫子はい玄関から出ることができなかった。何とか姉を連れ出そうと試みた知恵子とふみも、結局は諦めて病院に向かった。
ふみは伸也に一緒に来てほしいと頼んだが、伸也は意識がないのなら行ってもしょうがないから留守番していると面倒臭そうに言った。結局、家には薫子と羽生田と伸也の三人が残った。

羽生田は、ここぞとばかりにもう一度自分とやり直してほしいと薫子に懇願した。羽生田は、一方的にまくしたてるとアニエスベーの小さな箱を残し、近所のビジネスホテルで一晩中待っているからと言い残して出て行った。
しばらくはその光景を眺めていた伸也だったが、やがて退屈して居眠りを始めた。

正蔵は何とか持ち直し、三人は帰宅した。ふみは約束の五万円を渡すと、自分と一緒に見舞ってくれなかったことをなじって伸也を追い出した。彼女は、意を決して伸也のメモリーをスマホから消去した。
気がつくと、薫子の姿が見当たらなかった。激しく動揺する二人だったが、知恵子が携帯に電話すると、薫子が出た。近所で買い物をしているとのことだった。
数年も家から出られなかったというのに…二人が驚いて顔を見合わせていると、買い物袋を重そうに下げた薫子が帰って来た。

薫子は、必死に頭を下げる羽生田の目を見ているうちに、あんなに心にわだかまっていた羽生田の存在がどんどん小さくなって行くように思えたのだと言う。彼女の呪縛は解かれ、薫子はまた発作に襲われないかと冷や冷やしつつも外出してみたのだ。そして、彼女はネックレスを処分したが、ついた値はたったの千円だったと笑った。

薫子は、ケーキを買って来ていた。父親の病状が急変した日になんだが、出来れば知恵子の妊娠を祝いたいと。その言葉を聞いて、知恵子の顔がにわかに曇った。それだけは、やめてほしいと彼女は言った。自分のお腹の中にいるのは、裕二郎のとの間にできた子ではないし、実は誰が父親かも分からないのだと。
裕二郎が宗教と関わるようになって以来、知恵子はその現実から逃避するためにクラブ通いにハマった。激しいビートに合わせ我を忘れて踊っていると、たくさんの男たちが彼女に寄って来た。もちろん、体目当てであることも分かってはいたが、その時の知恵子は誰かから求められることがただただ嬉しくて、誰かれ構わず男と関係を持った。
妊娠が分かった時でさえ、これで避妊する必要がなくなったと考えたほどだった。彼女も、また病んでいたのだ。いまだ、知恵子は子供を産むのか堕ろすのか決めかねている。
結局、ケーキはホストとの関係を断ったふみを祝うための物になった。

薫子は、ちゃんと引きこもりを卒業することができたら、ボランティアを始めようと思っているのだと言った。美術館に足を運ぶ盲目の人をサポートするために、絵の解説をするスタッフをやりたいのだと言った。
そんな仕事があるのかと、知恵子とふみは驚いた。ためしに聞かせてほしいと言って、二人は目を閉じた。
薫子は、二人に美術書の絵をイメージ豊かに語った。

その時心にイメージした絵の素晴らしさを、後年知恵子は何度も生まれてきた息子(島本将司)に何度も語って聞かせた。知恵子は、単身宗教団体に乗り込むと裕二郎を奪還した。ふみの貢ぎ癖はしばらく治らなかったものの、徐々にその額は減って行ったという。

ケーキを囲んでいる三姉妹。ろうそくに灯をともすと、「願い事は決まったか?」と正蔵が尋ねる。いつも最後までぐずぐずしているのは、決まってふみだ。
皆が決めたと言って目を閉じ、灯されたろうそくの炎を一気に吹き消した…。

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いささか問題のある母親と父親の元に生まれた三姉妹の半生を描いた家族劇。フォーカスされているのは、正蔵の再婚前後と現在とを対比するここ10年間のことである。

10年の歳月の流れを表現するために、劇中やたらと「トリビアの泉」ネタとか初代iPodが強調されるコミカルなシーンがあるのだが、10年前の時代性よりもくすぐりの感覚の方にこそ古さを感じてしまう。この辺りについては、もっと風景的にサラッと時代を演出する方がよほどこの劇には適しているように思う。
また、笑いといえば酔った茜の武勇伝として郵便屋がその奇行について語るシーンがあるのだが、正直このシーンも必要とは思えない。喜劇的な側面に、もう少し洗練が必要ではないか。

物語的に見ると、感情にむらが激しくいささかエキセントリックだった母親の存在が三姉妹と父親それぞれに今でも影を落としているのだが、その影の描き方が深みに欠ける。
一番母親似だった知恵子が子供を作ることに拒否反応を持っているのはいいが、上司との不倫が原因で10年間引きこもる薫子とホストに貢ぎ続けるふみは、いささか造形が短絡的に過ぎると思う。
その他の部分も含めて、心の痛みの発露として描かれるエピソードが概して表層的に映るのだ。

また、正蔵、裕二郎、羽生田のキャラクターが、何とか強く生きようとしている三姉妹と対比する形でステロタイプ的ダメ男に描かれているところももどかしい。逞しい女と弱い男というシンメトリーに、どうしても類型的なものを僕は見てしまうのである。
その中にあって、ホストの伸也の描き方は突出してよかった。いささか登場シーンを引っ張り過ぎているのが冗長であるにせよ、彼の突き放したドライさと身も蓋もないバカバカしさは、優れて演劇的だと思う。演じているタッピーがお笑いを中心に活動している人であること大きいだろう。

役者陣に目を向けると、三姉妹を演じた女優たちはそれぞれに魅力的だが、その中でも玄里の演技には唸ってしまった。いささか定型的な女性像ともいえる知恵子であるが、彼女を演じる玄里を見ていると、役がリアルに血肉化されているのである。



また、三姉妹の中で一番ナイーブな存在ともいえるふみを演じた長谷川葉生の佇まいにも惹かれるものがあった。



その一方で、ベテランの黒川逸朗の芝居が粗っぽいように思う。ところどころ科白がつかえるのも気になった。
それから、導入部と後半でナレーションを入れる島本将司の喋りがぎこちなく、特に導入部では興を削がれる思いだった。

力作ではあるし旗揚げ公演としては健闘しているが、もう少しドラマ的な深みを望みたい舞台であった。
個人的には、玄里の演技を目の前で観ることができたのが大きな収穫であった。今後の活動がとても楽しみな女優である。


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