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コマイぬ よん吠えめ「葉桜/命を弄ぶ男ふたり/驟雨」@Gallery&Space しあん

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2014年11月28日ソアレ、上野御徒町Gallery&Space しあんにて、コマイぬ よん吠えめ(第四回公演)「葉桜/命を弄ぶ男ふたり/驟雨」を観た。




作:岸田國士、演出:元田暁子(DULL-COLORED POP)、STAFF:海野広雄(オフィス櫻華)・中道翔子、協力:黒色奇譚カナリア派・DULL-COLORED POP・悪い芝居・オフィス櫻華・EPIGONEN・成富紀之・力武修一・窪田壮史・ARTON
初出は、「葉桜」が『女性 第九巻第四号』(1924年4月1日発行)、「命を弄ぶ男ふたり」が『新小説 第三十巻第二号』(1925年2月1日発行)、「驟雨」が『文藝春秋 第四年第十一号』(1926年11月1日発行)。

コマイぬとは、主宰の芝原弘(黒色奇譚カナリア派)が彼の故郷である石巻に芝居を持って行くことを目途に立ち上げられた企画である。
会場のしあんは、台東区東上野に位置する築60年の民家をギャラリー&スペースにしたもの。ちなみに、オーナーは建物2階に住んでいるそうである。確かに、感覚としては人の家で芝居を観ているようで何やら不思議な面持ちであった。




『葉桜』
出演 娘:若林えり(DULL-COLORED POP)、母:ほたる
見合いを済ませた娘とその母。相手の男は、一体どう思っているのか。煮え切らぬ態度に母親は色々と詮索して娘を問い質す。どうも娘はまんざらでもない様子だが、母親はこの縁談に気乗りではない様子だ。
それは、娘大事さからか、はたまた見合い結婚で苦労した自分の轍を踏ませたくないからか、それとも…。

『命を弄ぶ男ふたり』
出演 学者:芝原弘、俳優:渡邊りょう(悪い芝居)
鉄道線路を前にして、偶然遭遇した男二人。一人は眼鏡をかけた若者で、一部では名の知れた役者だと言う。もう一人は顔中包帯でぐるぐる巻きにした男で、彼は応用化学の研究者だと言う。
役者は相思相愛の娘をとある誤解から傷付けてしまった上に、それが原因で娘は体まで病み他界。化学者は、人造ダイヤモンドの発明実験中の事故で重度の火傷を負ってしまい醜い顔になったが、許嫁はそんな彼を温かく受け入れてくれる。役者は罪の意識にかられ、学者は許嫁の優しさを欺瞞だと苦しみ、共に自殺を図ろうとするが…。

『驟雨』
出演 義兄:芝原弘、姉:若林えり、妹:金子侑加
見合いの相手と結婚した娘。しかし、彼女は夫の無神経にほとほと嫌気がさし、新婚旅行中にもかかわらず姉の家へと戻って来てしまう。姉は何とか妹をなだめようとするが、妹は夫への不満を並び立てて、実家のある大久保に出戻ると言って聞かない。
そこに姉婿がやって来て、二人して妹の言い分に耳を傾けるが、そのうち姉の方も妹の繰り言が夫に対する自分の思いと重なって来て、何やら今度は姉夫婦の雲行きが怪しくなって行く…。


岸田國士の古典的な掌編戯曲三篇を、それぞれ45分間にまとめた芝居である。実際の岸田脚本では独立した作品だが、この舞台ではそれぞれを関連させて舞台転換している。
具体的に言うと、「葉桜」に登場する娘が「驟雨」における姉であり、見合い相手だった男が彼女の夫として登場する。その布石として、「葉桜」で母親が語る話の中に妹のことが触れられている。
また、「命を弄ぶ男ふたり」のエピソードが、ここでは姉婿のうたた寝の夢の中の話(彼は学者の方)として設定されている。

優れた演劇におけるひとつの醍醐味は、物語が提示する時代や世界、あるいはそこに登場する人物たちの息吹を、時空を越えて客席から共有できることにあると考えるが、その意味において今回のコマイぬの舞台も間違いなく優れたものであった。
作品が書かれた1924年から26年を元号にすれば、大正13年から15年ということになる。関東大震災が起きたのが、1923年9月1日。冒頭に書いたとおり、芝原弘がコマイぬを立ち上げたきっかけは東日本大震災にある訳だから、いわば取り上げるべくして取り上げられた三作品と言っていいだろう。

舞台を構成する重要な要素には当然劇場というハコもある訳だが、この舞台においてはまさしく“場の磁力”としか言いようのないものも作用していたように思う。
ほとんど自宅居間で演じられる印象の舞台であるから、舞台装置といえば家具くらいという至って簡素なものである。しかし、その簡素さとこのギャラリーが持っている佇まいこそが、最高の舞台装置に他ならない。
そして、それぞれの物語を演じる役者たちがまた魅力的である。皆しっかりとスキルが備わっており、岸田戯曲の書かれた時代から抜け出して来たような空気を纏って、平成の今に大正末期の世界を現出させてくれるのだ。
部分的に見ればところどころ芝居に硬さもあるし、劇場を午後10時までに撤収しなければならないという時間的制約から尺配分に性急さを感じるところもあるにせよ、物悲しさとアイロニーと可笑し味を持った強靭で普遍的な岸田戯曲を堪能できる舞台であった。
「命を弄ぶ男ふたり」に出演した渡邊りょうは、体調不良で降板した和田千裕の代役として急遽キャスティングされたと言うのだから、驚きである。
個人的には、主宰である芝原のテンポある芝居に惹かれた。

出演者の話によると、当初は原作の中に現代性も取り入れようと試みたらしいが、結局は原作の世界観に戻って行ったそうである。また、僕が観た二日目のソアレとその前の2回では違ったテイストだったらしいので、それぞれの公演で観たお客の印象もまた違ったものになっていることだろう。
それもまた、芝居ならではの楽しさである。

本公演は、なかなかに面白い舞台であった。
今回見逃した方は、2015年6月4日から7日に同じGallery&Space しあんで予定されているご吠えめ「豊の午後」~萩原伸次戯曲選に足を運ぶことをお勧めする。

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