2014年/カラー/シネスコ/ステレオ/86分/Blu-ray上映
2010年に森川自身が演出した舞台の映画化。その舞台では、Mariko役で本作にも出演している栗林里莉が綾瀬まさみ役を演じていた。監督曰く、全員にモデルがいる思い入れの強い作品だそうである。
なお、本作はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015のオフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得した。
こんな物語である。
AVの撮影現場。ドラマ物の撮影ということで、出演女優は5人。撮影には使用しない狭い空き部屋をメイクルームにして、メイクの都築恭子(森田亜紀)は慌ただしく準備を始める。助監督・加藤(田嶋高志)の話ではメイク見習いがヘルプで来るというが、当てにならない。
スタジオのセッティングも進んでおり、とりあえず恭子は自分一人で何とかするしかないと溜息をついた。現れた女性をメイク見習いだと思い恭子は指示出しするが、彼女は出演者の一人で企画女優のシュガー(住吉真理子)だった。恭子は、平謝りして彼女のメイクを始めた。
続いて現れたのは、やたら身長が高くルックスは冴えない霧島早紀(大迫可菜実)で、彼女もメイクではなく売れない企画女優だった。セッティングが終わったと言って、監督(酒井健太郎)は恭子にプレッシャーをかけてくるが、この人手不足は如何ともしがたい。
やっと二人のメイクが終わり衣装に着替えさせると、女子高生役のシュガーの背中には一面見事な刺青が。これでは、セーラー服など無理だ。監督を呼んで、急遽二人の役を交換。出だしから、このハプニング。おまけに、主演の単体女優は彼氏バレしてマンションから出られないと連絡が入る。
マネージャー(那波隆史)に連れられてようやく現れた綾瀬まさみ(伊東紅)は、大遅刻したというのに憮然とした表情で態度も大きい。何とかなだめつつ恭子がメイクを始めると、昨夜ほとんど寝てないと言ってまさみは船を漕ぎ出す。仕方なく、彼女を寝かせたままメイクを施す恭子。
すると、今度は企画単体のMasako(栗林里莉)が入って来た。一度は引退した元単体女優で、恭子は彼女と仕事したことがあり、何となく気分が和んだ。
として、最後にやって来たのは今日がAVデビューでガチガチに緊張している女の子(川上奈々美)。同行したマネージャー(柴田明良)は、いまだ芸名が決まっていないという。
撮影はトラブル続きで押しまくり、キャストもスタッフも苛々が募っていく。ひたすら翻弄されつつ、AV女優達からは色々な話を聞かさせる恭子。
果たして、撮影は無事に終わるのか…。
森川圭は、これまでに1000本以上のAVを監督・撮影した人だそうである。その経験を生かしたリアリティ溢れる脚本で、映画はテンポよく物語を畳みかけて来る。基本的には秀逸なホンあっての作品だと思うが、そつのない演出で一切飽きさせない。
また、森川は劇団ストレイドッグと業務提携している。本作の企画・製作が有限会社ストレイドッグプロモーションであり、出演者にストレイドッグの劇団員が多いのもそのためだろう。
ちなみに、ストレイドッグに所属している出演者は、森田亜紀、住吉真理子、酒井健太郎、那波隆史、蒲公仁、佐藤仁、重松隆志、柴田明良、中原和宏である。
女優陣のうちAVからの出演は、伊東紅、栗林里莉、川上奈々美。
もちろん、ドラマ的カリカチュアも多分にあるだろうが、森田亜紀のナチュラルな演技と伊東紅、栗林里莉、川上奈々美のAV女優陣の説得力ある生々しさが絶妙な空気を作っていて引き込まれる。そこに絡む住吉真理子と大迫可菜実もいいアンサンブルである。
これといったドラマはないが、そのドラマのなさこそが本作における映画的息遣いだろう。同じくAVの現場を扱いゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014に出品された池島ゆたか監督『おやじ男優Z』 の過剰に情緒的なファンタジーとは対極にある作品であり、撮影現場の描写にしてもさりげないリアリティを感じさせる。まさに、とあるAV現場の裏側を追ったドキュメンタリー風なのだ。
ただ、である。
面白いし、よくできた作品だと思うのだが、正直に言って最初から最後まで映画を観ている気分にはなれなかった。最初のシーンを観た時から、「これは、舞台だよ…」と強く思ったからだ。
この作品を観た時点で、僕にはゆうばりでグランプリを獲ったという前知識しかなかった。つまり、本作が舞台の映画化であるとは知らなかったのだが、演出の仕方、カメラのアングル、空間の使い方、役者の演じ方に至るまで、とにかく舞台的な空間から逸脱しない。
ワンシチュエーション・コメディとはいえ、ワンカット長回しの例を出すまでもなくそこに映画的必然性のある演出法はいくらでもあると思うのだが、この作品には舞台をあえて映画化してまで森川が表現したかったことがどうしても伝わって来なかった。
繰り返しになるが、よくできているし悪くない作品である。だからこそ、映画的に観た時のもどかしさが払拭できなかった。
観ている最中、「あぁ、これを舞台で観てみたいなぁ…」という思いがどんどん募って行った訳だ。
実際に舞台がオリジナルだと知って、その思いはさらに強くなった。困ったものである。
本作は、良作の一本ではある。
しかし、森川監督にはもっと映画的な新作を是非撮ってもらいたいと思う。