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坂本礼『乃梨子の場合』

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2015年3月28日公開の坂本礼監督『乃梨子の場合』




企画は朝倉大介、プロデューサーは高津戸顕・森田一人・臼井一郎・朝倉庄助、脚本は尾上史高、撮影は鏡早智、録音は弥栄裕樹・清水裕紀子、楽曲提供は宇波拓、編集は蛭田智子、助監督は高杉考宏、MAはシンクワイア。製作はV☆パラダイス、インターフィルム、アイ・エム・ティ、制作は国映株式会社。
2014年/カラー/71分/デジタル/R15+


こんな物語である。

乃梨子(西山真来)の父親はアルコール中毒で、母親は男を作って家族を捨てた。家庭環境に恵まれず、彼女は少女時代に万引きで2度ほど捕まったこともある。
家族の愛情を知らぬままに育った乃梨子だが、彼女の過去を知ってもなおかつ受け入れてくれた警察官の夫・響一(川瀬陽太)と幼い一人娘を得て、今は慎ましいながらもごく平凡で幸せな暮らしを送っていた。




ところが、そんな幸せの日々は呆気なく失われる。乃梨子に一言も相談することなく、響一は一年前に警察を辞めていたのだ。しかも、夫は退職金も使い果たしており、貯金は底をついていた。
別れるつもりはなかったが、乃梨子のパート収入だけでは家族三人とてもやっていけないことも明らかだった。




途方に暮れる乃梨子に、ある時パート先のスーパーに佃煮を卸している戸高(吉岡睦雄)が声をかけてきた。どうやら気のある風の戸高は、これまでにも何度か乃梨子を誘っていた。今回の誘いを乃梨子は受けた。もちろん、戸高は大喜びだ。




初めてのデートで、乃梨子は戸高に援助交際を切りだす。一瞬言葉を失った戸高だったが、それでも乃梨子への想いは捨てがたく、彼はその申し出を受け入れた。決して、安い額とはいえない。


佃煮職人としては実直な戸高だったが、母親(伊藤清美)は一人息子がいつまでも独身でいることを心配していた。母親に紹介された見合い相手・亜紀(和田光沙)と会った戸高は、自分の趣味はセックスだと言い放つが、それなら自分とは趣味が合うと予想だにしない返事が返って来る。
戸高は、乃梨子との援交を続けながら同時に亜紀とも会うようになった。



響一は、現場作業員の仕事を見つけて働くようになったものの、生活は苦しいままだった。戸高はいよいよ乃梨子との関係にのめり込んで行ったが、亜紀は戸高と一緒に佃煮を作りたいと迫った。




一方、戸高の母親は息子の様子がおかしくなったことに不安を覚えていた。仕事も上の空だし、とにかく金遣いが荒くなったからだ。ところが、息子は「大丈夫だから…」としか言わない。

そんなある日、戸高は乃梨子から妊娠したと告げられるが…。


新生国映の新作は、ピンク映画『いくつになってもやりたい不倫』(新東宝映画)以来5年ぶりとなる坂本礼監督作品であった。ちなみに、吉岡睦雄はその前作にも出演している。
ピンク映画に端を発して、そこからポレポレ東中野のレイトショーに公開の場を移して発表される作品の多くがそうであるように、坂本久々の新作も非常にミニマルな限定的世界の中で語られる閉塞感漂う物語である。もちろん、低予算という根源的な制約があるにせよ。

ただ、この作品には諦念にも似た虚無感と何とかそこから脱出しようという生の力強さとの相克があって、何とも不思議な空気を纏っている。
閉塞感を漂わせながらも、そこに風穴を開けようともがく人々の苦悶や日常の営みが描かれているところに、本作の映画的力があるように思う。

この作品を牽引するのは、時には脆い女であり、時には悪魔的な女に変貌する乃梨子というアンビバレントな女性を熱演する西山真来の存在感である。特に、目の表情の雄弁さがとても印象に残る。
そして、物語が殺伐とした陰鬱な世界に沈み込まないのは、響一という男が後半に見せる妻への優しさと包容力のようなものを川瀬陽太が見事に演じているからだろう。



僕が本作に物足りなさを感じるのは、乃梨子に耽溺した結果身を滅ぼしてしまう戸高という男の描き方がやや中途半端に思たからである。
すべて説明的に描写する必要はないし、理屈云々以前に麻薬的に溺れてしまう人生のブラック・ホールはそこかしこに口を開けて待っているのかもしれない。ただ、ハマり込む闇の深さに比して、元来が真面目な市井の人である戸高という男の破滅への過程が淡白に過ぎるのではないか。

幾つかの物や人が失われ、あらゆる問題は棚上げにされたまま、物語は何の解決も見ぬままにあっさりと終幕する。むしろ、この先、乃梨子や響一を待っているのは、新たな闇だけかもしれない。
しかし、隣に響一の姿がなく、穏やかな日差しの中で一人ポツンとラブホテルのダブルベッドに残された乃梨子の姿には、何処か不思議な解放感が漂う。とても印象深い、いいシーンである。
このラストシーンの余韻こそが、本作の成果かもしれないな…と個人的には思う。


坂本礼久々の新作は、なかなか手応えを感じる力作である。
ただ、そろそろ “その先”の物語を観てみたいと思ってしまうのも、また事実である。


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