奈賀毬子が旗揚げした劇団肯定座の第1.5回公演『スペインの母A』千秋楽を池ノ上のシネマボカンで観た。何故に1.5かというと、今回は上演時間40分の短編だからである。
作・演出は太田善也(散歩道楽)、チラシ写真は宮坂恵津子、HP制作は斉藤智喜、制作は中田伸也(肯定座)・肯定座制作部、協力はいちカフェ・散歩道楽・スターダストプロモーション・タテヨコ企画・(有)モストミュージック。企画・製作は肯定座。
こんな物語。役名が分からないので、役者名で書きます。
深夜も一時を回り、お客が帰った池ノ上のBar GARIGARI。閉店後の店内に残っているのは、この店を姉とやっている奈賀毬子(肯定座)、菊池美里、渡辺謙好きの久行しのぶ(タテヨコ企画)、福原舞弓。
コンパは期待外れだったと、まったりしゃべっている女たち。当然、話題は男のことだ。四人の中で一番若い舞弓を相手に、妙齢の御婦人たち三人は男の勃起について力説している。
興味深げに聞いていた舞弓は、唐突に「せんずりって、何ですか?」と質問して三人を退かせる。
話題は舞弓個人のことに移り、三人は「彼氏、いるの?」と突っ込み始める。しばし口を濁した後に、舞弓は最近付き合い始めたことを打ち明ける。しかし、些細なことから今はケンカ中だという。
そこから話題は、今夜のコンパにいたハズレ男に移る。中でも、とても濃い顔をした男が一人いて、四人は彼をジロー(ラモ)と名付けた。
当初はガシガシ舞弓にアプローチしていたジローは、相手にされず美里のところに移った。しかも、何と二人は意気投合したようだった。
意外や意外、ジローのことを悪く言わない美里。これは事件だとテンションの上がったしのぶは、「男の気を惹くためには料理だ!」と言って、毬子が止めるのも聞かず店のキッチンに入って行く。どう考えても、しのぶより美里の方が料理上手に決まっているのだ。
ジローと付き合うことを舞弓は頑なに反対する。彼女は自分に付きまとう男が煩わしくて、ジローを美里に差し向けた張本人だった。舞弓は、そのことが引っ掛かっていたのだ。
強硬にジローとのことを反対した後、バツが悪くなったのか舞弓もトイレに席を外す。
二人きりになると、毬子と美里はさっきまでとまったく違った空気を纏う。「今日、うち来る?」「そうだな…」。そして、二人は口づけした。その光景をトイレから出て来た舞弓が見て、言葉を失う。
と、そこに何も知らないしのぶが、得体の知れない料理を作って戻って来る。
彼女は料理を毬子の前に突き出し、毬子は顔を歪めてその料理を食べるのだった…。
僕は、奈賀毬子さんのことをピンク映画で知った。その彼女が旗揚げした劇団・肯定座。その第一回公演『暗礁に乗り上げろ!』(2012)は、観た人の多くが称賛の声を上げていた。ちなみに、作・演出は『スペインの母A』と同様太田義也だ。
僕は、観ることが叶わなかった(知ったのが遅すぎたのだ)から、次の肯定座公演を首を長くして待っていた。
第1.5回公演という微妙な位置付けとなる今回公演。奈賀毬子は、客席と近い距離・安い料金で公演を打ちたいという思いから今回の公演を決めたようである。
そんな訳で、会場は池ノ上シネマボカン(Bar GARIGARI)、公演時間40分。要するに、お店そのものを使ったメタフィクション的ガールズトークを観客に覗き見気分で観劇してもらおう…といった趣向である。
客入れの際には、店内に設えられた小型スクリーンに女優四人で赴いた鎌倉の映像が流されていた。
では、舞台の感想を。
尺40分の小品ということもあるが、個人的には煮え切らず物足りない芝居であった。やはり、念頭に『暗礁に乗り上げろ!』の評判があった…というのもあるにせよ。
いきなり「勃起」だの「せんずり」だのと下ネタで始まって、女優四人が服をたくし上げてお互いのブラを見せ合う(福原舞弓の姿に、ドキドキしてしまった)パンチあるスタートを切った物語は、徐々に失速して行き、まったりとした停滞から、うやむやな終幕を迎える。そんな40分である。
この作品は、本家の散歩道楽でも幾度も公演されて好評を博したもの。僕は観ていないので比較できないが、少なくとも今回公演では何ともシャープさに欠けていたと思う。ショート芝居はスピードや空気の一体感が命だと僕は考えるが、今回公演にはそのどちらもなかった。
それは、舞台進行がまったりしているから…という理由ではなく、見せたいものの焦点がボケていて、観ていて弛緩するということである。40分の体感時間が長い。
女四人の会話劇に、気持ちが入らないのである。
通して観れば、最初の下ネタ談義には何の脈絡もないし、ブラ見せもお客へのサービスでしかない。その後に展開する話からすれば、枕にもならない掴みに過ぎない。40分の尺で冒頭がこれでは、必然的にダレてしまう。
とりわけ、三人の女優がまったりと寝そべりながら気だるげにやり取りする個所の意図が不明であった。
物語としては、舞弓の彼氏話、毬子としのぶのちょっとした軋轢、ジローと美里の関係と来て、レズカップルでツイストする訳だが、毬子と美里の秘められた関係があるのならジローと美里とののろけチックな件は一体なのなのか?という違和感が拭えない。
ブラック・ジョーク的な毒にも昇華されていないように思う。エピソード的には、もっと描くべきことがあるように感じた。
また、女たちのコミカル(を狙った)会話のネタ的くすぐりが弱く、笑えないのも辛かった。ここで乗れれば、舞台の印象無随分と変わったと思うのだが。
女優四人はそれぞれに魅力的だし、中でも福原舞弓の若々しさは買いだけど、舞台としてはどうにも食い足りない。やはり、「あっ!という間の40分」でなければ…。
ただ、肯定座は年内にもう一本公演が予定されている。第二回公演を待ちたいと思う。そちらに期待したい。
もちろん、僕は観に行こうと思っている。
こんな物語。役名が分からないので、役者名で書きます。
深夜も一時を回り、お客が帰った池ノ上のBar GARIGARI。閉店後の店内に残っているのは、この店を姉とやっている奈賀毬子(肯定座)、菊池美里、渡辺謙好きの久行しのぶ(タテヨコ企画)、福原舞弓。
コンパは期待外れだったと、まったりしゃべっている女たち。当然、話題は男のことだ。四人の中で一番若い舞弓を相手に、妙齢の御婦人たち三人は男の勃起について力説している。
興味深げに聞いていた舞弓は、唐突に「せんずりって、何ですか?」と質問して三人を退かせる。
話題は舞弓個人のことに移り、三人は「彼氏、いるの?」と突っ込み始める。しばし口を濁した後に、舞弓は最近付き合い始めたことを打ち明ける。しかし、些細なことから今はケンカ中だという。
そこから話題は、今夜のコンパにいたハズレ男に移る。中でも、とても濃い顔をした男が一人いて、四人は彼をジロー(ラモ)と名付けた。
当初はガシガシ舞弓にアプローチしていたジローは、相手にされず美里のところに移った。しかも、何と二人は意気投合したようだった。
意外や意外、ジローのことを悪く言わない美里。これは事件だとテンションの上がったしのぶは、「男の気を惹くためには料理だ!」と言って、毬子が止めるのも聞かず店のキッチンに入って行く。どう考えても、しのぶより美里の方が料理上手に決まっているのだ。
ジローと付き合うことを舞弓は頑なに反対する。彼女は自分に付きまとう男が煩わしくて、ジローを美里に差し向けた張本人だった。舞弓は、そのことが引っ掛かっていたのだ。
強硬にジローとのことを反対した後、バツが悪くなったのか舞弓もトイレに席を外す。
二人きりになると、毬子と美里はさっきまでとまったく違った空気を纏う。「今日、うち来る?」「そうだな…」。そして、二人は口づけした。その光景をトイレから出て来た舞弓が見て、言葉を失う。
と、そこに何も知らないしのぶが、得体の知れない料理を作って戻って来る。
彼女は料理を毬子の前に突き出し、毬子は顔を歪めてその料理を食べるのだった…。
僕は、奈賀毬子さんのことをピンク映画で知った。その彼女が旗揚げした劇団・肯定座。その第一回公演『暗礁に乗り上げろ!』(2012)は、観た人の多くが称賛の声を上げていた。ちなみに、作・演出は『スペインの母A』と同様太田義也だ。
僕は、観ることが叶わなかった(知ったのが遅すぎたのだ)から、次の肯定座公演を首を長くして待っていた。
第1.5回公演という微妙な位置付けとなる今回公演。奈賀毬子は、客席と近い距離・安い料金で公演を打ちたいという思いから今回の公演を決めたようである。
そんな訳で、会場は池ノ上シネマボカン(Bar GARIGARI)、公演時間40分。要するに、お店そのものを使ったメタフィクション的ガールズトークを観客に覗き見気分で観劇してもらおう…といった趣向である。
客入れの際には、店内に設えられた小型スクリーンに女優四人で赴いた鎌倉の映像が流されていた。
では、舞台の感想を。
尺40分の小品ということもあるが、個人的には煮え切らず物足りない芝居であった。やはり、念頭に『暗礁に乗り上げろ!』の評判があった…というのもあるにせよ。
いきなり「勃起」だの「せんずり」だのと下ネタで始まって、女優四人が服をたくし上げてお互いのブラを見せ合う(福原舞弓の姿に、ドキドキしてしまった)パンチあるスタートを切った物語は、徐々に失速して行き、まったりとした停滞から、うやむやな終幕を迎える。そんな40分である。
この作品は、本家の散歩道楽でも幾度も公演されて好評を博したもの。僕は観ていないので比較できないが、少なくとも今回公演では何ともシャープさに欠けていたと思う。ショート芝居はスピードや空気の一体感が命だと僕は考えるが、今回公演にはそのどちらもなかった。
それは、舞台進行がまったりしているから…という理由ではなく、見せたいものの焦点がボケていて、観ていて弛緩するということである。40分の体感時間が長い。
女四人の会話劇に、気持ちが入らないのである。
通して観れば、最初の下ネタ談義には何の脈絡もないし、ブラ見せもお客へのサービスでしかない。その後に展開する話からすれば、枕にもならない掴みに過ぎない。40分の尺で冒頭がこれでは、必然的にダレてしまう。
とりわけ、三人の女優がまったりと寝そべりながら気だるげにやり取りする個所の意図が不明であった。
物語としては、舞弓の彼氏話、毬子としのぶのちょっとした軋轢、ジローと美里の関係と来て、レズカップルでツイストする訳だが、毬子と美里の秘められた関係があるのならジローと美里とののろけチックな件は一体なのなのか?という違和感が拭えない。
ブラック・ジョーク的な毒にも昇華されていないように思う。エピソード的には、もっと描くべきことがあるように感じた。
また、女たちのコミカル(を狙った)会話のネタ的くすぐりが弱く、笑えないのも辛かった。ここで乗れれば、舞台の印象無随分と変わったと思うのだが。
女優四人はそれぞれに魅力的だし、中でも福原舞弓の若々しさは買いだけど、舞台としてはどうにも食い足りない。やはり、「あっ!という間の40分」でなければ…。
ただ、肯定座は年内にもう一本公演が予定されている。第二回公演を待ちたいと思う。そちらに期待したい。
もちろん、僕は観に行こうと思っている。