2015年9月5日、吉祥寺MANDA-LA2で渋さ知らズ劇場のライブを観た。
不破大輔が演奏しているライブは時々観ているのだが、僕が渋さ関係のライブを観るのはかなり久しぶりである。確認してみたところ、2011年3月25日に吉祥寺STAR PINE'S CAFEで「桜満開!渋さ吹雪の宴~渋さ者大集合の宴~」を観て以来だった。随分と時間が経ってしまった。
渋さ知らズ劇場
不破大輔(b)、立花秀輝(as)、山口コーイチ(pf)、磯部潤(ds)、鬼頭哲(bs)、纐纈雅代(ts)、山田あずさ(vib)、北陽一郎(tp)、加藤一平(g)、すがこ(dance:お調子組合)
そんな訳で、この日の感想を。
第一部
1 犬姫のテーマ
各人が音合わせのように楽器を鳴らした後、やがてそれらの音の断片が大海原のような開放感に溢れた音へとまとまって行く。とてもイマジネイティヴで映像的なイントロダクションに引き込まれる。曲の佇まいとしては、70’sニュー・ソウルとスピリチュアル・ジャズを想起させる音像である。
前半の展開にはもう少しストイックな洗練が欲しいように感じるし、演奏がヒート・アップして音圧がぐっと上がった後で聴かせたヴィブラフォンとアルト・サックスの掛け合いももう少し簡潔に聴きたかったかな…と思う。
ただ、そこからヴィブラフォンを中心に据えたアンサンブルに展開した時のカタルシスは、かなりのものだった。山田あずさのチャーミングなヴィブラフォン・プレイと山口コーイチのピアノのフレーズがとても印象的だった。
次は、トランペット中心のアンサンブルでファンキーにグルーヴする。疾走感はあるもののややリズムが重たいように感じていたが、徐々に曲が収束して行った時のアンサンブルの美しさに息を飲む。
山口がフリーで幾何学的なフレーズを奏でると、そのバックでは磯部潤が抜けのいいドラムスで応える。そして、もう一度テーマに戻る。
演奏も終盤に差し掛かると、テナー・サックスの纐纈雅代がスッと立ち上がってアフロ・ファンキーなフレーズをブロウする。彼女を煽るように不破大輔のエレキ・ベースが、アッパーでグルーヴィーな低音を響かせる。
アルト・サックスをフリーキーにブロウする纐纈のプレイも痺れるが、ここで聴かれるようなスケールの大きいメロディアスな演奏も彼女のキャラクターがよく出ていると思う。個人的には、このパートで聴けた完璧と思えるアンサンブルがこの曲のハイライトであった。
2 股旅
アルト・サックスが性急なフレーズをブロウし、ドラムスはタイム感のあるリズムを刻む。エキゾチックな音楽的佇まいと神経症的にエキセントリックな演奏。一見バラバラに感じられた演奏が、ある時点を境にまるでマジックのように一つのうねりとなって美しいサウンドを構築する。そのスリリングさといったら。音の緩急も絶妙だ。
そこに加藤一平のギターが切り込むと、演奏はアフロ・ファンキーに表情を変え、すべての楽器が非の打ちどころのないパーフェクトなアンサンブルを聴かせる。
ヴィブラフォンとピアノがやや長めのアドリブを展開した後、鬼頭哲のバリトン・サックスと纐纈のテナー・サックスが加わり、まるで架空の民族音楽のような調べに変化する。
そこに山田のヴィブラフォンと不破のエレキ・ベースが多彩な音楽的アクセントを加え、音像はダーティ・ダズン・ブラス・バンド的な祝祭感溢れる演奏を展開。それにしても、不破の圧倒的なベースに舌を巻く。
纐纈がタフなアドリブを聴かせ、続いては北陽一郎が繊細なフレーズをトランペットで奏でたかと思うと次第に饒舌なプレイへと加速して行く。とても美しく刺激的な演奏である。
山口がスピリチュアルな旋律を聴かせた後、再び全員による祝祭的なアンサンブルで大団円を迎えた。
第二部
1 行方知れズ
立花秀輝のアルト・サックスがメインの出だしでは、音の隙間を作って風通しのいいアンサンブルを聴かせる。不破は、ウッド・ベースに持ち替えている。広大な大地が目の前に広がっているような色彩感を伴った音が心地よい。次第にテンポ・アップして行き、音の密度が凝縮して行く様は実にスリリングだ。
ブリッジ的に挿入される山田のヴィブラフォンがとてもいいアクセントとなり、そこから演奏はフリーキーさと整合的なアンサンブルを行き来する。夜気を運ぶようなフレーズを加藤のギターが奏でると、ステージにはキャバレー的な猥雑さが漂う。
ロックな調べと何処か懐かしさを感じるスウィンギーなプレイの応酬が、実に刺激的だ。鬼頭のバリトン・サックスが、夜の闇をさらに深くする。北のトランペットを中心に据えた展開になると、性急さと猥雑さを幾重にも重ねる。
ピアノ、ウッド・ベース、ヴィブラフォンによる水晶の如き透徹なプレイから、やがて山口の奏でる旋律を核として大きくうねるようなスウィングが会場を満たして行く。
纐纈がテナー・サックスで大地を踏みしめるような豪放なブロウを披露すると、その音に寄り添うように山田が繊細なヴィブラフォンの音を響かせる。そのコントラストに、目眩すら覚える。
やがて静寂を取り戻したステージは、ヴィブラフォンの透明なふるえにエキセントリックなウッド・ベースと歯切れのいいドラムスが被さる。次第にリズムが整って行き、再びスウィンギーな音像が会場を熱くする。ひたむきにヴィブラフォンを奏でる、山田の表情が美しい。
長尺なドラム・ソロを磯部がパンキッシュに聴かせると、徐々に楽器が加わって冴えわたるアンサンブルが会場を揺らす。すべてのアンサンブルの核をなしているのは不破のベースで、彼の奏でるベース・ランニングの刺激的な疾走感が最高にファンキーだ。
各人がホット・アンド・クールにソロを披露した後、ラストはモンスター・スウィングと形容したくなるユニゾンが痛快極まりない。
2 仙頭
めくるめくスピードでパンキッシュな演奏を披露すると、濃密な二時間のステージは終演。会場には、彼らの演奏でヒート・アップした熱の余韻だけがいつまでも残っていた。
いやはや、最高に刺激的な演奏であった。70年代ニュー・ソウル的なソフィスティケーション、オーセンティックなアフロ・スピリチュアル・グルーヴ、パンキッシュでロック的なスピード感、一糸乱れぬ構築されたスウィング、透明感に溢れた美しいバラードといくつもの表情を見せつつ、トータルとしては渋さ知らズ劇場ならではのオリジナリティに貫かれた音。その音の塊に酔いしれた、至福の二時間であった。
各プレイヤーがそれぞれに個性的な演奏を聴かせても音がブレることなくきっちり収束するのは、やはり不破大輔という稀代のリーダーがしっかりと音楽のイニシアティヴを握っているからだろう。
僕にとって、不破さんのベースは本当に特別である。以前、彼がエレキ・ベースを演奏するライブでフリー・インプロヴィゼーションを聴いた時、初めてトランス状態を体験したことがあった。そんな経験は、その時以降一度も訪れない。
各メンバーの演奏もそれぞれに刺激的だったが、中でも山口さんのピアノと山田さんのヴィブラフォンの音色には、何度もハッとした。
そして、ここぞという時に凛々しくブロウする纐纈さんのテナー・サックスにも胸が熱くなった。今年に入って、纐纈さんのサックスに惹かれて三回ライブを観たのだが、聴けば聴くほど彼女のプレイに魅了されて行く。
繰り返しになるが、「犬姫のテーマ」の最後で聴けた圧倒的なアンサンブルは僕にとってはこの夜の白眉であった。
音楽をカテゴライズすることにどんな意味があるのか…と思いつつあれこれとレビューを書いている訳だが、どんなに言葉を尽くしたとしてもやはり聴かなければ始まらない。
もしこの文章を読んで少しでも興味を抱かれたなら、是非ともライブ会場で彼らの音楽を体験して欲しいと思う。
そこには、最高にエキサイティングな時間が待っているのだから。
渋さ知らズ劇場
不破大輔(b)、立花秀輝(as)、山口コーイチ(pf)、磯部潤(ds)、鬼頭哲(bs)、纐纈雅代(ts)、山田あずさ(vib)、北陽一郎(tp)、加藤一平(g)、すがこ(dance:お調子組合)
そんな訳で、この日の感想を。
第一部
1 犬姫のテーマ
各人が音合わせのように楽器を鳴らした後、やがてそれらの音の断片が大海原のような開放感に溢れた音へとまとまって行く。とてもイマジネイティヴで映像的なイントロダクションに引き込まれる。曲の佇まいとしては、70’sニュー・ソウルとスピリチュアル・ジャズを想起させる音像である。
前半の展開にはもう少しストイックな洗練が欲しいように感じるし、演奏がヒート・アップして音圧がぐっと上がった後で聴かせたヴィブラフォンとアルト・サックスの掛け合いももう少し簡潔に聴きたかったかな…と思う。
ただ、そこからヴィブラフォンを中心に据えたアンサンブルに展開した時のカタルシスは、かなりのものだった。山田あずさのチャーミングなヴィブラフォン・プレイと山口コーイチのピアノのフレーズがとても印象的だった。
次は、トランペット中心のアンサンブルでファンキーにグルーヴする。疾走感はあるもののややリズムが重たいように感じていたが、徐々に曲が収束して行った時のアンサンブルの美しさに息を飲む。
山口がフリーで幾何学的なフレーズを奏でると、そのバックでは磯部潤が抜けのいいドラムスで応える。そして、もう一度テーマに戻る。
演奏も終盤に差し掛かると、テナー・サックスの纐纈雅代がスッと立ち上がってアフロ・ファンキーなフレーズをブロウする。彼女を煽るように不破大輔のエレキ・ベースが、アッパーでグルーヴィーな低音を響かせる。
アルト・サックスをフリーキーにブロウする纐纈のプレイも痺れるが、ここで聴かれるようなスケールの大きいメロディアスな演奏も彼女のキャラクターがよく出ていると思う。個人的には、このパートで聴けた完璧と思えるアンサンブルがこの曲のハイライトであった。
2 股旅
アルト・サックスが性急なフレーズをブロウし、ドラムスはタイム感のあるリズムを刻む。エキゾチックな音楽的佇まいと神経症的にエキセントリックな演奏。一見バラバラに感じられた演奏が、ある時点を境にまるでマジックのように一つのうねりとなって美しいサウンドを構築する。そのスリリングさといったら。音の緩急も絶妙だ。
そこに加藤一平のギターが切り込むと、演奏はアフロ・ファンキーに表情を変え、すべての楽器が非の打ちどころのないパーフェクトなアンサンブルを聴かせる。
ヴィブラフォンとピアノがやや長めのアドリブを展開した後、鬼頭哲のバリトン・サックスと纐纈のテナー・サックスが加わり、まるで架空の民族音楽のような調べに変化する。
そこに山田のヴィブラフォンと不破のエレキ・ベースが多彩な音楽的アクセントを加え、音像はダーティ・ダズン・ブラス・バンド的な祝祭感溢れる演奏を展開。それにしても、不破の圧倒的なベースに舌を巻く。
纐纈がタフなアドリブを聴かせ、続いては北陽一郎が繊細なフレーズをトランペットで奏でたかと思うと次第に饒舌なプレイへと加速して行く。とても美しく刺激的な演奏である。
山口がスピリチュアルな旋律を聴かせた後、再び全員による祝祭的なアンサンブルで大団円を迎えた。
第二部
1 行方知れズ
立花秀輝のアルト・サックスがメインの出だしでは、音の隙間を作って風通しのいいアンサンブルを聴かせる。不破は、ウッド・ベースに持ち替えている。広大な大地が目の前に広がっているような色彩感を伴った音が心地よい。次第にテンポ・アップして行き、音の密度が凝縮して行く様は実にスリリングだ。
ブリッジ的に挿入される山田のヴィブラフォンがとてもいいアクセントとなり、そこから演奏はフリーキーさと整合的なアンサンブルを行き来する。夜気を運ぶようなフレーズを加藤のギターが奏でると、ステージにはキャバレー的な猥雑さが漂う。
ロックな調べと何処か懐かしさを感じるスウィンギーなプレイの応酬が、実に刺激的だ。鬼頭のバリトン・サックスが、夜の闇をさらに深くする。北のトランペットを中心に据えた展開になると、性急さと猥雑さを幾重にも重ねる。
ピアノ、ウッド・ベース、ヴィブラフォンによる水晶の如き透徹なプレイから、やがて山口の奏でる旋律を核として大きくうねるようなスウィングが会場を満たして行く。
纐纈がテナー・サックスで大地を踏みしめるような豪放なブロウを披露すると、その音に寄り添うように山田が繊細なヴィブラフォンの音を響かせる。そのコントラストに、目眩すら覚える。
やがて静寂を取り戻したステージは、ヴィブラフォンの透明なふるえにエキセントリックなウッド・ベースと歯切れのいいドラムスが被さる。次第にリズムが整って行き、再びスウィンギーな音像が会場を熱くする。ひたむきにヴィブラフォンを奏でる、山田の表情が美しい。
長尺なドラム・ソロを磯部がパンキッシュに聴かせると、徐々に楽器が加わって冴えわたるアンサンブルが会場を揺らす。すべてのアンサンブルの核をなしているのは不破のベースで、彼の奏でるベース・ランニングの刺激的な疾走感が最高にファンキーだ。
各人がホット・アンド・クールにソロを披露した後、ラストはモンスター・スウィングと形容したくなるユニゾンが痛快極まりない。
2 仙頭
めくるめくスピードでパンキッシュな演奏を披露すると、濃密な二時間のステージは終演。会場には、彼らの演奏でヒート・アップした熱の余韻だけがいつまでも残っていた。
いやはや、最高に刺激的な演奏であった。70年代ニュー・ソウル的なソフィスティケーション、オーセンティックなアフロ・スピリチュアル・グルーヴ、パンキッシュでロック的なスピード感、一糸乱れぬ構築されたスウィング、透明感に溢れた美しいバラードといくつもの表情を見せつつ、トータルとしては渋さ知らズ劇場ならではのオリジナリティに貫かれた音。その音の塊に酔いしれた、至福の二時間であった。
各プレイヤーがそれぞれに個性的な演奏を聴かせても音がブレることなくきっちり収束するのは、やはり不破大輔という稀代のリーダーがしっかりと音楽のイニシアティヴを握っているからだろう。
僕にとって、不破さんのベースは本当に特別である。以前、彼がエレキ・ベースを演奏するライブでフリー・インプロヴィゼーションを聴いた時、初めてトランス状態を体験したことがあった。そんな経験は、その時以降一度も訪れない。
各メンバーの演奏もそれぞれに刺激的だったが、中でも山口さんのピアノと山田さんのヴィブラフォンの音色には、何度もハッとした。
そして、ここぞという時に凛々しくブロウする纐纈さんのテナー・サックスにも胸が熱くなった。今年に入って、纐纈さんのサックスに惹かれて三回ライブを観たのだが、聴けば聴くほど彼女のプレイに魅了されて行く。
繰り返しになるが、「犬姫のテーマ」の最後で聴けた圧倒的なアンサンブルは僕にとってはこの夜の白眉であった。
音楽をカテゴライズすることにどんな意味があるのか…と思いつつあれこれとレビューを書いている訳だが、どんなに言葉を尽くしたとしてもやはり聴かなければ始まらない。
もしこの文章を読んで少しでも興味を抱かれたなら、是非ともライブ会場で彼らの音楽を体験して欲しいと思う。
そこには、最高にエキサイティングな時間が待っているのだから。