エグゼクティブプロデューサーは小佐野保、プロデューサーは木村大助、脚本は山内ケンジ、撮影は橋本清明、照明は清水健一、録音・整音は木野武、スタイリストは増井芳江、ヘアメイクはたなかあきら、編集は河野斉彦、キャスティングは山内雅子、助監督は井川浩哉、ラインプロデューサーは田口稔大、特殊効果は村石義徳、造型は山下昇平、効果はエリカ、音楽はロベルト・シューマン「予言の鳥」(演奏:中川俊郎)、音楽制作はフリーアズアバード。
企画・製作はギーク・ピクチュアズ、配給・宣伝はSPOTTED PRODUCTIONS。
宣伝コピーは「純愛は、ヘンタイ だ。」
2015年/日本/105分/カラー/16:9/ステレオ/R15+
こんな物語である。かなりネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。
大学生の霜崎妙子(岸井ゆきの)は、自宅に遊びに来ている親友の吉川マヤ(安藤輪子)から「妙子のお父さんって、かっこいいよねぇ」と言われて顔を歪める。マヤは高校時代からの親友だが、母子家庭のせいかファザコンの傾向が強く、「変わっているとは思っていたが、ここまでだったとは…」と妙子は呆れた。
しかし、マヤは至って真剣なようで、果ては「恭介さん」と言い出す始末。お願いだから、自分の父親(吹越満)を下の名前で呼ぶことだけは勘弁して欲しい。
そこに、母親のミドリ(石橋けい)がやって来たのでマヤのことを話すと、「ふ~ん」とクールなリアクションが返って来た。
恭介が仕事帰りに最寄駅から降りて来ると、駆け寄って来る女の子がいた。恭介は誰なのか分からなかったが、マヤは妙子の友達だと言って目をキラキラさせた。恭介は驚いたものの、若い女の子に声をかけられて悪い気がする訳がない。二人は途中まで一緒に帰ったが、その道すがらFacebookに載せたいからと言ってマヤはツーショット写真を撮った。
恭介が帰宅すると、家にはミドリしかいない。大学に入ってからというもの、妙子は彼氏の康司(前原瑞樹)と遊び回っていてほとんど家にいないのだ。いつものように、夫婦の会話は冷え切っている。
ミドリは、「アパート決まったの?」と聞いて来た。恭介には生島ミドリ(平岩紙)という長年の浮気相手がおり、そのことが妻にばれて離婚することになっていた。しかし、まだそのことを妙子は知らない。
妙子は家を出ようと考えており、アパートを探していた。できれば、彼氏と同棲できることが望ましい。マヤとも相変わらず友達付き合いしていたが、驚いたことにいつの間にかマヤは恭介とLINEのやり取りをしていた。ガチで彼女は恭介に入れ上げているようだった。これでは、ファザコン通り越してリアルに変態ではないか。
そのマヤは、高校時代の担任・田所睦夫(金子岳憲)を呼び出した。田所がやって来ると「好きな人ができたから、別れたい」とマヤは一方的に告げた。激しく動揺した田所は、「ここじゃなんだから、他の場所で話そう」と強引にマヤを連れて行こうとして揉み合いになる。
木の陰で携帯をいじっていた妙子は、二人の間に立つと田所をとめた。田所は、なす術もなくよろよろとその場から退散した。「好きな人ができた」というのはてっきり田所を振るための口実だと思っていた妙子だが、マヤは「本当のことだ」と真顔で言った。
妙子は完全にドン引きしたが、あまりにマヤの押しが強いため、辟易して「あんなヤツ、くれてやる」と言った。すると、マヤは完全に舞い上がってしまい、妙子はさらに引くのだった。
妙子のアパートが決まり、一人暮らしを始めることを両親に宣言した。すると、恭介もこの家を出てアパートに移るという。この時、初めて妙子は両親が離婚することを知った。あまりに突然で妙子は驚いたが、その原因が父の浮気だと知ってさらに彼女は驚いた。
で、驚くには驚いたが、そのことをマヤに知らせてやるとマヤは狂喜乱舞した。
恭介は、しばらくぶりに喫茶店でハヅキに会うと離婚したことを告げた。ハヅキはホッとして実は今妊娠していることを告げた。あまりの急展開に、恭介は言葉を失う。何となく、二人の間に微妙な空気が漂った。ハヅキがトイレに立つと、カウンターにいたお客が恭介のテーブルにやって来た。マヤだった。当然、マヤは一部始終を聞いていた。
ハヅキが戻って来ると、マヤは「自分は娘の妙子だ」と言って挨拶した。これには、恭介も驚いたが、マヤはこともなげに去って行った。
いよいよマヤの恭介に対するアタックは猛烈になって行き、そのペースに恭介も巻き込まれて行く。当然のことながら、ハヅキとの仲には暗雲が立ち込め始めた。
夫の浮気発覚以来、ミドリは再び仕事を始めていたが同僚でバツイチの川端惣一(宮崎吐夢)から言い寄られていた。
一方、マヤに振られて情緒不安定になった田所は、自殺しようとしたが未遂に終わってしまい、いよいよ思い詰めた彼は台所にあった包丁を持ち出して街に出た。
ひたすら自分の恋愛感情だけで猪突猛進するマヤの行動は、いよいよ周囲の人たちの運命をも翻弄して行く。
果して、マヤの変態純愛がたどり着く先は…。
今年、第59回岸田國士戯曲賞を最年長で受賞した山内ケンジが、『ミツコ感覚』(2011)に続いて発表した待望の長編映画第二弾である。
元来、山内ケンジはCMディレクターとして高く評価されている人で、ソフトバンクモバイルのCM「白戸家」シリーズを知らない人など、もはやいないだろう。今では、城山羊の会での演劇活動も注目度が増しているが、元々彼の活動フィールドは映像と言っていいだろう。
その山内が初めて撮った『ミツコ感覚』は、正直に言うと僕の期待をやや外れるものであった。
演劇という形態は、限定された舞台空間において役者がライブで演じる非常に制約の多い表現である。劇作を映画で表現するということは、言ってみればそういった演劇表現の制約から解放されることなのだが、『ミツコ感覚』では制約から解放されたことで、かえって山内演劇の真骨頂ともいえるテンポや間、あるいは畳みかけるような疾走感が失われてしまったように思えて、それが大いに不満だった。
こういう言い方はシビアに過ぎるかもしれないけれど、「『ミツコ感覚』の物語は、演劇というフォーマットで観たかったよな…」という身も蓋もない感想を抱いてしまった訳だ。
あれから、四年。城山羊の会での劇作もいよいよ尖鋭化を増している山内ケンジだが、今回の長編映画第二弾『友だちのパパが好き』は、彼の作家的成熟を十分に実感できる快作にして怪作となった。
少なくとも、僕が『ミツコ感覚』で抱いた不満はすべて払拭されていたし、本作は「演劇」でなく「映画」で表現すべきだという必然性に満ちている。
山内ケンジの劇作を構成する要素、突拍子もないエキセントリックな設定、おかしな人々、欲望と悪意が剥き出しになる展開、性的なメタファーに満ちた仕掛け、容赦なく突き放すドライな劇薬的ストーリーテリング、独特のリズムと絶妙な間、というのは城山羊の会のファンなら誰もが知るところだが、その特徴はこの映画でも遺憾なく発揮されている。
そして、役者陣は言葉通りの「体当たりの演技」でスクリーンに弾ける。それはもう、観ていて清々しいくらいである。
もちろん、物語自体はまったく清々しくない展開を見せる訳だけど(笑)
吹越満、城山羊の会のミューズともいえる石橋けい、平岩紙、宮崎吐夢といった達者な役者陣の演技はテッパンだし、チラッと登場する、島田桃依、岡部たかし、永井若葉、ふじきみつ彦にニヤッとする城山羊ファンもいることだろう。
だが、狂的に暴走するドラマのエンジンとなっているのは、言うまでもなく安藤輪子と岸井ゆきのである。この若手女優二人の大胆にして堂々たる演技、そしていくら過激になっても可愛さを失わない佇まいこそが本作における最大の収穫と言っていいだろう。
この二人が魅力的だからこそ、この作品はクレイジーでありながらもファニーでキュートなのだ。
本作におけるもう一つの魅力は、映像だろう。ザラついた質感、隠し撮りを見ているような生々しさ、不穏に張り詰めた緊張感が見事に映像化されていて、物語の展開同様とても刺激的だ。
また、カメラ・アングルやカット割りによる効果ももちろんあるだろうが、本作においては独特の照明が効果を上げている。
で、山内作品の特徴といえば、最後の最後までとことん突き放す展開に終始するところなのだが、本作ではこれまでの山内作品とちょっと違ったエンディングを迎えるのも印象的である。
もちろん、普通のハッピーエンドなど考えらないが、それでも本作のラストにはシニカルな混沌の中にも不思議な余韻が残る。
城山羊の会ファンはもちろんのこと、ちょっとでも気になった人は是非とも劇場に足を運んで頂きたい。絶対の自信を持って、お勧めする。