2015年12月26日ソワレ、高円寺明石スタジオで肯定座第5回公演『MAN IN WOMAN』を観た。
脚本は信本敬子、演出はナカマリコ、舞台監督は田中翼・馬渕早希、舞台美術は袴田長武、照明は松田直樹、音響は樋口亜弓・松丸恵美、音楽は電気スルメ、演出助手は伊岡森愛・細川翔太、写真は宮本雅通、撮影・編集は伊藤華織、劇中映像編集は加藤和博、チラシデザインはナカマリ、HP制作は斉藤智喜、制作は岩間麻衣子、企画・製作は肯定座。
協力は(株)エコーズ、Kreiinc.、(株)グッドラックカンパニー、(株)仕事、(株)スターダスト・プロモーション、タテヨコ企画、デザインと映像制作の加藤、ドリームダン、ニュアンサー、年年有魚、日高舞台照明、(有)モスト・ミュージック、Quartet Online、箱空。
こんな物語である。
年齢も仕事も性格もバラバラな女8人が暮らす、東京某所のシェアハウス。富士山に噴火の恐れありということで避難勧告が出され、すでに近隣住民たちは次々と東京を離れている。このシェアハウスの住人たちもこれから避難することになっているのだが、何故か彼女たちには危機感が薄い。
元AV女優の風間“さやか”清香38歳(奈賀毬子:肯定座)は、風呂から出てバスローブ姿でうろうろしているし、売れないモデルの小沢“まの”麻乃27歳(福原舞弓:肯定座)は、車中で食べるはずのおにぎりに手を出している。
この家の料理担当でイラストレーターの横井“ウンモ”ルカ38歳(菊池美里)は、冷蔵庫の中を空にすると言って出発時間が近づいているのに鍋を作り出す始末。
他の住人は、プライドが高く酒好きで協調性に欠けるCAの森“ジュリー”樹里亜40歳(江間直子:無名塾)、二面性のあるゴスロリ系アパレルショップ店員の朝倉“ナオミン”奈緒美34歳(平田暁子:年年有魚)、かなり年下の彼氏とゴールイン間近らしい蓮田“みどり”翠39歳(市橋朝子:タテヨコ企画)、ご主人を亡くしてから自宅をシェアハウスにしたオーナーの中田中“れいこ”麗子52歳(辻川幸代:ニュアンサー)。
そこに、職場の介護施設から帰って来た須山“スーさん”有紀43歳(塩塚和代)が、あまりに緊迫感を欠いた面々をどやしつけた。
ところが、空腹だから苛々するんだと言ってウンモができた鍋を持ってくる。皆が鍋をつつきだしたその時、テレビが富士山の噴火を伝えた…。
それぞれの避難先に向かって旅立った8人は、クリスマスの時期に再びシェアハウスに戻って来た。避難する前とは、それぞれが少しだけ違った状況に直面しながら。皆の不安のひとつは、れいこさんの物忘れが酷くなっていることだった。もし、彼女が本当に痴呆症だとしたら、このシェアハウスは一体どうなってしまうのか?
クリスマスが終わり、年も押し詰まったある日、ふとしたきっかけからシェアハウスの住人たちは、期せずして互いに秘めた胸の内をカミングアウトし出す。それぞれが思いを吐き出し感情をぶつけ合ううちに、不思議と何かが浄化されて行くようだった。
ところが、最後にれいこさんがにわかに信じられない話を始めて…。
肯定座主宰の奈賀毬子は、9年間7人でルームシェアしていたことがあり、その経験が本作のきっかけとなっているようである。
演出も脚本も役者もすべて女性のみで構成されたこの作品の印象を一言で表現すれば、“ウェルメイド”ということになるだろう。
富士山の噴火というトピック以外の説明をほとんど省いて、バタバタとコミカルに展開する前半は、いささか女性8人のかしましさが力み過ぎで疲れる。それは恐らく、舞台上の温度に比べて、観ている僕の鑑賞体温が追いつけないからだろう。
自分だけかもしれないが、肯定座の舞台を観ていると前半にこういう温度的な落差を感じることがしばしばである。
ただ、8人がクリスマス・シーズンに共同生活を再開する後半は、ストーリーテリングのギアの入れ方がスムーズで、引き込まれる。富士山噴火までの前半に、シェアハウスたちのキャラクター描写や物語的な伏線をしっかり仕込んでいればこそ、だろう。
8人それぞれが自分たちの日常を取り戻そうとしても、すでに事態は次の時点に進んでしまっている。今置かれている状況を自分の胸だけにしまい込んでいるのは、いささか限界だ。
そんな状況の中、まのが、自分の抱えている“問題”をカミングアウトしたことがきっかけとなり、これまでの共同生活では打ち明けなかった秘密を各人が怒涛のように吐き出す展開は、スピード感と畳みかけるようなテンポが良い。
ただ、彼女たちの抱えているエピソードに定型的なものを揃え過ぎているような印象を受ける。このあたりに、もう少し変化球が欲しいような気がする。
このカミングアウトの場面では、何と言ってもジュリー役の江間直子の演技が見どころである。それから、メンバーの中では曲球的なキャラクターのナオミン役平田暁子の存在感もいい。
8人の女優はそれぞれに個性的だが、物語の“かすがい”的な役目を果たしているウンモ役菊池美里が印象的。バタバタした物語を、れいこのエピソードでツイストさせるキレ味もなかなかだ。
コミカルに終末的なエンディングは、好みが分かれるかもしれない。
とまあ、なかなか良く練られた作品だし後味も悪くないのだが、第3回公演『顎を引け-素晴らしきこのマット-』以降の3本は、いささか「いい話」を揃え過ぎのきらいがある。
個人的には、『濡れた花弁と道徳の時間』のようにブラックな作品をそろそろ観てみたいものである。
それから、僕が唯一未見で肯定座作品では傑作と言われている『暗礁に乗り上げろ!』の再演を是非ともお願いしたいところだ。
次回作では、一体どんなテイストの作品を持ってくるのか。肯定座あるいは奈賀毬子の新たなるステージを期待したい。