2016年1月16日、国立NO TRUNKSで林栄一率いるMAZURUのライブを聴いた。MAZURUは、1990年に当時新星堂に勤めていたこの店のマスター村上寛がプロデューサーとなって、新星堂のオーマガトキ・レーベルからデビュー作を発表している。
オリジナル・メンバーは、林栄一(as)、石渡明廣(g)、川端民生(el-b,perc)、是安則克(b)、藤井信雄(ds)、楠本卓司(ds)。
ベースの二人はすでに鬼籍に入っており、この日は不破大輔がエレキベースで加わった。マスターの話では、これからもこの店ではMAZURUにガンガン演奏してもらうとのことである。
MAZURU : 林栄一(as)、石渡明廣(g)、不破大輔(el-b)、藤井信雄(ds)
第一部
1 SMOKY GOD
ロフト・ジャズとアヴァン・ロックをミクスチュアしたようなアグレッシヴな音。フリーにブロウするサックスと、レコメン系の如きパンキッシュなエレキギター、性急にグルーヴするエレキベース、時に急き立てるようなリズムを叩き出すドラムス。
4人の奏でるヒリヒリするようなスリリングでタイトなサウンドを聴いていると、まるで70年代ニューヨークの先鋭的なジャズクラブにいるようである。
どうもリードが不調のようで、林は何度か演奏を中断してリードを確認していた。アルトサックスが抜けてギター中心のトリオ演奏になると、さらに音がソリッドで鋭角的になり、NO WAVEのようになるのも刺激的だ。
2 SKY MIRROR
やや感傷的でメロディアスなフレーズを吹くサックスと、寄り添うようなギター。音の隙間を作ったエモーショナルな音像が印象的だ。まさしく、メンバー4人による音楽的な対話を聴かせる。
一端ギターが抜けてトリオになると、フリーライクな演奏を展開しつつもぎりぎりのところで破綻しないアンサンブルが刺激的だ。
再びギターが加わっての演奏では、繊細でストイックな佇まいから徐々にギターが加速していき、美しさはそのままに畳みかけるような音を聴かせる。
ラストは、林がソウルフルにブロウしてフィニッシュ。
3 ドラムスの叩き出すスクエアなビート、ワウワウをかましたギター、ハネるビートを奏でるベース。この3人をバックに林が奔放に吹きまくる。各人のプレイは熱いのだが、奏でられるサウンドはクールかつ知的な尖ったジャズ・ファンクである。
4 ナイト・ビート的にムーディなフレーズをブロウするサックスと、美しいサウンドを聴かせるギター。ストレートなバラードが、胸に響く。各プレイヤーの年季を感じさせるいぶし銀的な演奏である。
第二部
1 最高にグルーヴするリズム隊、ギターのファンキーなカッティング、ブルージーでスウィンギーなサックス。2016年の国立から70’sのニューヨークにタイムスリップ。めちゃくちゃ気持ちいいサウンドで、聴いていて自然に体が揺れる。
とにかく、4人の音が溌剌としていて若々しいのだ。
2 夜気を運んでくるようなギターのサウンドと、アッパーなフレーズを刻むベース、繊細なブラッシュ・ワークを聴かせるドラムス、朗々と吹くサックス。ゆらゆらと妖しく響くミステリアスなサウンドは、さながら深海で奏でられるジャズのようだ。
後半の展開では、ブルージーなテイストが加味され、硬質なギター、ソリッドにリズム・キープするドラムス、シャープにランニングするベースを従えて息遣いまで感じる肉体的なプレイを聴かせる林のプレイに酔いしれた。
3 NAADAM
この日のラストは、渋さ知らズのレパートリーにもなっている「ナーダム」。
まずは藤井のドラム・ソロから入って、林がフリーダムにブロウ。アフロ・オーセンティックなサウンドは、石渡のワウワウ・ギターでさらにスピリチュアル度が増す。そこに不破のベースが加わると、劇的に視界が開け祝祭的なムードが会場を包む。そのスケール大きな解放感溢れる演奏に、心洗われる思いだ。
一端林が抜けてトリオ演奏になると、今度はジェームズ・ブラッド・ウルマーやジャン・ポール・ブレリーを思わせるようなブラック・ロック的サウンドに。ぐんぐん加速していく演奏が刺激的だ。
再び林が加わると、さらに音圧が上がり、灼熱の演奏に。不破の疾走するベース・プレイに息を飲む。
藤井のタメを効かせたドラム・ソロから4人でのプレイに戻ると、どこか日本の祭りを思わせるようなテイストが現れる。メイン・テーマをリフレインするラストは、アフロ・スピリチュアルと演歌的な泣きのフレーズが混在する日本ドメスティックなジャズを聴かせてフィニッシュ。
MAZURU名義では久しぶりの演奏だったようだが、ベテラン・ジャズメン4人による演奏は、驚くほどにエネルギッシュで若々しいサウンドが鮮烈だった。不破に聞いた話では、この日はほとんどフリー状態での演奏だったようだ。
何より素晴らしいのは、1970年代の熱気と現代的なサウンドが絶妙なバランスで混在し、そこに日本人ジャズメンならではの土着性も感じさせてくれたところである。
マスターの言葉通り、これからもコンスタントにMAZURUとしても活動してほしいものである。