1975年2月15日公開、瀬川昌治監督『喜劇 女の泣きどころ』。
製作は名島徹、脚本は下飯坂菊馬・瀬川昌治、撮影は丸山恵司、美術は重田重盛、音楽は青山八郎、録音は小林英男、照明は三浦礼、編集は太田和夫、助監督は増田彬、現像は東洋現像所、スチールは小尾健彦。製作・配給は松竹。
こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。
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山陰。とある劇場から自殺未遂の報を受け、消防士の藤井(湯原昌幸)は救急車で現場に駆けつける。女剣劇の旅芸人一座の座長・春風駒太夫(太地喜和子)が、一座の浪曲師・天光軒満月(坂上二郎)に振られた腹いせにハイミナール自殺を図ったのだという。
座員の松風弥生(潤ますみ)の適切な処置により、駒太夫は一命を取り留めた。妙に手慣れた弥生の処置に藤井は感心するが、聞けば駒太夫の自殺未遂はこれが4度目だという。男に惚れやすく、騙されて振られるたびにこの騒ぎなのだ。
だが、それだけでは終わらない。同じ座員の桜竜子(中川梨絵)も首つり自殺を図っていた。幸い竜子も一命を取り留めたが、彼女もまた満月に騙されたのだという。竜子は、駒太夫とは違い惚れれば一途な女だった。
二人は、そのまま病院へと搬送された。
一年後。駒太夫と竜子は、竜子の発案でストリッパーに転身。メキシコカルメンとミスモンローと名乗って、レズビアンショーで人気を博していた。ところが、駒太夫の男癖の悪さは相変わらずで、劇場に乗っては同業者の夫やヒモに手を出す始末。その度、一悶着を起こして劇場を転々とする・・・その繰り返しだった。
一方、藤井は消防士を辞めて退職金で屋台のそば屋でもやろうと考えていた。大阪行きの列車を持っていた藤井は、なぜか警察に連れて行かれてしまう。彼を呼び出したのは、坂田(財津一郎)という刑事だった。
坂田刑事の話では、駒太夫と竜子の二人がキャバレーで特出しを演じて猥褻物陳列罪と公然猥褻罪でしょっ引かれた。二人は、こともあろうに身元引受人として藤井を指名したのだという。
訳も分からぬまま、渋々藤井は調書に押印させられるが、保釈金のみならずキャバレーの損害賠償までさせられてしまう。しめて25万円の散在。これで、藤井の開店資金は底をついた。
やりたい放題の二人に怒りの収まらぬ藤井は、二人を働かせて立て替えた金を返させることにした。春風駒太夫&エリザベス・モンロー名義での劇場ストリップ、ヌードモデルから、花束を贈呈する女性役までとありとあらゆる仕事を取ってきては、二人を現場に送った。
駒太夫はいいようにこき使われて不満たらたらだが、堅実な竜子は藤井の手腕を買っていた。自分たちがちゃんと金を稼ぐには、藤井のようなやり手のマネージャーが必要なんだと竜子は駒太夫を説得した。
仕事終わりに二人が飲み屋でビールをあおっていると、この日の金勘定を終えた藤井がすでにこの二人が借金を上回る額の金を稼ぎ出していることを明かした。
竜子は、取り分の相場は2割だが3割出すからマネージャーになってくれと藤井を口説いた。藤井もまんざらではない表情だった。
すると、駒太夫は他のテーブルで飲んでいる男に気づいて彼の元へと行ってしまう。男は、
駒太夫の昔の男・村上(橋本功)だった。
その日の宿に着くと、布団を敷きながら竜子は再び藤井を口説きにかかった。竜子の口調は熱を帯び、そればかりか彼女は体まで藤井に寄せてきた。竜子の色っぽさに、藤井はどぎまぎしながら何とか自分を抑えていた。
そこに駒太夫が戻ってきたが、自分は村上と結婚するからと荷物をまとめて出て行ってしまう。
またいつもの悪い癖が出たと呆れていた竜子だったが、駒太夫が消えてしまうと藤井と組んで一儲けする話もパーになったとしょげ返る。
そんな竜子の姿を見た藤井は、もっと若い相方見つけて一稼ぎすればいいじゃないかと言った。思ってもみなかった藤井の言葉にキュンとなった竜子は、藤井に身を任せようとするが、藤井は慌てて襖を閉めてしまう。
一人残された竜子は、むくれた顔で不貞寝した。
大阪で藤井は竜子の相方を探したが、なかなか駒太夫の代わりは見つからなかった。当然のこと竜子の稼ぎも減ったが、それでも藤井の手腕で二人は何とかやっていた。
あるとき、竜子は藤井に連れられてぼろアパートへとやってきた。「おかしな仕事はいやだよ・・・」と不安そうな竜子。すると、気立てのいいおばはんが二人の前に現れた。このアパートの管理人・たみ(みやこ蝶々)だった。藤井は、竜子のために部屋を借りてやったのだ。
幼い頃から旅芸人の親に連れられて全国を転々としていた竜子にとって、家に住むことは長年の夢だった。彼女は、藤井に抱きついた。帰ろうとする藤井の腕をつかむと、竜子は「一人にしないで・・・」と懇願。そのまま、二人は一つの布団で重なった。
情の深い竜子は、藤井にぞっこんだった。そんなある日、竜子は差し込むような腹の痛みで病院に運ばれてしまう。虫垂炎だった。彼女は、しばらく入院する羽目になる。
駒太夫は、大阪で村上と暮らしていたが、いつものように捨てられてしまう。繁華街のおでんやで一人悲しい酒をあおっていると、外でやくざ者同士がけんかしていた。男たちを叩き出したのはズベ公たちだったが、その頭を張っていたのは、何と弥生だった。驚きの再会だった。
弥生は、懐かしがって駒太夫を自分たちの暮らすマンションに連れて行った。ずいぶんと羽振りのいい暮らしのようだった。しばらく、駒太夫はここにやっかいになることになった。
弥生に竜子のことを問われ、駒太夫は自分が捨てられたと真逆のことを言った。だったら、あたしと組んでレズビアンショーをやろうと弥生は提案した。いつまでもズベ公でいる訳にもいかないし、また芸能の世界に打って出たいからと彼女は言った。
駒太夫は弥生と組んで再びレズビアンショーを始めたが、若くてプロポーションもいい弥生に人気が集中した。駒太夫は、やる気を失っていった。
今日も竜子を見舞った後、藤井が繁華街を歩いているととあるストリップ劇場の看板に目がとまった。レズビアンショーを上演しているようだったが、ダンサーの名前にモンロウとあった。藤井は、血相を変えて劇場の中へと入っていった。
モンロウを騙っていたチームの一人は駒太夫で、もう一人は弥生だった。驚く藤井を弥生はマンションに招いた。弥生は、仲間たち全員での集団レズビアンショーのマネジメントをやらないかと藤井に打診した。竜子がステージに立てない状態だから、藤井にとっても渡りに船の提案だった。
入院中の竜子は、徐々に回復に向かっていた。彼女は、ある程度金が貯まったら、ストリッパーを辞めて藤井と二人でそば屋をやる夢を描いていた。
藤井は、元ストリッパーで今は興行師の女社長(京唄子)と秘書(鳳啓助)にレズビアンのチームショーを売り込み、契約に成功。一気に忙しくなった。おかげで、家に帰ることが少なくなり、竜子は寂しい思いをすることが増えていった。
まだステージには立てない竜子は、たみが紹介してくれた外人ポルノ雑誌の局部をマジックで塗りつぶす内職に精を出していた。
弥生たちは遠征興行に出発したが、一人仕事のない駒太夫は事務所の留守番を申しつけられていた。事務仕事を片付けて、みんなから遅れて事務所を出発しようとした藤井に、駒太夫は絡んだ。藤井が竜子とできていることを知っていた彼女は、藤井が竜子への関心が薄れていることまで引き合いに出し、彼のことをなじった。
腹を立てた藤井は駒太夫を押し倒したが、揉み合っているうちに二人は交わってしまう。事が済むと、駒太夫は「あんたのこと、好きになっちゃったよ。捨てないでおくれ・・・」と科を作った。
地方遠征は弥生たちに任せ、藤井は大阪に残って駒太夫との逢瀬を重ねていた。竜子には出張と言っていた。駒太夫は、藤井には内緒でアパートを借りた。泥酔した藤井をタクシーに乗せると、駒太夫は自分が借りたアパートに連れて行った。見覚えのあるアパートだと、酔った頭で藤井は思った。
駒太夫の部屋に行った藤井は、尿意を覚えてトイレへ。なぜか場所を知っていた。用を済ませて部屋に戻ろうした藤井は、間違えて向かいの部屋の扉を開けてしまう。すると、竜子が抱きついてきた。駒太夫が借りたのは、偶然にもたみのアパートだったのだ。
竜子の部屋に駒太夫も入ってくると、あとは女二人の修羅場が待っていた。
さんざん揉み合った二人の頭に、藤井はバケツの水をかけた。藤井は、東京に出て弥生たちと稼ぎまくると宣言すると二人を捨ててぼろアパートから出て行った。
後に残された竜子は、駒太夫を部屋から追い出すと思い詰めた表情で縄と取り出し、首を吊れそうな木を求めてアパートを出た。
川沿いに枝振りのいい木を見つけた竜子が、憔悴しきった顔で縄をかけようとすると、川面を真剣にのぞき込む駒太夫の姿があった。死んでみろと声をかける竜子。また二人揉み合っている内に、駒太夫は川に落ちてしまう。「あたし、泳げないから助けて!」と叫ぶ駒太夫に「やっぱり、死ぬ気なんかないじゃないのさ・・・」と竜子は呆れて手を差し伸べた。
駒太夫を岸に引っ張り上げると、不思議に竜子は藤井への想いも自殺する気も失せていた。
駒太夫が自殺したとの手紙が、かつての男たちに届いた。差出人の竜子の元には、男たちから香典が届いた。最も成功している浪曲師の満月の香典が一番しょぼかった。
その金でライトバンを買った竜子と駒太夫は、今日も「春風駒太夫とエリザベス・モンローのレズビアンショー」と書かれたチラシをまきながら町から町へと旅するのだった・・・。
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松竹映画としては、何とも自由奔放で生命力に溢れた良質の人情喜劇である。こういう作品にこそ、「喜劇」という看板はよく似合う。
瀬川昌治が太地喜和子と組んだストリッパーもので、『喜劇 男の泣きどころ』(1973)、『喜劇 男の腕だめし』(1974)に続く最終作。もちろん太地喜和子もいいが、本作は日活ロマンポルノの人気女優中川梨絵が抜群に魅力的だ。
とにかく、スピーディーな展開、軽快なテンポ、ストリッパーを演じる奔放で逞しい魅力的な女たち・・・と、本作は心の体も裸一貫で勝負する女たちの人生賛歌といっていいのではないか。
僕にとって、中川梨絵は日活ロマンポルノ随一の美人女優でありアイドル的存在である。ただ、個性的な声と舌っ足らずなしゃべり方もあり、彼女は決して演技派とは言いがたいと思う。
そんな彼女のロマンポルノ代表作と僕が個人的に思うのは、神代辰巳監督『恋人たちは濡れた』(1973)、『女地獄 森は濡れた』 (1973)、田中登監督『㊙女郎責め地獄』 (1973)といった作品である。
中でも、『㊙女郎責め地獄』で演じた女郎「死神おせん」こそが、彼女の資質にジャストな役柄だと思っている。気っぷの良さとエキセントリックなキャラクターを演じたときの彼女には、本当に抗しがたい魅力と女優としての輝きがある。
そして、本作における桜“モンロー”竜子の気っぷの良さと心根は純な可愛らしさには、もう心鷲づかみであった。本当に、中川梨絵のために書かれたような役である。
ATGで撮った黒木和雄監督『龍馬暗殺』(1974)の幡役もよかったが、この作品こそ中川梨絵にとって真の代表作だと思う。
また、本作では女たちの存在を引き立てる湯原昌幸の魅力も捨てがたい。湯原の緩急自在の達者な演技あればこそ、中川も太地も光り輝くのである。
また、要所要所に登場する演芸評論家・大沢昭太郎役(そのまんまの名前)の小沢昭一も味わい深い。
個人的には、藤井が駒太夫に再会して以降の展開に不満がないでもないのだが、それでもこの作品が素晴らしいことには何の異論もない。
本作は、裸家業に生きる女たちの逞しさと可愛さがスクリーンに弾ける良質の女性映画。
中川梨絵ファンの方なら絶対に見るべき一本であり、「本作を観ずして、中川梨絵を語ることなかれ」と断言してしまいたくなるくらい最高の彼女に会える作品である。