2016年2月7日、東新宿の真昼の月・夜の太陽でNAADAが出演するライブ・イベント「夜の太陽たち」を観た。
僕がNAADAのライブを観るのは、これが43回目。前回観たのは2015年11月7日 、場所は同じ真昼の月・夜の太陽だった。
NAADA : RECO(vo)、MATSUBO(ag)、COARI(pf)
では、この日の感想を。
1.REBORN
ノベルゲームアプリ「時凪る部屋~凪編~」のエンディング・テーマに提供された曲。
複雑なコーラス・ワーク、シンプルなようでとても技巧的なアンサンブルにアレンジされた演奏は、ブリティッシュ・トラッドとヨーロピアン・プログレッシヴ・ロックを折衷したような超難度さである。
その畳みかけるように重層的なコーラス・ワークや饒舌なピアノ・プレイに感心しつつも、過剰とも思える情報量の多さにやや耳が疲れてしまった。
ただ、こういったトライアルは彼らの音楽性を進化させる上でもどんどんやるべきだと僕は思う。
2.fly
一曲目の流れを引き継いだイントロから、この曲へ。この日のライブでは唯一いつも通りの演奏をしたようだが、僕にはかなり違った佇まいに聴こえた。静かなギターのつま弾きとも、アタックの強いピアノの出だしとも異なるイントロから入ると、アッパーに上昇していくピアノの旋律が耳を引くが、ボーカルとギターのアンサンブルがやや平板に感じた。
だが、後半でグッと音数を減らしたときの視界の開け方は劇的で、そこからグルーヴしていく演奏は良かった。
3.I love you
繊細なギターのつま弾きとストイックで澄んだピアノのイントロ。静謐な歌い出しから、寄り添うように重ねられるコーラス。一聴すると至ってシンプルに感じる構成の中に、時折ハッとするような美しさが現れる佳曲。
そのピュアな響きは、ある意味極上のヒーリング・ミュージックのようである。
4. RAINBOW
ピアノのイントロに重ねられるまるでガラス細工のように繊細なギターの音色。二人の奏でる音の空間を自由自在に泳ぐRECOのボーカルが、素晴らしい。ストレートに訴えかけてくるような三人のアンサンブルに魅了される。
後半、徐々に音圧を上げていき、音に広がりを持たせる構成もいい。
5.Twill
簡素で美しいギターのメロディ、伸びやかなボーカル、重ねられるコーラス。透明感に溢れるやや感傷的なメロディが心に響く。ギリギリまでそぎ落として選び抜かれた音から一転、音の厚みを増して劇的に盛り上がる展開から、再び静寂を取り戻す。
そして、ラストではゴスペル・ライクに歌い上げる。その緻密に練り上げられた構成が、誠に秀逸である。
-encore-
6.愛 希望、海に空
一度は終演したものの、オーディエンスの求めに応えてNAADAにしては珍しくアンコールにもう一曲。
ドラマティックなピアノ、やや荒さを感じるもののエモーショナルに鳴り響くギター・ストローク。一端、音が抑えられると、RECOが澄んだボーカルを聴かせる。敬虔ささえ感じる深みある歌声、美しいコーラス、スケールの大きさを感じさせる音像。
そこから力強く歌い上げていく演奏には、聴く者の心に強く訴えかけるサムシングが宿っている。実に、ソウルフルな演奏であった。
去年の9月にCOARIが正式メンバーに加わり、10月からはYou Tube上で毎週カバー動画をアップする新企画「NAADAchannel」をスタートした新生NAADA。
新たな試みや冒険的なアレンジでのライブ演奏は、ひとえに彼らが守りに入ることなく新たなる音楽的地平を目指している証左だし、同時により多くの人に自分たちの音楽を届けようとする強い意志の表れでもある。
そして、2年前に発表したフルアルバム『muule』が、ついにAmazonやHMV、タワーレコード等で全国的に流通するようになった。現在は、各サイトでの予約を受け付けている。
そういった状況下で迎えた2016年最初のライブが、この夜だった訳である。当然のこと、これまでのライブとは若干異なる客席のリアクションもあったし、アンコール演奏もあった。
上述したように、この日の演奏には数々のトライアルがなされていたし、そこに込められた彼らの音楽的意志がしっかり聴き取れる充実した内容であった。NAADAの演奏を聴き始めて7年以上になるが、今年は彼らにとって一大転機が訪れることになるような気もする。
この日の会場がこれまでとやや雰囲気を異にしたのもその静かなる序奏のような気がしないでもないし、今後はさらにそういった流れが加速していくのかもしれない。
個人的に思うのは、彼らのスタンスは(少なくとも僕が聴き始めて以来)ずっと一貫しているし、そこには熟慮を重ねた上でのしっかりした筋が通っているということである。
その活動歴の中でも、今の彼らがより多くのリスナーを獲得するために確たる一歩を踏み出していることを頼もしく感じるし、今後の展開がとても楽しみでもある。
何と言っても、NAADAの作り出す音楽にはより多くの人に聴かれるべき高いクオリティと魅力が詰まっているのだから。
この日のライブは、NAADAの新たなる門出を予感させるに十分な素晴らしいパフォーマンスであった。
今後の彼らの躍進を祈念してやまない。