2002年にオリジナル・ビデオとしてDVDリリースされた小林政広監督『BOSS』(DVDタイトルは『実録・極東マフィア戦争 暗黒牙狼街-BOSS-』)。
製作は波多野保弘、規格は川崎隆、プロデューサーは佐々木志郎、アソシエイトプロデューサーは伊藤秀裕・松島富士雄、キャスティングプロデューサーは綿引近人、脚本は小林政広、音楽は遠藤浩二、撮影は伊藤潔、照明は木村匡博、録音は沼田和夫、美術は野尻均、編集は金子尚樹、VEは三浦健二、音響効果は柴崎憲治、監督補佐は上野俊哉、助監督は関良平、制作担当は菅原日出男、監督助手は大西裕・松本唯史、タイトルは道川昭、スチールは竹内健二。
制作協力は獅子プロダクション、制作はエクセレントフィルム、製作はオフィスハタノ。
なお、本作は当初映画化を目指したものの俳優との対立で実現できず、その三年後に当初の5分の1の予算でビデオ制作されたものである。
こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。
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山師的な映画プロデューサー(ベンガル:特別出演)の父を借金したヤクザ達に殺され、野口祐司(加勢大周)はゴールデン街で飲み屋を経営する母(角替和枝:特別出演)の手で育てられた。
中学時代に下級生の女がレイプされるのを目撃した祐司は、加害者の不良達を金属バットで殴打。傷害致死事件を起こして、調布少年院に入れられた。女(浅田好未)は、祐司の初恋の人だった。
三年後に少年院を出た祐司は、ロック・シンガーを目指すも挫折。横浜に移り住んで港で働いていた祐司は、過酷な肉体労働と安酒場での酒という空虚な日々に苛立っていた。荒くれ者達との喧嘩で危機一髪に陥った祐司は、中華街でレストランを経営する井沢達治(白竜)に助けられ、中国人達と一緒に彼の店で働くことになった。その日から、井沢は祐司のボスになった。
店のオーナは香港に住む華僑・徐(乃木涼介)というチャーニーズ・マフィアで、彼はことあるごとに井沢に麻薬密輸を手伝うよう要請。しかし、井沢は頑として断り続けた。
中国人同僚達との軋轢もあったが、次第に祐司は井沢から信用されるようになった。
祐司は、ボロアパートでサチコ(占部房子)と二人暮らししていた。サチコは祐司の少年院時代の友人の妹で、友人が出所当日父親に刺殺され、その父親も自殺したことから祐司が引き取り妹のように育てていた。
井沢は田代ヨーコ(長曽我部蓉子)という愛人とともに高級マンションで生活していたが、ある晩拳銃を持った中国人五人に襲われた。気配を察した井沢は逆に暴漢を射殺したが、その主犯はかつて井沢に雇われていた男だった。
井沢は、祐司に電話を入れ「今日から、おまえがボスだ。ヤクには決して手を出すなよ」と言い残して、警察に自首した。
井沢に代わってレストランを経営することになった祐司は、かつてのバンド仲間達を雇い入れた。そして、祐司は井沢の忠告に反して徐の麻薬ビジネスを引受けた。それを断ったことで、井沢が狙われたのを知っていたからだ。
香港から取り寄せる食材に隠して麻薬を密輸する一方、レストラン自体の経営も順調に業績を伸ばしていった。また、店の顔として祐司はコーコを表向き店の支配人としてプッシュすることで、常連客を増やしていった。
ただ、井沢を失った寂しさで、ヨーコは浪費癖が加速していった。それも、祐司は黙認していた。
しかし、ヨーコが田舎の役所で経理をやっていた兄のシンジ(有薗芳記)を祐司に内緒で呼び寄せたことで、すべては狂い始める。おまけに、シンジは口を滑らせ祐司が麻薬ビジネスに荷担していることをサチコにしゃべってしまう。
サチコの落胆と怒りは、相当なものだった。
調子に乗ったシンジは、店のスタッフの一人と組んでヤクの横流しを始め、私腹を肥やすようになった。当然のごとく彼らの悪事はすぐ徐に露見し、徐の送り込んだ刺客に二人はあっけなく射殺された。
当然、次に狙われるのは祐司だ。そんな彼の元に麻薬捜査官を名乗る金村(松方弘樹:特別出演)がボディーガードを買って出るが、彼もまたあっさりチャイニーズ・マフィアの餌食となった。
祐司は、金村から聞いて初めてシンジ達の悪事に気づく始末だった。
身の危険を感じた祐司は、店の金庫からあるだけの金を集めるとサチコとヨーコを伴って自動車で逃走。千葉の海岸沿いにある田舎町で、レンタル・ビデオ店を買い取り廃業した釣り宿を借り受けてひっそりと共同生活を始めた。
そんな生活が、二年続いた。井沢が刑務所に入って、五年が経過していた。ヨーコの誕生日、彼女の希望で祐司はヨーコと二人きりで過ごした。祐司は、ヨーコに井沢との関係を訪ねた。これまで何度尋ねても教えてくれなかったヨーコが、この夜は話してくれた。
歌手だったヨーコは、流れ流れて香港のクラブで歌うことになり、そこで井沢と出会った。井沢は香港に死にに来たのだと言った。ヨーコは、その理由を問わなかった。井沢に徐を紹介したのも彼女だった。当時、彼女は徐の愛人だった。徐は、香港の店に井沢を雇い、彼を立ち直らせると横浜の店の経営をまかせた。程なくして、ヨーコも徐を捨てて横浜に行った。井沢に惚れていたからだ。
徐は井沢との友情を優先して、ヨーコのことも許した。徐は、麻薬ビジネスを井沢とやることで確たる兄弟関係を築こうとしたが、それを井沢は拒んだ。
「あの人、仮出所するわ。明日、午前8時きっかりに」とヨーコは祐司に告げた。徐から連絡があったのだという。徐は、刑務所を出た井沢を殺そうとしていた。
ヨーコは、祐司に井沢と見殺しにするよう強く迫り、彼の体にしがみついた。
翌朝、祐司は車で出かけたものの、結局は井沢に会いに行くことを思いとどまった。断腸の思いだった。
ヨーコの言ったとおり、井沢は徐に殺され、その同じ日にヨーコも自ら命を絶った。
二年後、横浜中華街に戻った祐司は、かつての仲間達と再びレストランを始めた。経営は順調だったが、ある夜その店を徐達が訪れる。
仲間達がとめるのも聞かず、拳銃を手にした祐司は撃鉄を引いて徐の円卓に歩いて行った。店内に響き渡る銃声。
「誰も、ボスで、居つづける事は、できない」
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長年、マーティン・スコセッシに心酔していた小林がこの脚本を書いたのは、1999年。彼のフィルモグラフィで考えると、第二作『海賊版=BOOTLEG FILM』 製作の翌年ということになる。
その後、この企画は冒頭で書いたような経過をたどった訳だが、小林本人によるとオリジナル・ビデオは、ほぼ当初に書いた脚本のまま撮影したそうだ。
本作を観ての率直な感想を言うと、あまりに図式的な人物造形とエピソードをここまで畳みかけるように詰め込んでしまっていいものだろうか…ということになる。
Vシネマ的と言えば、まさしくこれでもかのVシネマ的展開と言えなくもないが、それにしても監督・脚本は小林政広なのである。
う~む、とつい唸ってしまう。
駄目な親父に気丈で強い母親、少年院、ロック・シンガーの挫折と来て、肉体労働者からの怒濤の展開である。表題の通りチャイニーズ・マフィアと定番の麻薬取引が出てきて、後は…。
一番気になるのは、もちろん祐司という男の数奇な運命にある種ギリギリの切実さが感じられないことである。何というか、場当たり的かつ短絡的に状況に流されているだけで、基本的にあまり彼の意志のようなものが見出せないように思う。
本作のキー・ワードはもちろん「ボス」であるが、祐司が慕う井沢にしても今ひとつ人物が焦点を結ばない。何やら哲学的に人生を達観している風ではあるのだが、それがあくまで佇まいにのみに終始してしまうもどかしさがあるのだ。
ほとんどカリカチュア的なサチコの生い立ちや、シンジのキャラクターもどうかと思うし、ヨーコと井沢の関係性に至っては、何だか昭和演歌的な世界である。
もちろん、低予算ゆえの限界もあるだろうし、パイレーツの浅田好未や特別出演・松方弘樹の通りすがり的な出演にも中途半端さを感じてしまうが、あまりにも物語が捻りなく直進していく展開にどうしても馴染めなかった。
あるいは、これがVシネマというものなのだろうか?
本作は、あまり小林政広らしさが感じられない作品である。
当初の予算で映画として製作されていたらどうなっていただろう…と思いを巡らせても、詮無いことなのだけれど。
余談ではあるが、少年院の教官役で田中要次、レコード会社のディレクター役で川瀬陽太がカメオ出演している。