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PRINCEという名のREVOLUTION

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平成28年4月21日、朝。出勤前につけたNHK「おはよう日本」を何となく見ていて、絶句した。ミネソタ州の自宅で、プリンスが亡くなったという。まだ、57歳の若さで…。



今年1月10日に69歳でデヴィッド・ボウイが亡くなった時も、そりゃ酷いショックだった。著名人の死に関してSNSに投稿しないことを決め事にしている僕が、思わずツイッターでつぶやいたくらいに。ボウイの音楽は聴きまくっていたし、大好きなロック・ミュージシャンだった。
ただ、それはさかのぼっての追体験で、僕にとってリアルタイムで体験したボウイというのは、1983年の『レッツ・ダンス』であり、MTVであり、テレビ朝日の『ベストヒットUSA』であり、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』であった。
あるいは、宝酒造の焼酎「純」CMと「クリスタル・ジャパン」(1980)であったり、クイーンとの「アンダー・プレッシャー」(1981)であったり。



プリンスに関しては、彼にとってあるいはミュージック・シーン全体において正真正銘イノヴェーションの時期をリアルタイムで目の当たりにしていたし、僕自身が彼の音楽にぞっこんで、プリンスの活動を熱心にフォローしていたから、今の喪失感を的確に表現することすらできない。
まさしく、「言葉を失った」ままの状態である。

そんな訳で、あくまでささやかに個人的な文章を書きたいと思う。

プリンス(本名プリンス・ロジャー・ネルソン)が日本において話題になり始めたのは、三枚目のアルバム『コントラヴァシー』(1981)のタイトル曲がスマッシュ・ヒットしたあたりからで、次の二枚組大作『1999』(1982)により全米ブレイクを果たしたことで、ロック雑誌にも頻繁に取り上げられるようになったと記憶する。





同じ1982年に、マイケル・ジャクソンがかのモンスター・アルバム『スリラー』を発表して世界的なマイケル・ブームが起こったことから、同じ黒人・ミュージシャンでありソウルとロックの境界を超えた音楽性もあって、この二人は頻繁に比較されるようになった。




ちなみに、当時の日本においては「クリーンなマイケル」「ダーティなプリンス」的扱いが基本トーンだったように思う。
確かに、健全で陽性のキャラクターを持ったマイケルと挑発的なスキャンダラスさを伴ったプリンスという対照的な黒人ミュージシャンであり、そのイメージは『パープル・レイン』(1984)の世界的ヒットにより、一層明確になった。
まあ、後日マイケルの奇行が目立つようになると、いささか状況は変化する訳だけど。
音楽評論家・渋谷陽一は、『ロッッキングオン』誌上でプリンスの音楽性について「密室」的と表現、以降プリンスの音楽はしばしばこの「密室性」というキーワードで語られることとなった。




商業的成功という意味において、まさしくプリンスの絶頂期となったのは自伝的な同名映画のサウンドトラック盤としてリリースされた『パープル・レイン』の大ヒットである。



ビルボードのアルバム・チャート第一位を24週にわたってキープしたこのアルバムからは、「ビートに抱かれて」「パープル・レイン」「ダイ・フォー・ユー」「テイク・ミー・ウィズ・U」がシングル・カットされ、それぞれにヒット。特に、「ビートに抱かれて」は年間シングル・チャートの第一位になった。




この成功により、プリンスはペイズリー・パーク・レコードという自己レーベルを作り、『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』(1985)をリリースする。ロックとダンス・ミュージックを融合したこれまでのスタイルから音楽性が変化した本作は、プリンス流『サージェント・ペパーズ』とでもいうべきコンセプト・アルバムであり、サイケデリックでフラワーなポップ・ミュージックが詰め込まれた先鋭的な傑作であった。




ミネアポリス・サウンドと称された一人多重録音、ロック・ビート、エレクトリック・ダンス・ミュージック、サイケデリックといったここまでの音楽性からさらに飛躍し、ルーツ回帰とでもいうべき革新的なソウル・ミュージックへと自らの音楽性を進化させたのが、次作『パレード』(1986)である。
プリンス自身が監督した映画『プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン』は大コケしてしまったが、そのサウンドトラックとして発表されたこの作品は、ブラック・ミュージックの歴史的文脈の中で高く評価された。




アルバムからのシングル・カットで全米第一位となった「KISS」は、無駄な音を大胆にそぎ落とし、シンプルなギター・カッティングとエレクトロ・ビート、ファルセット・ボーカルで通す大胆なアレンジだった。僕は「Kiss」を聴いた時、音楽的なたたずまいこそ違うけれどスライ&ザ・ファミリー・ストーンの名曲「ファミリー・アフェア」と同様の衝撃を受けたものである。





このアルバムをひっさげてのワールド・ツアー「PARADE TOUR」で、プリンス&ザ・レヴォリューションは初来日した。ツアー・ファイナルとなる横浜スタジアムでの演奏は、スタジアム・コンサートの常識を覆すような素晴らしい音質のライヴとして絶賛されたが、このツアーをもってバック・バンドのザ・レヴォリューションが解散してしまう。




続く二枚組大作『サイン・オブ・ザ・タイムス』(1987)は、『パレード』で見せたソウル・ミュージックとしての音楽性をさらに洗練させ、いよいよプリンスの音楽は未開の境地へと到達した感さえあった。そればかりか、同年には『ブラック・アルバム』も録音。ところが、リリース直前に発売中止となってしまう。




P-FUNK的にハードなファンク作という情報が紹介され、音源が流失したために、この『ブラック・アルバム』はブートレグ史上最高とも噂される500万枚以上を全世界で売り上げたという。かくいう僕も、その当時西新宿界隈のレコード店を回ってこの海賊盤を入手した一人である。
1994年に、ようやくこのアルバムはワーナー・ブラザーズから正式発売されることとなった。



『ブラック・アルバム』騒動への回答とでもいうべき作品『ラヴセクシー』は、1988年にわずか4か月の製作期間でリリースされる。プリンスの全裸写真が使われたジャケットや曲をセレクトできないようにCDでは一曲扱いとなっていることなど、本作も話題性には事欠かない内容だった。



このアルバム発売後に行われた「LOVESEXY TOUR」の日本公演「NEC Parabola PRESENTS PRINCE LOVESEXY ’89 JAPAN TOUR」に、僕は足を運んでいる。
1989年2月5日で、会場は東京ドームのアリーナ。主催はテレビ朝日とFM東京である。当時の日記を読み返してみると、「衛星放送でオンエアーされたライヴと構成がまったく同じで、PAが非常に悪かった」と書いてあった。
約2時間の演奏時間で、アンコールなし。僕の記憶では、ものすごく濃密な演奏で走り抜けたライヴだった。


ティム・バートン監督『バットマン』(1989)のサウンドトラックもプリンスならではのダンス・ミュージックが展開した良作で、シングル・カットされた「バットダンス」のPVは、当時「とんねるずのみなさんのおかげです」で石橋貴明による完璧なパロディが放映されたことも懐かしい。




その後も、プリンスは精力的な活動を続けていたが、ワーナー・ブラザーズとの確執もありペイズリー・パーク・レコードを閉鎖したり、プリンスという名前を捨てたりと色々あった後に、ワーナーとの契約を終了した。
そして、2000年代に入ってプリンス名義での活動を再開。2014年にはワーナー・ブラザーズと驚きの再契約をして、『アート・オフィシャル・エイジ』をリリースした。
ところが…である。残念でならない。



僕が最もプリンスに思い入れていたのは、アルバムでいえば『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』から『ラヴセクシー』あたりまでということになる。その当時は、とにかく彼が発売する音楽のすべてを浴びるように聴いていた。




とにかく、僕はファンク・ミュージックが大好きで、御多分に漏れず、ジェイムズ・ブラウン~スライ&ザ・ファミリー・ストーン~P-FUNKという系譜とジミ・ヘンドリックスという音楽的文脈の中に現れた孤高のイノヴェーターとしてプリンスの音楽を聴いていたように思う。
プリンス・ファミリーでは、ジャネット・ジャクソン等のプロデューサーとして一世を風靡することになるジミー・ジャムとテリー・ルイスが在籍したザ・タイム、シーラ・E、マッドハウス、ザ・レヴォリューションのメンバーだったウェンディ&リサが印象深い。
また、ジョージ・クリントンがペイズリー・パーク・レコードから『ザ・シンデレラ・セオリー』(1989)をリリースした時は熱くなったものである。シーナ・イーストンがプリンスに接近したときには、かなり驚いたけど。だって、「モダン・ガール」「モーニング・トレイン」の人ですからね、僕にとっては。



個人的には、プリンスの傑作群がずっとマスターされないことが不満で、いつか彼自身の手で再発されることを心待ちにしていたのだが…。



また一人、不世出の巨人を失ったことを、僕はいまだに現実として受け止められずにいる。やっぱり、リアルタイムで体験すると喪失感もあまりに巨大なんだ。
本当に、若すぎるよ…。


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