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森谷司郎『兄貴の恋人』

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1968年9月7日公開、森谷司郎監督『兄貴の恋人』




製作は藤本真澄・大森幹彦、脚本は井手俊郎、音楽は佐藤勝、撮影は斎藤孝雄、美術は村木忍、録音は吉岡昇、照明は小島正七、編集は岩下広一、助監督は石田勝心、製作担当は森本朴、スチールは中尾孝、整音は下永尚、合成は三瓶一信、音響制作は東宝サウドスタジオ、現像は東洋現像所、製作・配給は東宝。
日本/カラー/モノラル/シネマスコープ/84分
並映は、沢島忠監督『北穂高絶唱』。


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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丸の内の商事会社に勤務する北川鉄平(加山雄三)は、実直で良くも悪くも馬鹿正直な男だ。鉄平は阿佐ヶ谷の実家暮らしで、父・銀作(宮口精二)と母・加代(沢村貞子)、女子大生の妹・節子(内藤洋子)の四人家族。
銀作も平凡なサラリーマンで、加代は「満州から引き揚げてからというもの、夫はすっかりしぼんでしまった」と嘆いている。裕福な家庭を持つ相手と見合い結婚するのが家のためと考える鉄平は、何度も見合いをしているもののなかなか話はまとまらない。やや尋常じゃないくらいに兄を思う節子は、いつでも鉄平の見合い相手に目を光らせている。




鉄平の同僚・野村和子(酒井和歌子)が、一身上の都合で退職することになった。彼女は、美人で気の利く女性だったから、社内にはファンも多かった。なんでも、叔父が川崎で経営するスナックで経理の手伝いをするという。
節子は和子とも面識があり、しかも和子の後任・小畑久美(岡田可愛)は節子の友人。おまけに、久美は鉄平に惹かれていた。鉄平も含めた四人で和子の送別会をやることになり、鉄平はプレゼントにブローチを買うが、当日悪友たちに誘われて雀荘に行ってしまい、送別会をすっぽかしてしまう。




鉄平は、先輩の大森史郎(小鹿敦=小鹿番)とともに和子が手伝っている川崎のスナック「ピーコック」を訪ねてみる。如何にも場末感漂う店でお客の筋も感心できず、しかも和子は給仕のようなことまでさせられていた。
彼女の姿を見ていた鉄平は、複雑な気分になった。

鉄平は新規の得意先担当を任されるが、挨拶に赴いた当日鉄平の顔を見るなり先方の態度がよそよそしくなる。そして、後日先方は担当を変えろと社に言ってきた。
先方の真意を測りかねつつ、鉄平は上司と一緒に専務の山岸(清水元)に謝罪する。先日、夜の繁華街を歩いていた鉄平は、上司らしき中年男からから強引に誘われて困っている女性を助けた。その時の男が、実は取引先の男だったのだ。
その時助けた女性・西田京子(豊浦美子)から事の真相を教えられた鉄平は、山岸にそのことを報告した。山岸は、鉄平の実直さに半ば感心しつつ半ばあきれたが、その真っ直ぐさには好感を抱いた。

その後も、鉄平は時々ピーコックに飲みに行った。和子には病弱な母・千枝(東郷晴子)とやくざ者の兄・弘吉(江原達怡)がおり、家は貧しく、会社を辞めてスナックを手伝っているのも叔父に義理があったからだった。
そんな野村家を見守っているのは近所に住む幼馴染の矢代健一(清水紘治)で、彼は弘吉の喧嘩の仲裁に入って顔を切りつけられたことがあり、今でもその時の傷が生々しく残っていた。どうやら健一は和子に気があるようで、千枝も健一のことを頼りにしていた。
不器用な鉄平は、何度会ってもいまだ和子にブローチを渡せずにいた。




ある時、鉄平は山岸に言われて酒の場に付き合わされる。如何にも高級そうなバーのラウンジで、山岸は鉄平に取引先の重役・中井(北竜二)と彼の娘・緑(中山麻理)を紹介した。帰国子女だという緑は英語で話しかけてきたが、鉄平も流暢に英語で返した。その様子を、まんざらでもなさそうに山岸と中井が見守っている。
後日、山岸に呼ばれた鉄平は、緑の印象を問われた。彼女はわがままな資産家の娘だが、結婚相手として考えてはくれまいかと山岸。ある意味、結婚の相手としては鉄平の考える理想と合致しており、鉄平は前向きに緑とのことを考えようと思った。

ところが、緑とのデートを重ねるにつれて、鉄平の中では和子の存在がどんどん大きくなっていった。自分が好きなのは和子だと自覚した鉄平は、プールでデート中の緑に自分の胸の内を伝えてしまう。あきれた表情で鉄平を見る緑。その様子を、偶然同じプールに来ていた節子と久美が目撃する。
節子たちを見つけた鉄平が緑に紹介するが、緑は最初てっきり節子のことを和子だと思い込んでしまう。鉄平を見る節子の目が、兄を見る目つきではなかったからだ。






そんな折、鉄平は語学力を買われてアメリカ支社への異動を内示される。異例の大出世だったが、アメリカ行きは和子と会えなくなることを意味していた。
鉄平はブローチに替えて高価なハンドバックを買い和子の元を訪れて求婚するが、母や兄のことが心配な和子は、鉄平の申し出を固辞した。頑なな彼女の態度に、さすがの鉄平もあきらめざるを得なかった。
鉄平のことが気になって仕方ない節子は何かと兄にちょっかいを出すが、落ち込んでいる鉄平にきつい言葉を言われて深く傷ついた。

加代は緑との縁談に大乗り気だったが、息子の様子を見ていた銀作は鉄平を飲みに誘う。美人のマダム玲子(白川由美)が営む鉄平行きつけのバーで、銀作は息子の背中を押した。
アメリカ行き3日前、和子のことをあきらめきれずに鉄平はもう一度川崎を訪れる。しかし、健一とともに弘吉の喧嘩に巻き込まれた鉄平は、怪我を負い入院してしまう。アメリカ行きがなくなったばかりか、鉄平は急遽九州支社への異動を命じられた。

鉄平の様子を見ていた節子は、このままでは兄が駄目になると思い、大好きな兄のために一大決心して行動に出る。兄のアメリカ行き当日、炎天下の中を節子は川崎に赴くと和子に兄との結婚を直談判した。
始めは頑なだった和子も、節子のあまりの真剣さに心動かされて鉄平との結婚を承諾する。元々、彼女も鉄平のことが好きだったのだ。大喜びの節子は、空港にいる鉄平に連絡する。
羽田空港で呼び出しを受け電話口に出た鉄平は、節子から事の一部始終を知らされる。そして、電話口に出た和子に、鉄平は弾んだ声で話しかけるのだった…。

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人気の若手スターと豪華キャストをそろえて撮った、キッチュな恋愛&ホームドラマ的仕上がりの作品である。
「何だか、予算をかけたスター主演のテレビドラマを見ているような感じだな…」と思いつつ僕は鑑賞していたのだが、本作を原作にテレビドラマも作られたようだ。やっぱり、テレビドラマとしてもいい素材だったのだろう。
人気絶頂の加山雄三、内藤洋子、酒井和歌子を起用して撮られた青春映画なのだが、無神経なくらいに馬鹿正直でやや鈍感なモテ男、近親相姦すれすれに兄を慕う可愛い妹、美人で聡明だが頑固で訳ありの女性という相関関係とかなり強引な展開で、狙いというよりも結果としてやや風変わりでストレンジなドラマになっているように思う。

個人的には、やや垢抜けない素朴な内藤洋子のキュートさと、お嬢様然とした酒井和歌子の可憐さが堪能できればそれで満足な一本で、かなり能天気な展開については心の中で笑ってスルーしちゃいましょう…的な感じで楽しめた。
結構、突っ込みどころ満載である。

女子社員の仕事と言えばまずはお茶くみ、男性はどこでもスパスパ煙草を吸うといった描写はまさしくこの時代のスタンダードな世情だし、銀座や阿佐ヶ谷の町と対比され徹底的に場末のすすけた町として描かれる川崎も如何にもである。
節子が和子を説得しようとポーコックに向かう道すがら、砂埃舞う工場町の壁に貼られたピンク映画のポスターが風にたなびくシーンがかなり強烈な印象を与える。ピンク映画好きとしては作品名が気になるところだが、残念ながら判読できなかった。

専務が謀っての見合い話とか、アメリカ支社栄転のはずが一転して九州支社へ左遷気味の異動という展開もかなり強引だし、和子をめぐる状況もなかなか漫画的なやさぐれ加減である。
でも、一番ストレンジなのは、節子がピアノを習っているロミ・山田演じる藍子という女性。如何にも裕福そうな庭の広い家に住み、同居しているのはアメリカ人(アンドリュー・ヒューズ)。「あなたのお兄さんのお見合いについて、占ってみましょう」と言って唐突にカードを取り出したり、節子をスポーツカーにのせて乗せてドライブに出かけていきなり彼女にキスする突飛な行動。まさしく、「お前、誰やねん!」な感じである。
節子の奮闘で鉄平と和子はめでたく結ばれる訳だが、公衆電話越しのやり取りでのエンディングが、何とも中途半端で歯切れが悪いのも気になる。

本作は、いささか風変わりな昭和青春映画の徒花的一本。
ロミ山田の正体を悩みつつ、内藤“でこすけ”洋子と酒井和歌子の魅力に酔うのが正しい見方である。




余談ではあるが、小鹿番の女房役・悠木千帆(樹木希林)は、この当時からすでに老けた感じでキャラが一貫していると思う。


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