2016年8月30日、中野Sweet Rainで纐纈雅代さんが演奏するライブを観た。
纐纈雅代(as)、伊藤啓太(b)、外山明(ds)という面々は、要するに内橋和久を除いたBand of Edenということである。
では、この日の感想を。
第一部
1.African Shower(纐纈雅代)
『オレンジ・エクスプレス』の頃の渡辺貞夫を思わせるような、おおらかで開放的に奏でられるアルト・サックスに、タイトなベースとパーカッシヴなドラムス。途中で聴かせる饒舌なフレーズにも纐纈らしさを感じる。
2.天岩戸(纐纈雅代)
朗々と歌う纐纈のソロから入り、ベースのアルコとドラムスが加わる。ジャパニーズ・オリエンタル風味のスピリチュアル・ジャズといった音像とエリック・ドルフィー張りのむせび泣くようなフレーズが刺激的だ。
3.ヤドナシ・ブルース(纐纈雅代)
骨太でフリーキーなブロウを聴かせるサックス、ドラムスのタイム感、タメを利かせたベース・ランニング。リズム隊のグルーヴィーな掛け合いが、何とも気持ちいい。和太鼓のようなドラム・ソロも面白い。
再び三人に戻っての演奏は引き締まった音で、有機的なコンビネーションを聴かせる。
4. カラスの結婚式(纐纈雅代)
ブルージーなサックスとマイナー調の旋律を聴かせるベースのアルコ・プレイ。サックスがメロディをまくしたててからは、自由奔放に疾走する演奏。構築から解体へと変貌して、再び構築へと揺れ戻すアンサンブルは、「哀しみのサーカス」とでも表現したくなるような不思議な切なさを漂わせる。
第二部
5.Broadway Blues(Ornette Coleman)
饒舌、メロディアス、フリーキー、猛々しさといった様々な要素をごった煮にした如何にもオーネット・コールマンのユニークな楽曲を変幻自在のプレイで吹きまくる纐纈の男前なサックスにしびれる。
彼女のプレイを絶妙な距離感でサポートする伊藤と外山のアンサンブルも聴きものである。
6.Un Poco Loco(Bud Powell)
歯切れのいいシャープな演奏で、エスニックなムードから暴力的なワイルドさへと大きく振幅する演奏が圧巻。緩急を使い分けた見事なリズムは、遊び心もあって楽しい。
この日の白眉と断言できる素晴らしさだ。
7.Monk’s Mood(Thelonious Monk)
徹頭徹尾モンク的なメロディを伸びやかに力強くプレイする纐纈のサックス、酩酊感漂うヒプノティックなリズム隊。スケール大きな三人の演奏は、とても魅力的。
8.卑弥呼(纐纈雅代)
ジャズ・ジャイアンツたちの有名曲をセレクトした第二部の最後を飾るのは、纐纈作Band of Edenの定番曲。
和風の旋律をベースにしつつ、ハイ・トーンの自由なフレーズを炸裂させるサックス。さらに、畳みかけるように音の塊を叩き付けるブロウがオーディエンスの耳を挑発する。とてもパーカッシヴで、攻撃的なプレイだ。ギミックに富んだユニークなドラム・ソロも刺激に満ちている。
ある種の幽玄ささえ感じる後半の展開から、ラストは再び圧倒的な音圧で攻め込むプレイが美しくも爽快。まるでディック・デイルのサーフ・ギターの如き伊藤のアルコ・プレイは、ヒリヒリするような皮膚感覚である。
纐纈のオリジナルとジャズ・クラシックをバランスよく配したセットリストは、なかなかに濃密でオリジナリティにあふれた至福の時間であった。
フリー・ジャズで攻撃的に煽ってくる纐纈さんのプレイも大好きだけど、先達のジャズ資産と真摯に向き合う彼女も素敵だ。
心楽しい中野の夜であった。