2016年9月19日、新宿PIT INNで9月19日生まれのミュージシャン三人による企画ライブ「生誕SHOWER919!」を観た。ちなみに919は「クイック」と読むらしい。
今は活動を休止している秘宝感で出会った熱海宝子と纐纈雅代が、実は同じ誕生日だったということで2011年から始まった「生誕SHOWER 919!」。今回、三年ぶりに再開の運びとなった。
トースティーfeat.熱海宝子(うた)、纐纈雅代(sax)、勝井祐二(vln)
ゲスト:原田仁(b)、Nii Tete(perc)、竹村一哲(ds)
ステージ上での話によると、ほとんどのメンバーは初めましてに近い感じらしく、互いの空気を読むような微妙な雰囲気が可笑しい。
ROVOの勝井さんは、最後まで「なんで、俺ここにいるんだ?」的で居心地悪そうな投げやり感が面白かった。
では、この日の感想を。
第一部
1.熱帯感
法螺貝を吹く纐纈を先頭に、メンバーが雑然とステージへ。纐纈がカリンバを、勝井がトレードマークともいえる浮遊感のあるエレクトリック・ヴァイオリンを奏で、そこにトースティーのボイス・パフォーマンスとタイトでパーカッシヴなリズムが加わる。
音響派アプローチのアヴァンギャルドなR.I.O.的出だしから、次第にアフロ・スペーシーな音像が形成されていく過程がスリリングだ。
纐纈のホットなブロウ、勝井と原田のROVOコンビによるクールなサウンド、トースティーの人を食ったようなボイス、ミステリアスでヒプノティックなアンサンブル。
後半では、メンバー全員のプレイがアグレッシヴにヒートアップしていき、ラストはまるでキング・クリムゾン「太陽と戦慄パート2」を思わせるような凄まじさに興奮した。
2.勝井祐二シャワータイム
「シャワータイム」の意味が分かりませんが(笑)エフェクトをかけたリリカルで物悲しいヴァイオリン・ソロで始まり、そこにサックスとボイスが入ってくる。ノイジーでストレンジなアンサンブルにリズム隊が加わり纐纈のサックスが咆哮すると、ジョン・ゾーンが現代音楽を演奏しているようなサウンドから、次第にエスノ・トライバルとアフロ・グルーヴをミクスチュアしたような独特のジャズ・ファンクへ変貌する。近い音があるとすれば、トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』あたりか。
纐纈とトースティーが抜けて勝井のヴァイオリン主導になるラストは、スペース・ダブというべきユニークなサウンドが現出した。
3.纐纈雅代シャワータイム
篠田昌已のコンポステラを想起させるような纐纈のサックスソロは、まるで昭和のサーカス団の如き哀愁が気分だ。
アルバート・アイラーと阿部薫を行き来するようにブルージーな調べをブロウすると、音は饒舌さを増していき凶暴なジャズ・ロックが牙を剥く。ニテテのパーカッション・ソロから祝祭的なアフロ・グルーヴに表情を変え、雅楽的に収束する構成が熱い。
第二部
4. トーストシャワータイム~海獣のバラード
頭にトースターを被りパンを焼くという奇天烈なパフォーマンスをしながら、ストレンジでファニーな曲を歌うトースティー。
小道具のホイップ・クリームが最前列のお客さんに飛んでしまうという、ハプニングな展開に苦笑してしまうが、それもこの人のキャラクターに飲み込まれてしまうところはある種の人徳…といえなくもない(苦笑)
5.原田仁ボイスタイム
トースティーと原田によるカオスなボイス・パフォーマンス合戦から、土着的でパーカッシヴなアンサンブルへと展開する万華鏡的なサウンドがエキサイティングだ。
シャーマニックなたたずまいを見せて進む演奏は、フェイク歌謡から怒涛のファンキー・ミュージックへと疾走する。
6.ニテテ&竹村一哲タイム
ニテテのパーカッション・ソロに竹村のドラムスが絡み、そこに原田のハーモニカと勝井のヴァイオリンが加わる。ポリリズミックなアフロ・ファンクが体を震わせる。
そこから、メンバー一丸となって聴かせるのは、まるでアフリカ奥地で人知れず奏でられる呪術的な秘境グルーヴだった。
-encore-
7.ボレロ(空中ネコちゃん)
飄々とコミカルに歌うトースティーのバックで、メンバーはボレロのメロディーを演奏する。そこに、猫の仮面を被った女性ダンサーも加わり、この日のライブはハッピーでファニーなエンディングを迎えた。
何ともとぼけたMC、つかみどころのない雰囲気、噛み合ってるんだか噛み合ってないんだか分からない三人のやり取りで進行したライブは、いざ演奏が始まると途端に発火するようなステージが何ともスリリングでオリジナリティに富んでいた。
「このメンバーなら、多分こういう音になるよな」と思って僕は足を運んだのだが、思った以上に熱い演奏で十分に楽しめた。
願わくば、来年も勝井さんに参加してほしいと思うけど、どうなんでしょう?
メンバーの皆さん、お疲れ様でした!