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吉川鮎太『Groovy』

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『Groovy』(2017年8月13日公開)
企画:直井卓俊/監督・脚本・編集:吉川鮎太/劇中曲:ベントラーカオル「MICHA」/撮影:米倉伸、清田洋介/照明:杉村航/録音:村原孝麿/美術:武藤夏美/助監督:金山豊大/制作:中谷天斗/配給:SPOTTED PRODUCTIONS
MOOSIC LAB 2017長編部門公式出品作品
2017/日本/カラー/ステレオ/70分

 



こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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1日に約100人もの人が自殺している自殺大国、日本。
音楽研究家の神崎(今泉力哉)は、追い詰められて自殺の際にいる人を思いとどまらせるための力となる音楽を作り出すべく、日々取り憑かれたように研究を重ねている。神崎は、偶然出会った吉川鮎太(同)に、自分のことを撮るように依頼した。
神崎が主として行っているのは、幻聴を訴える人と会って彼らの頭の中で鳴っている音楽を口ずさんでもらい、その曲を録音するという一種のフィールドワークだった。今も、神崎は掲示板でコンタクトを取った相手(新谷惇泰)と喫茶店で会い、インタビューを行っていた。

吉川は、招かれて神崎の家を訪れた。神崎の家には、研究用の録音機材やパソコン、モニターなどの機械が置かれていた。神崎は、女性(しじみ)と暮らしていた。彼女は、酷い男と付き合い四度堕胎した末に捨てられた過去を持っている。その時のショックで、言葉を発することができなくなっていた。
神崎と彼女は、もっぱら音でコミュニケーションを図っていると言い、ことあるごとに神崎は何かを叩き、彼女はリコーダーを吹いた。
神崎は勝手に買いかぶっているが、吉川は映像作家でもなんでもなくただの動画投稿好きに過ぎず、おまけに彼はある種求道的な神崎の行動に対して冷笑的だった。彼は、自分の番組「鮎太君チャンネル」でも神崎のことをネタ扱いしている。

神崎は、深刻な幻聴と自殺願望に悩まされる女性(吐山ゆん:破れタイツ)のマンションを訪ねる。彼女は顔色が悪く、塞ぎ込んだ表情で自分ことをぽつりぽつりと語った。誰が見ても、すでに彼女はかなり危険な状態のようだった。
神崎が幻聴で聞こえる音楽について口ずさんでほしいと頼んでも、彼女は頑なに拒んだ。結局、音楽は聞けずじまいでこの日のインタビューは成果なしだった。

吉川は、また神崎に呼び出された。全裸で実験台に横たわる女(しじみ)の体に、神崎は砂鉄を混ぜたローションを塗りまくった。神崎の手が這うたび、彼女は喘ぎ声をあげる。その声を電気的に音楽に変換し、彼女のエクスタシーで作曲された音楽こそが自殺を食い止める音楽になると神崎は確信していた。
ところが、その曲では思った効果が上がらず、神崎は彼女に寄せる想いが弱いからだと深く落ち込み自分を責めた。

神崎は、研究の突破口となる奇策を思いつく。神崎は道でギターをかき鳴らしている男(谷口恵太)に近づくと、女とセックスしてほしいと頼み、懐からギャラの札束を見せた。男は、内心恋人(石倉直実)の顔を思い浮かべつつ、結局は引き受けてしまう。
神崎、吉川と共に神崎の家を訪れた男。寝室のベッドの上には、全裸姿で縛られた彼女が事情も分からぬまま横たわっている。隣の部屋で神崎がモニターする中、男は激しく抵抗する彼女を犯した。
事が終わり男が帰ると、寝室に入った神崎は彼女の拘束を解いた。彼女は、激しく神崎を叩いた。

試行錯誤の末、再び神崎は彼女とのローションセッションを敢行。ついに、神崎の思い描いた自殺防止音楽への手応えを得ることとなった。このセッションを終えた彼女も、今回は上機嫌で穏やかな笑みを浮かべている。神崎は、こんな表情の彼女を本当に久しぶりに見て、得も言われぬ達成感と心地よい疲労感に浸った。
神崎が自殺防止音楽を作ることに取り憑かれたのは、ずっと自殺衝動の中ギリギリの状態で何とか生をつないでいる彼女を救い出したいという恋慕の想いからだった。そう、神崎はこの女を深く愛し片想いしていたのだ。

神崎は、完成した音楽を真っ先に聴かせたい相手がいた。それは、とうとう自分の幻聴音楽を聞かせてくれなかったあの女性だった。神崎は、彼女に音源を送った。
ところが、一週間が過ぎても彼女からは何の音沙汰もない。不安を感じた神崎は、吉川を伴って彼女のマンションへと急いだ。
マンションに到着して、先に部屋に入った神崎の悲鳴が聞こえた。慌てて部屋に入った吉川の目に、こと切れて大の字になった女とその横で頭を抱えている神崎の姿が飛び込んだ。
「僕の実験は、失敗だった!」と絶叫するパニック状態の神崎を何とかなだめようとする吉川を、神崎は逆切れして叩き出した。

これで終わったと思い込んでいた吉川の元に、また神崎から連絡が入る。半信半疑で久しぶりに神崎の元を訪れる吉川。
すると、神崎は音楽を流しながら彼女に金属バッドで力いっぱい自分を殴れと強要していた。すでに、実験室には血だまりができている。吉川が止めようとしても、黙ってこの状況を撮れと神崎は言った。
泣きながら神崎の体に金属バットを振り下ろす彼女。その彼女に向って、神崎は残酷な言葉の数々を投げつけていく。壮絶な地獄絵図が続いたが、彼女が振り下ろした金属バットが神崎の後頭部を強かに痛打し、すべてが終わった。

時が経過した。
ホームに立って電車を待っている彼女。神崎は亡くなったが、彼はこの世に成果を残した。電車が入線すると、神崎が作曲したあの旋律がホームに流れた。
彼の音楽に自殺防止効果が認められ、電鉄会社が採用していたのだった。

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かなり大きな問題を抱えた作品だと思う。僕は、残念ながらまったく駄目だった。
映画と音楽の化学反応を標榜するMOOSIC LABにエントリーした「Groovy」というタイトルの作品にもかかわらず、映画にリズム感が乏しく一向にgrooveしないのである。

大きく映し出される空、背中を丸めた今泉力哉、自殺件数についてのモノローグ、「Groovy」のタイトル。不穏なフェイク・ドキュメンタリー的語り口で静かに始まるスケールを感じさせる冒頭に引き込まれるのだが、映画は進んでいくうちにどんどん話は如何にも低予算のカルトでミニマムな物語へと矮小化してしまう。

自殺防止音楽の研究に没頭する神崎の動機が一人の女を振り向かせるためというのはいいとして、登場人物たちが話す会話の脚本的な言葉選びに首を傾げる部分がいくつもあったし、そもそも作品として確たる芯のようなものがなく、見せ方の焦点がぼやけている印象だった。
鮎太君チャンネルという動画シーンは見ているだけでストレスだったし、谷口恵太と石倉直実のシーンや谷口にしじみを無理やり犯させるエピソードも、もう少し何とかならなかったのかと思う。

 


しじみにリコーダーを吹かせるチープな演出もどうかと思うし、ある意味映画のクライマックスとも言えるしじみが今泉を金属バットで撲殺するシーンも、いくら今泉が大声で叫んだところで殴り方がふにゃふにゃだから迫力に欠ける。

電波系的に飛んでしまっている吐山ゆんの病んだ演技は悪くなかったが、彼女が息を止めすぎて生命の危険を感じたというマンションでの自殺後のシーンも、もっと違った見せ方があったのでは。水揚げされたマグロのように、仰向けで大の字になった姿を足の方から映されてもなぁ…と思う。
すべてが何とも中途半端だから、「神崎の残した音楽は現在自殺防止に一役買っている」というエンディングがどこか空々しく響くのである。


本作は、もう少しドラマ構築と演出が違っていれば随分と印象も違ったはずである。
個人的には、しじみの脱ぎっぷり以外あまり見るべきところのない作品だった。


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