監督、脚本、編集、キャラクターデザイン:西村喜廣/脚本:佐藤佐吉/製作:坂本敏明/プロデューサー:山口幸彦、楠智晴、山口雄大/撮影:鈴木啓造/照明:太田博/美術:佐々木記貴/録音:西條博介/衣裳:中村絢/ヘアメイク:征矢杏子/VFXスーパーバイザー:鹿角剛/特殊造形:下畑和秀、奥山友太/アクション監督:坂口茉琴/音楽:中川孝/キャスティング:安生泰子/助監督:片島章三/制作担当:真山俊作/特殊コスチューム:カリわんズ/アクション監修:匠馬敏郎
製作:キングレコード/制作プロダクション・配給:アークエンタテインメント
宣伝コピー:「TOKYO IS NO FIRE.」
2017年/日本/カラー/ステレオ/100分
こんな物語である。
齢50にしていまだ独身の冴えない中年男・野田勇次(田中要次)は、債権回収会社の社員として債務者宅に借金取り立てのため日参しているが、元来気弱でお人好しの野田はノルマを達成できずに社長の田ノ上(川瀬陽太)から日々叱責を受けている。おまけに、浪費家の母がしょっちゅう遊ぶ金欲しさに野田に連絡してくる。
そんなわびしい人生を送っている野田の唯一の楽しみは、行きつけの古本屋で落語の中古カセットを買って聞くことだった。古本屋に行くもう一つの目的は、そこでバイトしている三田カヲル(百合沙)の顔を見ることだった。
相変わらず借金の回収は思うに任せず、ノルマの足しにとその場しのぎのキャッシングさえ限度額を超え、おまけにこのところ感じていた激しい胃痛の原因ががんと診断される始末。失意にかられた野田は、半ばやけくそになってこれまで焦げ付いていた借金を強引に取り立てて行った。
ところが、ストーカーと間違われて警官隊(島津健太郎、山中アラタ、屋敷弘子、栄島智)に追われた挙句、呼び込みで入ったぼったくりバー(マダム:鳥居みゆき、キャバ嬢:水井真希、松田リマ、倖田李梨)で回収した金を巻き上げられてしまう。
しつこい男・酒井(三元雅芸)に言い寄られて困っていたカヲルをたまたま助けたら、彼女から怪しげなフレンドリー教会の集会に招待され、野田はすべてが嫌になってしまう。
野田が取り立てで街を歩き回っていた時、幾度か山高帽子にマント姿でライン引きを押している不思議な女(しいなえいひ)を見かけていた。その女が、何日もかかって野田が住む街を一回りして白いラインを引き終える。すると、空から巨大なフラスコが降りてきて街を遮断してしまう。
フラスコの内側に隔離された人々を、謎の小型生命体ユニットが襲う。ユニットは、人に取り憑いて触手で眼球を貫き、寄生された人はネクロボーグと化して殺し合いをするように操られた。
警官隊に囚われ、留置されていた野田にもユニットの魔の手が伸びるが、彼は間一髪でユニットの完全支配から逃れ、自分の意思を残したまま半ネクロボーグ化した。
野田は、ネクロボーグの戦場と化したカオスの街に出て、想いを寄せるカヲルを探し始めるが…。
キャスティングの遊び心やほとんど必然性を感じさせないエロティックな描写も含めて、西村喜廣が「とりあえず、やりたいことをすべてぶち込み派手に血を飛び散らせて、カオスな映画を撮ってみた」的な印象を見る者に与える外連味あふれた作品である。異色忍者映画の快作『虎影』(2015)に出演していた役者も多い。
らしいという意味では、実に西村映造らしいテイスト満載の映画だと思うが、個人的には今ひとつノレなかったというのが正直なところである。
僕が一番ダメだったのは、前半の展開が何とも冗長で、しかもストーリーテリングとしてあまりにも定型的なドラマに感じられたことである。
気弱で仕事もままならない取り立て屋とか、粗暴な社長とか、憧れの女の子はカルトっぽい教会の信者であるとか。ぼったくりの暴力キャバクラにしても、奇をてらったようなライン引きの女にしても、何となく既視感を伴う設定である。
恐らくは意識的なのだろうが、前半部分であえてこういう型にはまったストーリーに尺が割かれるため、フラスコで街が隔離された後のネクロボーグ・バトルに映画的なエンジンがなかなかかからないように思った。
なまじ、前半にまっとうな物語が据えてあるがゆえに、後半における奇想天外なバイオレンスから、「蠱毒」と冠された意図が明白になる斉藤工扮する「ラララむじんくん」みたいな宇宙人のキッチュなオチに至るまで、映画がやや空回りしている印象なのだ。
『虎影』にあった、あえて西村流に屈折させた忍者ものという心意気や、外連とニヒリスティックな毒をばらまきつつも、不思議な風通しよさとドラマ的カタルシスをしっかり備えたドライヴ感に乏しいとでも言えばいいか…。
その中にあって、本作における個人的カタルシスのピークと言えば、島津健太郎が演じた警官隊長殉職の場面だった。
その意味では、もっとあざとい映画的な収束を見せてほしかったなぁ…と思ってしまった。
余談ではあるが、屋外プレイに興じているうちに降りてきたフラスコで切断されてしまうカップルを高橋ヨシキと若林美保が、テレビ・コマーシャルに登場する原住民を石川雄也が演じている。
また、ピンク映画好きなら、田中要次と川瀬陽太のツーショット・シーンを見て女池充監督『ぐしょ濡れ美容師 すけべな下半身』(1998)を思い出した人もいるだろうし、「田中要次の初主演映画っていうけど、本当は新里猛作監督のピンク映画『痴漢タクシー エクスタシードライバー』(1999)に主演してるんだよなぁ」と思った人もいるだろう。
本作は、やりたい放題の突き抜けてカオスな作品。
ただ、異才・西村喜廣監督には、さらなる高みを目指してほしいと願わずにはいられない一本でもある。
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