2017年10月11日、吉祥寺MANDA-LA2にて纐纈雅代と若林美保のコラボ企画「解禁」シリーズの第4弾を見た。今回のゲストは辰巳小五郎である。スガダイローをゲストに迎えて2015年8月17日に行われた第3弾以来、2年2か月ぶりの「解禁」である。
纐纈雅代(アルト・サックス、法螺貝、神楽笛)、若林美保(ダンス)、辰巳小五郎(トランペット、ガジェットギター、テルミン)
第一部
纐纈雅代SOLO
一人ひっそりステージの向かって右脇に立った纐纈雅代が、朗々とアルト・サックスを吹き始める。まるで、アンプリファイドした海童道宗祖の法竹を聴いているような深遠で土着的な音像が心に染みる。次第に激しさを増していく音は、まるで吉祥寺の夜を切り裂くかのようだ。
若林美保×纐纈雅代DUO
赤いフード付きのベッド着を身にまとった若林美保が、静かにステージに登場。纐纈のサックスの波間を漂うように踊ると、黒のコルセット・ランジェリー姿になって彼女の真骨頂とも言える赤い縄を使っての自吊りによる空中パフォーマンス。そして、黒いシースルーのキャミソール姿にチェンジしての舞い。
派手なギミックを一切排し、抑制された音数と踊りでのパフォーマンスは、まさしく日本的様式美そのもの。吉祥寺の雑居ビル地下にあるライブ空間が、まるで夜の海に変貌したような幽玄の世界である。
積み重ねてきた「解禁」、そして今年5月にストリップ劇場ニュー道後ミュージックで4日にわたって行われた二人のパフォーマンスの成果と断言できる誠に素晴らしいコラボレーションである。
辰巳小五郎SOLO
ビブラートのかかった伸びやかなトランペットは、幾ばくかの哀愁を帯びた美しさ。PCで重ねられた音の波が、重層的なモアレ状の音塊を作り出し、それが音宇宙となって会場に解き放たれていく。その、得も言われぬ刺激に震える。
若林美保×辰巳小五郎DUO
辰巳の作り出す音の中で宇宙遊泳するように、きらびやかなステージ衣装で踊る若林。その所作は儚く、そして美しい。
ただ、スペース・ダブの如き圧倒的な音像の中で、彼女は後半いささか踊りあぐねているようにも見えた。
纐纈雅代とのDUOでは、纐纈がブロウに“若林が踊るべき、音の隙間”を持たせるよう細心の注意を払い、あうんの呼吸で演奏していたからだろう。それに比して、辰巳の演奏はある意味彼のトランペットだけで世界が完結してしまっていたようにも思う。
それが、少し残念だった。
第二部
辰巳小五郎×纐纈雅代DUO
纐纈が法螺貝の音に、辰巳がトランペットのマウスピースを吹いて応じる。そんな遊び心でスタートすると、楽器をアルトサックスとガジェットギターに持ち替えて次第に音はインダストリアルでアヴァンな音響派的雰囲気を帯びていく。それは、まるでニューヨークはニッティング・ファクトリーにおけるジョン・ゾーンの演奏のようで実に刺激的。聴いていて、思わずニヤリとしてしまう。
若林美保×纐纈雅代+辰巳小五郎
ステージの両端で演奏する二人の間に、若林が登場。音が止んだ静寂の中、一人踊る若林の足音だけが聞こえる。それなりに尺が取られているため、個人的には途中で某かの音楽的なギミックが欲しいところである。
若林が自吊りすると、それを合図に辰巳がテルミン、纐纈が神楽笛を奏で始める。ややアンサンブルに粗さはあるものの、アブストラクトな雰囲気は悪くない。
第一部での若林×纐纈DUOに続き、今夜二度目のハイライトはまさにここからだ。「解禁3」でも演奏された「ハーレム・ノクターン」が、スペイシーに、そしてキャバレー的猥雑さでプレイされた。その、何とも言えない妖しい色気にゾクゾクする。そこから、曲は「愛の讃歌」へ。その切ない美しさに息を飲む。
そして、辰巳がリードするエピローグ的な演奏をもってこの夜の「解禁」は幕を下ろした。
回を重ねるごとに、新たなる刺激を与えてくれる「解禁」シリーズ。その第4弾で、纐纈雅代と若林美保は一つの節目と言ってもいいような充実したプレイを見せてくれた。
いささか陳腐な表現で何なのだけど、やはり「継続は力なり」という言葉が頭に浮かんだ。
終演後、僕は演者三人と「解禁」シリーズのプロデューサー桜井さんと少し話してから、会場を後にした。心楽しい吉祥寺の夜。
少し気が早いが、次回を楽しみに待ちたい。