2017年10月21日、西新宿GARBA HALLでNAADA二度目のワンマンとなる「NAADA HOUSEへようこそ vol.2」を観た。
今年唯一のNAADAライブで、ほぼ一年ぶりのワンマンである。僕が彼らのライブを観たのは去年11月17日の川口CAVALLINO以来、この日が通算48回目。
NAADA : RECO(vo)、MATSUBO(ag)、COARI(pf)
会場のガルバホールは、2015年11月に閉館された白龍館をリニューアルして2016年12月にオープンした音楽ホールである。
モーツァルトの「魔笛」をイメージしたという劇場は、モザイクタイルやステンドグラスが散りばめられたアールデコ調の意匠が施されており、こぢんまりとしたクラシカルでシックな佇まいとどっしりした92鍵盤を有するヴィンテージのグランドピアノ「ベーゼンドルファーmodel275」がひときわ目を引く。
50席くらい配された席はほぼ満員で、遠方から来た人もいたようだ。
現在のNAADAは、ファンの目に見える活動としてはYouTube上でカバー動画を毎週欠かさず更新しているNAADAchannelをメインにしており、そのチャンネル登録数は7,200人を超えている。動画再生回数も、100万回を超えたものが数曲。彼らの音楽は、確実にリスナー数を増やしていると言っていいだろう。その反面、ライブは目立ってその本数が減っており、去年は5本、今年は今回のワンマン1本だけである。
ただ、長年NAADAの音楽を聴いてきた人ならお分かりのことと思うが、彼らは決してライブ・パフォーマンスがメインのユニットではなく、基本的にはスタジオ・ワークにこそその音楽的真価が発揮される。もちろんライブ演奏もいいが、彼らの音楽キャラクターを存分に表現できる場は、スタジオ録音になるということだ。卑近な例を挙げるならば、後期のビートルズやスティーリー・ダンがそうであったように。
そんなこともあり、近年はライブ活動よりも作品制作の方にシフトしているのだろう。そこに、自身の音楽活動をフォーカスしている訳だ。その成果が、上述したようなYouTubeの数値として明確に表れている。
今回のワンマンは、彼らにとって一つのファン・サービスというかリスナーとの音楽的コミュニメーションの場であり、いささか風変わりな(けれども、それ以外の表現が見つからない)比喩を使うなら、自身の音楽を「放牧」するという意味合いがあるのだろう。
自分たちが紡ぎあげてきた曲たちを外気に当てることで、ブラッシュアップとリフレッシュするということだ。僕は、ずっと彼らのライブ演奏を聴いてきたファンなので、その音楽的な放牧体験を共有するために、会場に足を運んだ。
コンサートは途中20分の休憩を挟んだ二部構成で、実質的な演奏時間は3時間半を超える長丁場だった。
ユニークだと思ったのは、第一部「太陽のステージ」がわりとMC多めの和やかな演奏だったのに対して、第二部「月のステージ」がMCも拍手も一切なしの極めてストイックな演奏だったことである。
演奏されたのは、アンコールも含めて全34曲だった。
事前にちょっとした用事があったのと、元来極度の方向音痴ゆえに僕が会場に到着したのは開演時間ぎりぎりだった。で、場内に入ると空いていた最前列右端の席に滑り込んだ。その席は、ボーカルのマイク・スタンドが立っている真ん前に位置しており、当然のことながら演奏が始まると「RECOが、僕の目の前で歌っている…」みたいな状況だった。
それはそれでいいのだけど、これが結構落ち着かない。演奏内容とはまったく関係ないことだけど、僕は一人暗く後部座席に座ってひっそり聴いている方が性に合ってるからだ。「あれ、来てたの?気付かなかったよ」みたいな感じで。
歌っているRECOと目が合うと、ついつい下を向きがちである。
和やかなリラックス・ムードで進んだ「太陽のステージ」では、最初の3曲でボーカルが後ろに下がっている印象だった。ギターのバランスはいいのだが、何故かピアノの音が前にせり出すように聴こえて、歌がその陰に隠れてしまうように感じた。4曲目以降は、バランスが整い特に気にならなくなった。
個々の感想は書かないが、第一部の個人的ハイライトは「HANABI」だった。しっかりした演奏と力強いボーカルがストレートに突き刺さるこの曲を聴いていて、とても気持ちが昂った。
そして、ラスト3曲「winter waltz」「約束の場所」「RAINBOW」の流れに、まだ二人組ユニットだったNAADAが新宿のSACT!で演奏していた頃のことを思い出して、何だか懐かしくなった。あぁ、確実に時間は流れているのだな…と。
一転してストイックな雰囲気に貫かれた第二部は、とにかく音楽的純度の高い演奏が繰り広げられた。個人的には、みんなで手拍子的な感じより、音楽鑑賞に特化されたステージの方が落ち着く。
後半で聴かせた「echo」~「fly」は、NAADAのライブでは一つのハイライトを構成する楽曲で、この日も素晴らしいテンションで研ぎ澄まされた鋭利なプレイが心に響いた。「Twill」のエモーションあふれる歌唱、エピローグに相応しい静謐な演奏が余韻を残す「sunrise」も染みる。
前回のワンマンではなかったアンコールが2曲あり、最後に演奏されたのはポジティヴな「僕らの色」。
RECOも自身のブログで書いているから僕も書くのだが、彼女には喘息があってこの日もコンディション的には結構厳しい状態だったらしい。
確かに、第一部から曲間でちょっと咳をする場面があり僕はひやひやしていたのだけれど、第二部では気管を絞って喉をコントロールしながら歌唱する感じだった。それでも抑えきれず、少し咳をする場面があった。僕は50回近く彼らの演奏を聴いてきたけれど、こんなことは初めてである。
元来がストイックで求道的、完全主義で自分に厳しいRECOだから、さぞや悔しかっただろうと推察する。それでも、ライブは素晴らしいものだった。
アンコールは「僕らの色」だろうと思っていた僕は、どんどんフォルテッシモに歌い上げる展開を見せるこの曲を求めていいんだろうか…とアンコールの拍手をためらったくらいである。
長丁場のライブは、彼ららしい生真面目な誠実さあふれるとても気持ちのいい時間だった。
4時間が長いと言うけれど、日常的に5、6時間某劇場に入り浸っている僕には全く苦にならなかった。
終演後、僕は久しぶりにRECOにこの日の感想を伝えて、ライブ会場を出たのだった。
これからの、NAADAの益々の活躍を期待したい。