新年といえばこの企画、再発CDアワードということで去年一年間のCD再発市場を振り返ってみたい。
ここ数年のCD再発事情は流石に出尽くした感があり、2017年もほぼ目新しいものはなかったように思う。というより、もはやパッケージ商品としてのCD自体がすでにガラパゴス化している印象である。
ダウンロードで音楽を聴かない身としてはかなり切ないものがあるが、それもまた時代の趨勢というやつなのだろう。
そんな2017年の再発シーンにおいて、僕が個人的にうれしかったものを順不動で挙げておく。
○ 佐藤奈々子 / FUNNY WALKIN’
佐藤奈々子が、まだデビュー前の佐野元春と作り上げたファースト・アルバム。「CD選書」の1枚から始まり、これが4回目のCD化にしてようやくちゃんとしたリマスターが施された。アレンジャーは大野雄二で、ジャジーでシックな音作りが印象的。
軽快なギターのカッティングとエレピの音色、ウィスパリング・ヴォイスの1曲目「サブタレニアン二人ぼっち」は、ジャパニーズ・シティ・ポップスの金字塔的な名曲である。
○ 竹内まりや / REQUEST
彼女の7枚目のアルバムで、MOONレコード移籍後の2枚目。プロデュースは、もちろん山下達郎。今となっては定番企画のセルフ・カバーだが、本作こそがその先駆けと言っていいだろう。中森明菜に書いた「駅」は、竹内まりやのバージョンの方が有名である。
分かりやすくキャッチーなメロディ、女性の心情をすくい取ったような歌詞、緻密なアレンジとポップ・ミュージックのお手本的1枚。
このアルバムが30周年を迎えたということに、驚きを禁じ得ないエヴァーグリーンな作品である。
○ resort / live 1976
山口冨士夫(ダイナマイツ、村八分、裸のラリーズ、ティアドロップス)と加部正義(ゴールデン・カップス、スピード・グルー&シンキ、ジョニー・ルイス&チャー)のツインギターで、7か月だけライブ活動を行った幻のグループ。そのライブ音源を蔵出ししたもの。
10年以上前、ユニバーサルの再発レーベルだったハガクレからリリースがアナウンスされたものの、もっといい状態の音源があるはずとのことで発売中止になった。その山口冨士夫の予言通り、良質の音源が発見されて今回のリリースとなった。
カバー曲とオリジナルで構成された演奏は、気心の知れたメンバーでのリラックスしたセッションといった面持ちで幻のグループといった仰々しさや緊張感はない。
ただ、日本ロック史におけるひとつの記録として意義のあるリリースだった。
○ YARDBIRDS / ’68
ジミー・ペイジが自ら興したJIMMY PAGE RECORDSからリリースされた、彼が在籍した1968年ヤードバーズのライブとデモ音源、アウトテイクをまとめた2枚組。1971年にリリースされるも、ジミー・ペイジの反対により10日で回収された『LIVE YARDBIRDS』に対する彼なりの落とし前的な1枚と言っていいだろう。
レッド・ツェッペリン飛翔前夜の貴重な記録として、歓迎したい蔵出しである。
○ KING CRIMSON / EARTHBOUND
長きにわたるキング・クリムゾンの歴史において、最大の問題作と言えばこのライブ盤だろう。メンバー間の対立により解体の途上にあった時期のライブで、強烈なテンションによる破綻すれすれのスリリングなプレイが聴ける。
当時、粗悪なブートレグのように会場でカセット録音された音源をリリースしたため、アイランド・レコードの前衛音楽を扱うHELPシリーズの1枚としてリリースされた。10年前に出された30周年盤でも音質の向上が図られたが、この40周年盤は決定版と言っていいだろう。悪いはずがないではないか。
ロバート・フリップのクールな理性が剥ぎ取られたような暴力的な荒々しさが、最高に刺激的である。
○ INMATES / THE ALBUM 1979-82
レッド・ツェッペリンのロバート・プラントをして「ベスト・ブリティッシュ・シンガー」と称えられたビル・ハーリーを擁するパブ・ロックバンドの初期作3枚をまとめたボックス。1998年に日本で1、2枚目がCD化されたこともあったが、リマスターで久々に再発された。発売元のLEMONは、積極的にパブ・ロック系のリリースを行っているレーベルである。
歯切れ良いサウンドが魅力の通好みバンドだが、ドクター・フィールグッドやグラハム・パーカー&ザ・ルーモアに比較するとやや存在が地味なのが残念である。もう少し、デビュー・アルバムの発売が早ければ…と思わなくもないが、良質なパワー・ポップとして再評価が望まれるバンドである。
○ THE JAZZ BUTCHER / THE WASTED YEARS
これも待望の再発。日本では、ネオ・アコースティックの人気バンドというイメージで語られることの多い彼らだが、様々な音楽をミクスチュアしたオリジナリティに富んだサウンドこそ彼らの魅力だろう。
この4枚組はグラス・レコーズからリリースされた初期4枚をまとめたもの。日本では、2008年に一度ヴィニール・ジャパンから2ndと4thが再発されたことがある。
ただ、彼らは何枚もEP盤を出しており、その音源もまとめてほしかったというのが本音である。
さらなる再発を期待したい。
○ PRINCE AND THE REVOLUTION / PURPLE RAIN
今さら何の説明も必要ない、2016年に急死した天才マルチ・ミュージシャンを世界的なスーパースターへと押し上げた代表作にして、本人が主演した同名映画のサウンドトラック盤。ようやくのリマスター盤である。
ヒットした2枚組の前作『1999』をさらに先鋭化したような斬新かつアヴァンギャルド、それでいてしっかりポップ・ミュージックとしての大衆性も備えた傑作で、今の耳で聴いてもその新しさに興奮する。
その後、プリンスは自身のレーベルであるペイズリー・パークを起こしてフラワー・サイケな音像とブラック・ミュージックをミクスチュアしたような『アラウンド・ザ・ワールト・イン・ア・デイ』、自分のルーツに回帰しつつ最新モードのファンク・ミュージックを聴かせる『パレード』、より洗練されたニューソウル的な『サイン・オブ・ザ・タイムス』等々といった傑作を連発する。
初のリマスター盤が彼の死後にリリースされたことは心境的に複雑だが、他の作品や12インチ・シングル等のリマスター再発も期待したいところである。
○ JOHN LEE HOOKER / KING OF THE BOOGIE
生誕100年を記念して編まれた、タイトルに偽りなしのキング・オブ・ブギーことミシシッピー・ブルースの巨人ジョン・リー・フッカーの全100曲収録5枚組ボックス。
ロックのファンには、アニマルズがカバーした「ディンプルズ」「ブーム・ブーム」やジョン・ランディス監督『ブルース・ブラザース』でカメオ出演的にギターを弾き語る老ストリート・ミュージシャンがお馴染みかもしれないが、彼はロックンロールにも多大な影響を与えた偉大なブルース・マンの一人である。
時代によって様々な音作りをしているし、ロック・ミュージシャンとも積極的なコラボレーションを行った人だが、やはりエレキギター弾き語りで朴訥な渋い歌を聴かせる初期のスタイルが聴く者に強烈なインパクトを与える。
初心者にはいささかディープなボックスだが、彼の長いキャリアを俯瞰するには良心的な力作に違いない。
○ V.A. / NEW JAZZ FESTIVAL BALVER HOHLE 1976 & 1977
マニアックな音源を積極的に発掘して世に出すドイツのBE!JAZZが、またしてもとんでもないライブ音源をリリースしてくれた。ドイツのバラブ洞窟で開催されたフリー・ジャズ・フェスティバルの8枚組で、収録時間8時間を超える大箱である。
当時の先鋭的ジャズ・ミュージシャンだけでなくベテランもバランスよく配された実に聴き応えのある圧巻の音源は、捨て曲なしの充実ぶり。ペーター・ボロッツマン、ハン・ベニックから、アーチー・シェップ、ジョン・サーマン、マル・ウォルドロン等々。個人的には、何といっても山下洋輔トリオの収録がうれしく、彼ら目当てで購入した。
とにかく、当時のジャズ・シーンを真空パックしたようなヒリヒリした刺激に満ちた音源の連続である。
唯一の不満は、曲のクレジットがすべてインプロビゼイションと表記されていること。そんな訳ないだろう。アルバート・アイラーの「ゴースツ」とかやってるんだから(苦笑)
○ JOYCE / ANOS 80
ブラジルで良質な再発を続けるDISCOBERTASから、人知れずひっそり出ていた感じのボックスがこれ。ブラジルの優れたシンガーソングライターであるジョイスが1980年代にリリースした傑作群を4枚組にまとめたものである。単体では日本でも何度か再発されているが、ようやくボーナス・トラック付きリマスター音源でリリースされた。「サバービア・スイート」のガイド本で、彼女のことを知った人も少なくないだろう。
邦題『フェミーナ』『水と光』『カリオカの午後』『未来への郷愁』と、どれも良質なブラジルのサウダージときらめきに満ちた素晴らしい作品たちである。
2018年再発で僕が密かに期待しているのは、昨年同様プリンスのワーナー傑作群リマスター再発、P音なしのじゃがたら『君と踊りあかそう日の出を見るまで』、生活向上委員会大管弦楽団『This is Music is This!?』『ダンス・ダンス・ダンス』。
加えて、バーブラ・ストライサンドのリマスター、ジェームズ・ブラウンのシングルでパート1&2のように分割されたものを編集なしの通しで収録したシングル集、バーバラ・ムーアや伊集加代子の仕事をまとめた企画盤もお願いしたいところである。