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2018.7.12「切実」@早稲田小劇場どらま館

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2018年7月12日、早稲田小劇場どらま館にて「切実」の舞台を観た。

 


「切実」は、岡部たかし岩谷健司を中心にした演劇ユニットで、今回は武谷公雄を客演に迎えた三人芝居である。
作:ふじきみつ彦/演出:岡部たかし/舞台監督:神永結花/音響:藤平美保子/照明:井坂浩/版画制作:岩谷健司/宣伝美術:木下いづみ/演出助手:四柳智雄(ピーチ)/制作:長谷川まや/製作:切実
協力:クリオネ、バードレーベル、プリッシマ、E-Pin企画、山北舞台照明、森下紀彦、櫻井忍、栗田ばね、ふじいるか、長澤琴美、市川舞、シバイエンジン
SPECIAL THANKS:石塚秀哉、市橋浩治、岡田重信、吹越満、宮崎吐夢、山内ケンジ(50音順)
なお、SPECIAL THANKSとしてクレジットされているのは、「切実」のTwitter公式アカウントに応援コメントを寄せた人々である。


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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夏休みも近い夏の盛り。近所の小学生たちの登下校を見守るボランティア・チーム「見守り隊」メンバーの日野は、汗をふきふき公園で他の仲間たちが来るのを待っている。なかなかやってこないメンバーに手持ち無沙汰の日野は、夏ミカンを食べたり、水筒にいれたスポーツドリンクを飲んだり、横断旗で寄ってくる鳩を蹴散らしたり、ピアニカの練習をしたりして暇をつぶしている。
そこに、見守り隊の会長(岡部たかし)がようやく到着。今日は下校見送りした時点で解散という段取りだったのだが、そのLINE連絡を日野が見落としていたのだ。未読であったため、気になった会長がいつもの集合場所である公園にやって来たのだ。

日野は、今年から新たに見守り隊のメンバーに入った独身の冴えない中年男だが、責任感と子供たちに注ぐ愛情は本物だった。その感覚がやや世間とズレているところもあり、会長は当初訝しんでいるところもあったが、今では見守り隊の一員として彼のことを信頼している。
日野は、おもむろに彼オリジナルの金貨のようなものを取り出し、一枚会長に渡した。頑張っている子供たちを励ますために彼が考え出した「きっとコイン」だという。確かに、金貨の真ん中には「き」という文字が書かれていた。
「会長の見守り隊での熱意だって、きっと伝わってますよ。お子さんに差し上げてください」と熱意を込めた目で日野は言った。手渡されたきっとコインをしげしげと見つめた後、会長は感じ入った表情でそのコインを握りしめて礼を言った。センスはまったく感じられないが、日野の気持ちは十分に伝わると会長。日野は、自分が褒められてるのか貶されているのか微妙の言葉に、やや腑に落ちないといった表情を浮かべた。
言わずもがなの、「きっとコイン」はビットコインにかけたネーミングだとあえて説明してしまうところも、如何にも日野のセンスだ。

にわか雨の予報も出てるし、そろそろ帰ろうか…というタイミングで、もう一人の人物が缶ジュースの差し入れを携えてやってくる。新田(武谷公雄)という男だった。彼の自慢の娘がこの界隈の小学校に通っており、もちろん彼女のことは見守り隊も知っている。
新田の家は裕福で、娘の誕生日には大人数を招待して盛大なパーティーを開催していた。
今年も、誕生パーティーの日が近づいていた。見守り隊メンバーも毎年そのパーティーにお呼ばれしていた。
日野は、さっき練習していたピアニカを再び取り出すと、新田家の誕生日会で披露するつもりの「おどるポンポコリン」を二人の前で演奏して見せた。なかなか器用にピアニカを演奏する日野に会長は感心するが、新田の方は複雑な表情になった。

 


そして、彼は会長に「あの話は、日野さんにしていないんですか?」と尋ねた。会長はまったくピンと来ていない。歯切れの悪い会話の応酬が続き、諦めて新田はパーティーに招待したのは日野以外の見守り隊メンバーだと言った。
貰った招待状を会長が確認すると、確かにそう書いてある。これには、日野も納得ができない。「何で、自分だけが!?」と、日野は怒気を含んだ声で新田に問い質した。ここでも何度かの押し問答があった後、新田は観念してその理由を話し始めた。
彼は言った。「昨今の社会事情に鑑みてのこと」だと。益々、日野には分からない。会長も、さすがに日野のことを擁護し始めた。

新田は回りくどい説明を繰り返したが、要するにいい年をして独身の日野が、熱心すぎる姿勢と眼差しで小学生の登下校を見守る姿に、かえって不安を覚えるのだということのようだった。
昨今、幼児や小学生が巻き込まれる不穏な事件も後を絶たない。そんな社会状況の中、万が一娘の誕生日パーティーに不測の事態が起こらぬよう、親としては何としてでも事前に不安材料を取り除いておかなければならないのだ…と。
そればかりか、新田達PTAは、完全なるボランティア行為の見守り隊自体を不安視しており、「見守り隊を見守り隊」を組織して、彼らの行動をさりげなく監視しているのだという。驚きべきことには、見守り隊のメンバーの中にも、見守り隊を見守り隊メンバーがいるらしい。
これには、会長も少なからぬ衝撃を受けて肩を震わせた。

言うべきことを言い終えた新田は、公園から去って行った。あとには、怒りと失望に打ちのめされた日野と会長が残された。
会長は、ひとしきり新田を非難し日野を慰めた後、「日野さんの分まで、誕生日パーティーで料理を食べてきてやりますよ。もう、ワインなんか全部飲み干してやります!」と言った。
「えっ!?あんなことまで言われて、会長はパーティーに出席するんですか?」
「ええ、招待されてますからね。それに、あそこの料理は本当に美味しいんです」
そう言い残すと、会長も公園から去って行った。

一人残された日野は、公園のベンチに呆然と座っている。そこに、突然激しい雨が降り始た。日野は、横断旗を頭上に掲げて空しくその雨を避けようとするのだった…。

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番外公演として参加した去年8月ユーロライブ2日間の『テアトルコント vol.21』における短編『川端』(作・ふじきみつ彦)はあるが、「切実」単独では実に三年ぶりとなる公演である。
そして、これまでにも岡部・岩谷が関わった舞台にレギュラーで短編を提供してきたふじきみつ彦が、今回は初となる60分尺の脚本を提供している。

おもむろに登場した岩谷が一人黙々と無言で演じ続ける冒頭は、まるで映画のワンカット撮影を思わせるシチュエーションで、その奇をてらったような展開に思わずクスッと笑ってしまう。
岡部たかしが登場してからは、いかにも「切実」の世界である。間を生かした絶妙なテンポと微妙な空気感、そしていつものブラックなシニシズム的ドラマツルギー。

確かに、いくつも用意されたくすぐりにはニヤッとさせられるものも多いのだが、作品トータルで観ると僕にはいささか首を捻る出来だった。
一番の原因は、岡部たかし演じる見守り隊会長の物語内でのポジションである。カメレオン的に日野側と新田側を行ったり来たりした挙句、結局は自分が得をする側につくという行動を見せる訳だが、彼のスタンスのブレがそのままこの舞台の物語的なブレに繋がっているように感じてならない。

そして、起承転結の“転”部分に登場する第三の男・新田が単に陰湿ないじめキャラのような人物造形で、岩谷健司演じる日野が一人はぶんちょうにされていく展開がどうにも後味の悪さを残すのだ。
冴えない独身で子供もおらず、何処か小児性愛を匂わせる雰囲気の中年男という日野の被虐的な設定まではいかにもふじき文体のキャラクター造型なのだが、一人公園に残されて自分のアイデンティティを否定され、仲間だと思っていた会長からも切り捨てられて雨に打たれる終幕に、今ひとつサディスティックな突き抜け方が足りない。
鑑賞後に残るのは、うつうつとしたやるせなさと孤独感みたいな苦味で、正直笑い飛ばすには切なすぎるのだ。
前述の遊園地を舞台にした岡部と岩谷の傑作二人芝居『川端』のペーソスとは、真逆のものである。

僕は、ニヒリスティックな物語やブラック・ユーモアが嫌いではないし、城山羊の会なんて最高だと思っているのだが、今回の切実にはその黒く突き放すドライネスが弱かったように思う。
ふじきの脚本が、物語を煮詰めきれなかったが故の迷走のように思えて仕方がなかった。ストーリーの密度からしたら、40分くらいが適切な尺に感じるのだ。


本作は、役者陣の演技的健闘に比して、物語そのものに求心力を欠いたいささか残念な出来の舞台であった。
もっと練り込んだ90分くらいの長編で、もう一度リベンジしてもらいたいものである。


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