2019年10月9日、国分寺のgieeで、不汁無知ルと宮川有紀子のライブを観た。
宮川有紀子は、かつて墨之江ユキと名乗って東京で音楽活動をしていたが、活動を辞めて数年前に尾道に引っ越してしまった。僕は、割と熱心な彼女のファンでまめにライブにも足を運んでいたし、彼女が2010年にリリースした『墨之江ユキ』というアルバムではライナーノーツを書かせてもらった。そのユキちゃんが、一年ほど前からアコーディオンを手に再び歌い始めた。
そして、ツアーで東京にも来るというので本当に久しぶりに聴きに行った。僕が最後に彼女の歌を聴いたのは2012年8月30日。「幻影のうた」と題されたライブで、場所は同じ高円寺gieeだった。もう、7年も前のことである。
不汁無知ルの渦さんとユキちゃんは盟友のような関係で、僕は不汁無知ルの演奏も何度か聴きに行ったが、最後に不汁無知ルの演奏を聴いたのは2012年2月12日に高円寺REEFで行われた「おでんLIVE」だった。
来ていたお客さんも当時見かけた方がいたし、その中には池島ゆたか監督の姿もあった。まるで同窓会のような空気に会場は包まれていた。
○ 不汁無知ル
渦ヨーコ(as,vo)+高田盛輔(cello,violin)
「舟唄心中」からスタートした演奏は、途中弘瀬金蔵(絵金)を題材にした二曲を挟んで展開した。冒頭でシーケンサーのセッティングをミスったのはご愛敬だが、アングラ演劇と丸尾末広を思わせる異形のエロティシズム的な世界観は健在。
高田さんがヴァイオリンも演奏し、曲によってはコーラスもつけていたのには驚いた。ただ、テンポの速い曲では、ややヴァイオリンのピチカートが遅れ気味なのが気になった。
渦さんのサックスは独特の情炎が漂い、芝居がかった歌も実にらしかった。欲を言えば、ボーカルにもう少し表情が加わるとさらにこのユニットのオリジナリティに磨きがかかるのだが。
いずれにしても、赤い着物をまとって歌う渦さんの姿は粋だった。
○ 宮川有紀子(vo,accordion)
意表をついて、ビートルズの「イエスタデー」から演奏はスタート。ブランクを感じさせない歌声が、会場に響く。墨之江ユキとして活動していたときは、ジャズをベースにしつつ様々な音楽性をミクスチュアして彼女ならではの音楽を聴かせていた。
この日の演奏では、シンプルなアコーディオンとともにギミックを排した純度の高い歌を聴かせてくれた。いささか乱暴な表現を使えば横森良造からアストル・ピアソラまでといった自由さで、「ザ・ニアネス・オブ・ユー」はジャズ・ボーカルと言うよりもシャンソン的なたたずまいだった。
墨之江セットにおける多彩な演奏も好きだったが、今の彼女を飾らずにありのまま表現したようなソロ演奏こそが宮川有紀子の音楽なのだろう。
終演後は、池島監督と久しぶりのピンク映画談義に花が咲いてしまった。
懐かしさと楽しさに、心満たされた夜であった。