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園村健介『HYDRA』

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『HYDRA』

 

監督:園村健介/エグゼクティブプロデューサー:中島一徳、小河禎承/企画・プロデューサー:山田昌孝/脚本:金子二郎/音楽:MOKUキャスティングプロデューサー:太田創/撮影:鈴木靖之/照明:東憲和/録音:土屋和之/助監督:猪腰弘之/VFX:辻本貴則/スタイリスト:MICHIKO TANIZAWA/ヘアメイク:石坂智子/アクションコレオグラファー:園村健介、三元雅芸、川本直弘

制作プロダクション:ポリフォニックフィルム/製作「HYDRA」製作委員会

公開:2019年11月23日

宣伝コピー:「殺す」しか知らなかった男の哀歌〈エレジー〉

 

 

こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

 

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トイレで用を足す警察官。あとから入ってきたヨウスケ(木部哲)が、背後から警察官を襲って殺害した。ヨウスケと入れ替わりに、ゴルフバッグを担ぎシルバーのスーツケースを引いて杉本マサ(仁科貴)がやって来る。杉本は死体をスーツケースに押し込むと、車で運び去った。自分のマンションに戻った杉本は、バスルームで遺体を解体処分した。

仕事を終えた杉本は、水槽に肉片を落として魚たちが食べるのを満足げに見てから、練乳をたっぷりかけたフレンチトーストを貪り食うのだった。

 

 

中目黒のバー「HYDRA」。三年前に開店したこの店は、若い女性オーナー兼バーテンダーの岸田梨奈(MIU)が経営している。店員は、一見軽そうなイケメンの桐田ケンタ(永瀬匡)と厨房担当の佐藤高志(三元雅芸)。

高志は、きわめて口数の少ない暗い影のある男だった。ケンタは、そんな高志のことを無口なだけのおっさん呼ばわりしている。だが、高志の料理の腕は確かで彼の頭の中には数々のレシピが完璧に記憶されている。

三年前、梨奈の父で元警視庁公安部公安総務課警部補の岸田純一郎(田中要次)が失踪した時、その知らせを彼女に伝えてきたのが高志だった。純一郎は、彼の財産とこのバーを梨奈に生前贈与していた。

彼女にとって、高志は兄のようでもあり父親のような存在でもあった。

 

 

 

「HYDRA」の常連客に長谷川(野村宏伸)という男がいた。いつもシックなスーツ姿の紳士で、奇麗な女性を連れていることが多かった。その日も女性と飲みに来ていた長谷川。すると、連れの女性が突然倒れそうになったが、厨房から飛び出した高志が彼女の体を支えて事なきを得た。この日に限らず、高志は何時も絶妙なタイミングで素早く行動した。お陰で、梨奈がこの店のオーナーになって以来、トラブルは一度もない。

高志が絶妙のタイミングで厨房から飛び出したのには、訳があった。彼は、見ていたのだ。女のグラスに、長谷川がこっそり薬を入れたところを。以前にも、長谷川が連れていた女性が気分を悪くしたことがあった。

 

 

 

その夜はお客が少なく、梨奈は早めに店を閉めようと言った。かねてから梨奈に気のあるケンタは、近くにいいビストロができたからと彼女を誘った。梨奈から「いいわね」とOKをもらえて喜んだのも束の間、高志も一緒に行くことになりケンタは面白くない。店の片づけをしてから追いかけると梨奈に言われて、ケンタと高志は先に店を出た。すると、店に携帯を忘れたと言って、ケンタは「HYDRA」に戻った。

梨奈がその日の勘定を終えた時、店に長谷川が入ってきた。一杯だけ飲ませてほしいと言われて、梨奈は快く応じた。長谷川は、梨奈にも一杯勧めるが彼女の目を盗んでグラスに例の薬を仕込んだ。そうとは知らず、一気にグラスを干した梨奈は急に体がぐらつきフロアに倒れてしまう。その様子を確認した長谷川は、注射器を取り出し梨奈の腕に刺そうとする。

その時、店のドアが開いてケンタが入ってきた。店の中の様子を見たケンタは長谷川につかみかかるが、逆にのされてしまう。

再び長谷川が梨奈の腕に注射針を打とうとしたところで、今度は高志が飛び込んできた。高志は目にも止まらぬ速さで長谷川を叩きのめすと、長谷川を店外に連れ出した。「助けてくれ…」と命乞いする長谷川に、「お前は浄化されるべき人間だ。だが、それをするのは俺じゃない」と言って高志は長谷川にもう一発お見舞いした。

 

 

そんなこともあり、高志は万が一の時のために梨奈に護身術を教えた。「やっぱり、高さんはお父さんに似てる」と言って、梨奈は微笑んだ。

 

 

「HYDRA」に見慣れないお客がやって来た。オーダーは、練乳をたっぷりかけたフレンチトースト。そんなものを好む人間を、高志は一人だけ知っていた。高志は、かすかに顔をしかめた。

昼間のコインランドリーで、高志は宮崎真一(青柳尊哉)に会っていた。杉本も宮崎も東京生活機構株式会社のメンバーで、三年前まで高志もそこで殺人職人をやっていた。高志と宮崎は、同じ養護施設の出で、高志は岸田純一郎に拾われて鍛え上げられ東京生活機構のメンバーになったのだ。

 

 

東京生活機構は、警視庁を辞めた岸田が立ち上げた組織でやくざであろうと一般人であろうと、依頼された人間を消す闇組織だった。ところが、組織の人間の計略にはめられ高志は岸田の浄化を命じられる。それが罠だと気づいたのは、岸田と刺し違えた後だった。岸田は、今わの際に梨奈の写真と「HYDRA」の鍵を高志に渡し、娘のことを彼に託して息を引き取った。

そして、高志は東京生活機構を抜け、以来「HYDRA」の調理担当をしているが今でも彼は恩人の岸田を手にかけたことで苦しみ続けている。

 

 

宮崎が高志のもとに現れたのは、また力を貸してほしいからだった。殺しても殺しても、浄化すべき人間は減らない。おまけに予算は削られている。先日警察官を殺したヨウスケは、高志の後輩の殺人職人だった。

宮崎の話では、長谷川が殺されたという。長谷川は、警視庁組織犯罪対策部の警視正でありながら、もう一つ別の顔を持っていた。デートクラブを経営し、目に付いた女を薬漬けにして自分の店で働かせたり風俗に沈めたりしていた。東京生活機構が殺めた警察官も、長谷川の部下だった。

「俺は、殺っていない」と高志は否定し、組織に戻る気もないと言ってその場を去った。

それでは、長谷川は誰の手で浄化されたのか…。

 

間引き屋を名乗り殺しを引き受ける闇組織のボス中谷輝(田口トモロヲ)は、車中で苛立たし気に電話している。長谷川一派の件で、東京生活機構と仕事が被ってしまったからだ。中谷にとって、東京生活機構は商売敵という以上に邪魔な存在だった。

中谷は、助手席に乗っている上田シュウ(川本直弘)に仕事を命じた。

 

 

シュウの一人目のターゲットは、ヨウスケだった。シュウは、ヨウスケを人気のない廃倉庫におびき寄せそこで死闘を演じた。高志の後釜だけあってヨウスケも相当な腕の持ち主だったが、シュウはさらにその上を行った。東京生活機構は、重要なスタッフを失った。

 

 

同じコインランドリー。高志の前に、またしても宮崎が現れた。宮崎は、また高志を勧誘してきた。うんざりしながら、高志はもう戻る気はないと伝えると宮崎はヨウスケが殺されたと言った。嫌な予感が、高志の心をかすめた。

 

「HYDRA」に出勤しようとしていた梨奈をシュウは拉致して、またあの倉庫に連れて行った。梨奈の手足をガムテープで拘束すると、シュウは彼女のスマートフォンを抜き取った。

店では、ケンタと高志が開店の準備をしている。「珍しいですね。梨奈さん、いつもは遅くても開店の10分前には来るのに」と言った高志のスマホが震えた。

梨奈のスマホから動画が送られてきた。その画像には、拘束された梨奈の姿と5時間以内に来いというシュウのメッセージ、そして指定場所が記録されていた。梨奈のもとへ駆けつけようとした高志に、自分も一緒に行くとケンタが言った。自分は、昔ヤンチャをしていたから腕に覚えがあり、そして梨奈のことを本気で好きなのだと彼は訴えた。

高志は、「足手まといになる。本気で好きなら、ついてくるな」と言い残し、店を飛び出していった。

 

 

指定された倉庫に到着した高志は、倒れていた梨奈を抱き起し彼女を拘束しているガムテープを切った。そこに、シュウが現れた。彼の二人目のターゲット、それは高志だった。

 

 

壮絶な戦いが繰り広げられ、二人は一進一退の攻防を見せた。だが、次第に高志の方が攻め込み始める。劣勢に立ったシュウは、ナイフを梨奈の首元に突きつけた。さすがの高志も、これでは手を出せない。

「保険は、必要なんだな」と不敵に笑うシュウ。その一瞬の気の緩みを突き、梨奈が高志から学んだ護身術を生かしてシュウの腕から逃げた。ここぞとばかりに、高志はシュウにとどめを刺した。

 

 

宮崎の目の前に、意外な男が現れた。中谷だった。「生きていたのか!?」と驚きの表情で問う宮崎に、「いや、俺はお前たちに浄化されただろ」と淡々と答える中谷。三年前、高志と岸田を罠にはめたのはこの男だった。

宮崎が撃った銃弾を一瞬早くかわした中谷は、「言ったろう、俺はもう生きてはいないって」と言うや懐から取り出した拳銃で宮崎の腕を撃ち、その場から車で立ち去った。

 

 

「HYDRA」を訪れた常連客の由香里(後藤郁)は、ケンタを見るなり「あれ?雰囲気変わったね」と言った。確かに、今までのチャラついた感じがなくなりケンタは落ち着いた雰囲気になっていた。彼は照れ臭そうに、高志を見習ってああいうカッコいい男を目指そうと思っているのだと言った。「無口なだけのおっさんとか言ってたくせに」と梨奈が茶化した。

厨房から出てきた高志に、由香里と梨奈がケンタが高志に憧れているとばらしてしまい、「本人に直接言いますか!」とケンタは慌てた。

 

 

そのやり取りを見て、高志はかすかな笑みを浮かべると再び厨房に戻った。「あれ?今高志さん笑いませんでした?あんな顔、できるんですね」と驚いたようにケンタが言った。

一人厨房で煙草に火を点けると、高志は今のやり取りを思い起こしてもう一度笑みを浮かべた。

 

そして、また中目黒の夜は更けていく…。

 

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アクション監督として高い評価を得ている園村健介の初監督作品である。そして、主演は三元雅芸。この二人が組んだ作品であるから、当然見どころとなるのは長い尺を取ったアクション・シーンなのは言うまでもないだろう。

本作が画期的なのは、いわゆる定番の殺陣をあえて否定するようなアクションで格闘シーンを撮っているところである。打ち合わせて決めた型はあくまで動作のアウトラインでしかなく、実際の格闘シーンでは互いの隙を突くように限りなくガチな攻撃を繰り出していったのだそうだ。

確かに、二つある格闘シーン木部哲と川本直弘のバトルも、本作のハイライト三元雅芸と川本直弘のバトルも尋常ならざる緊張感と早過ぎて目で追いきれないほどのスピード感に圧倒される。

新しいアクションを提示しようという園村と三元の強い思いは、大きな成果を上げたと言っていいだろう。

 

ただ、である。

物語として見た時、この作品が提示するストーリーテリングは、いかに現代を舞台にしたアクション映画を作ることが難しいかをも露わにしている。映画全体を覆う70~80年代アクションものへのオマージュを感じさせる画作りと音楽。好きな人にはたまらないだろうが、それがある種の古い型にはまって見えてしまうのもまた事実である。個人的には、メリハリがなく押し出しの強い過剰な音楽のつけ方が映画の空気感を平板にしているように感じられて残念だった。

そして、拳銃ではなく肉体を使って仕事をする殺し屋が登場するドラマにリアリティを持たせることの厳しさ。時代設定がもっと過去であるか未来であれば、あるいは多国籍の登場人物をそろえていればそれなりにやりようもあるだろうが、日本人のみが登場する現代の日本を舞台にした必殺仕事人的裏社会の殺し屋となれば、アクション映画にも某かのドラマ的な仕掛けやアップデートが求められると思うのだ。

 

また、「HYDRA」における日常的なシーンでの各役者陣の演技がいささか類型的ではないか。外連味と言うよりオーバー・アクトであったり、演技がぎこちなかったりするのである。

演出的に考えた時、もう少し主人公の高志に演じようがあったのではないか。あまりにも“人には言えない重い過去に囚われている”オーラを出し過ぎていると思う。

 

それから、警視正が裏でデートクラブを経営しているのはまだいいとして、彼が自らの手で女に一服盛り薬漬けにしてしまう設定はいくらフィクションでもありえないだろう。暴力団組長が、自ら街頭で薬の売人を兼務しているようなものである。

誰に立ち聞きされるかの分からないコインランドリーで、宮崎が高志を東京生活機構に復帰させようとするのもどうかと思う。

 

そして、ストーリー紹介をお読みいただければ分かるように、「さあ、これからどうなるのか?」と思った矢先に何一つ伏線が回収されぬままエンドロールが始まってしまう。まるで、物語のプロローグのようである。公式サイトのキャスト紹介には書かれている設定が実際の映画では触れられていなかったり、そもそも説明不足の部分も多く見られる。

この辺り、単なる尺不足なのかそれとも製作陣に思惑があるのか判断がつかないところである。いずれにしても、肩透かしを食らわされた感が拭えない。

 

本作は、アクション・シーンに画期的な新しさを提示した作品。と同時に、現代劇としてのアクション映画が如何に困難かを感じさせる作品でもある。

はたして、続編はあるのだろうか?

 

なお、劇中で宮崎がもっともらしく「HYDRA」の意味を説明しているが、この作品のタイトルが「HYDRA」となったのはロケで使ったバーの店名が「HYDRA」だったからのようである。


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