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井坂聡『[Focus]』

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1996年10月12日公開の井坂聡監督『[Focus]』


What's Entertainment ?
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企画は原正人・黒井和男、プロデューサーは赤井淳司・莟宣次、ラインプロデューサーは大里俊博・冨永理生子、脚本は新和男(1994年第2回さっぽろ映像セミナー入選作)、撮影・照明は佐野哲郎、美術は丸尾知行、音楽は水出浩、主題歌はEPO「夢の後についていく」、挿入歌は鈴木結女「HOMEPLACE」、編集は井坂聡、録音は今井善孝、音響効果は丹雄二、衣裳は東京衣裳、助監督は藤江義正、制作協力はバズ・カンパニー、特別協力はケイエスエス、スチールは中村和孝。
製作は西友・エースピクチャーズ、配給はエースピクチャーズ=シネセゾン。
井坂聡の劇場デビュー作である本作は、ベルリン国際映画祭ベルリナー・ツァイトゥンク読者賞とNETPAAC賞、井坂聡が毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、浅野忠信がヨコハマ映画祭主演男優賞・日本アカデミー賞話題賞、佐野哲郎が日本映画技術特別賞を受賞している。


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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無線機を使って盗聴まがいの無線電波傍受にのめり込むフリーターの青年・金村(浅井忠信)。彼の存在に目をつけたテレビ・ディレクターの岩井(白井晃)は、カメラマン(佐野哲郎)とADの中山容子(海野けい子)と共に金村の取材を始める。

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顔を出さないことと自宅を映さないことを条件に金村はインタビューに応じるが、彼の言動を聞いているうちに岩井の関心はよりスキャンダラスな展開と金村の私生活に向かう。
そんな岩井の我の強さに戸惑いながらも、押し切られるように金村はペースを乱されて行く。

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金村のトランシーバー型無線機が不調のため、テレビクルーは無線機を搭載した彼の車で街を流しながら盗聴の様子をカメラに収めることにする。無線機は様々な会話の断片を次から次へと拾っていった。

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どのくらい走った頃か、無線機が暴力団らしき男たちのやり取りを拾う。新宿駅西口のコインロッカーで、拳銃の受け渡しについて交わされる会話。車内には緊張感が漂うが、一人だけ色めき立つ者がいた。岩井だ。
皆が止めるのも聞かず、岩井は会話が本当かどうか確かめると言い出す。拳銃が出て来たら、その時警察に通報すればいいんだと彼は捲し立てた。岩井の頭の中に渦巻くのは、スクープ映像と視聴者からの大きな反響だけだ。

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夜の新宿西口。指定された電話ボックスから、岩井はコインロッカーの鍵を見つけ出す。次に階段を駆け降りると、コインロッカーへと急ぐ。中には箱がひとつ入っていた。その箱を抱えて、岩井は金村の車に飛び込んだ。

駐車場に車を止めて、箱の中味を確かめる岩井。もちろん、カメラは回っている。紙に包まれた黒く光る拳銃が出て来た。岩井は、突然話を金村に振ってリアクションを求めるが、金村には岩井の求めるようなリアクションが取れない。苛つき、何度もテイクを重ねる岩井。

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次に、岩井は金村に拳銃を持たせようとする。嫌がる金村に拳銃を押し付けようとする岩井。二人が小競り合いをしていると、ライトに導かれてチーマーたちが寄って来る。「テレビだ」とまとわりつく彼らに舌打ちすると、岩井は金村に車を発進させた。

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すると、腹を立てたチーマーたちは行く手を妨害し、車外に出た金村に襲いかかって来た。次の瞬間銃声が轟き、アスファルトに倒れた若い男は血を流して動かなくなった。

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車に戻って来た金村は、「畜生、お前のせいでこんなことになった。マジで最悪だぜ、どうすんだよ!」と叫んだ。彼の手には、拳銃が握られていた。
金村は、呪詛の言葉を岩井たちに浴びせながらアクセルを踏み込んだ。もはや冷静さを欠いた金村は、三人を自分のアパートに連れて行くと、口封じのため岩井に容子を強姦するよう命じた。

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拳銃を突きつけられた岩井は、嫌がり暴れる容子を犯した。激しく抵抗する容子の顔に金村が銃口を突き付けると、さすがの彼女も抵抗を諦めた。

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部屋に置かれた無線機が、射殺犯を追っている警察無線を傍受。それを聞いた金村は、再び三人を車に押し込むと容子にハンドルを握らせた。銃口を突き付けられたまま、容子は車の運転を続け、いつしか辺りは夜が明け始めた。

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海に出ると金村は車を停めさせ、美しい日の出を撮影するようカメラマンに命じた。気が緩んだのか、金村は拳銃を手放しコーヒーを啜った。

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次の瞬間、拳銃を奪おうとして容子、岩井、金村が揉み合いを始めた。一瞬カメラが真っ暗になり、一発の銃声が薄暮を切り裂いた。
凍りつく岩井、呆然とする容子。金村のこめかみには風穴が開き、窓ガラスは飛び散った血で真っ赤に染まっていた。ところが、彼らにとって肝心の決定的瞬間を収めることはできなかった。
「どうすんだよ、お前?」と聞く岩井に、容子は「海、見たいな…」と呟いた。

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「もう、バッテリーがない。何か言うなら、早く!」とカメラマンは叫んだが、言葉が見つからぬ岩井をあざ笑うかのように、カメラのバッテリーは切れた…。

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見始めて数分で惹き込まれると、観る者の目を釘付けにしたまま、息詰まるテンションが73分ひたすらに疾走して行く。ロウ・バジェットを逆手に取った、パーフェクトとしか言いようのない凄まじいばかりのクオリティ
いや、むしろ低予算だからこそ撮り得た作品…というのがより的確な評価だろう。隙のない脚本、一瞬の緩みもなく計算し尽くされた演出、秀逸なカメラワーク、そして何よりも監督のプランを完璧に実現するプロフェッショナルな役者たち。どこにも文句などつけようがない。

内気なのか不気味なのか得体の知れぬ浅野忠信のナイーヴな演技と、アドレナリンがほとばしるような白井晃の演技が見事なコントラストを構築している。
前半は、狡猾なマスコミ然とした岩井がドラマを牽引するが、その憎々しい押しの強さが見事。しかし、後半唐突に話の軸は金村に移り、あとはひたすらに暴力と狂気が渦巻いて行く。その転機となるチーマーのくだりが、マジックの如くシャープなツイストを決める。
役者たちの高度な演技力あってこそ説得力を持つ作品だが、本作を傑作たらしめているのは、人間が歯止めを失いエスカレートして行く様を強靭なリアルさをもって描けているからに他ならない。
低予算でも、映画的なチープさとはまったく無縁なのである。

そして、さらに容赦のない結末と、静寂な絶望が訪れる見事な終幕。静かに眠るような金村の死に顔を朝日がオレンジ色に照らし出し、魂が抜けたように呆然とする容子。
最後までテレビ屋としてもがこうとする岩井の姿にも、ある種のカリカチュアが込められていて唸ってしまった。

本作は、まごう方なきクライム・ムービーの大傑作。
予算はなくとも、センスと技術としっかりした志さえあれば、これだけのことが表現できる…というお手本の如き一本である。ただ一言、必見!

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