昨夜は、国立地球屋に「発酵する世界」と題されたライブを観に行った。
出演は、石原岳(g)、大友良英(g)、日野繭子(noise)、中村亮(ds)、勝井祐二(vl)、ササキヒデアキ(映像)。
このイベントは、沖縄県東村高江在住のミュージシャン石原岳が、沖縄県本島北部の亜熱帯森林地帯ヤンバルにある高江で行われているヘリパッド建設工事への抗議活動の一環として勝井祐二と共に開催したものである。
ライブは二部に分かれ、出演ミュージシャンの様々な組み合わせで演奏が繰り広げられた。
第一部
1.大友良英+石原岳
まずは、現在NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽担当でもある大友と石原のギター演奏からスタート。
二人とも、それぞれに個性の違った音をフリーキーに発する。寄り添うでも交わるでもなく、にもかかわらず独特の音圧で聴く者を圧倒する演奏が清々しい。
2.日野繭子+石原岳
日野繭子のノイズ操作と石原のギターの組み合わせが、どういう音響的効果を見せるのか興味深かったのだが、演奏の前半はノイズにギターが埋もれてしまい何となく日野の独奏の印象すら受けた。
後半に入ってようやく石原のギター音が差別化できるようになったから、前半からこの展開であればもっと面白いコラボレーションになったと思う。
3.勝井祐二+中村亮+石原岳
勝井のエレクトリック・ヴァイオリンと中村のドラムス、それに石原のノイジーなギターでどんな音楽が構築されるのか…と楽しみだったのだが、何となく三人の音像がクリアーになっていなかったように思う。
まず、ドラムの音の抜けが良くない。それにメロディーとノイズのバトルと融和にならず、いささかの予定調和的展開を見せてしまったように感じて、個人的にはフラストレイトしてしまった。
第二部
4.日野繭子+大友良英
これも楽しみな組み合わせだったのだが、前半の展開は日野+石原のコラボと同様の印象だった。つまりは、ギターの存在がノイズに埋もれがちということ。中盤から大友のノイジーなギターも音の主張が前に出て来るのだが、それでも音楽的な成果としては物足りない。
個人的に思うのは、日野のノイズと共演する場合あえて同じベクトルのノイズ・ギターばかりを奏でるのでなく、そこにメロディーをあえてぶつける試みがあってもいいのではないか?ということだ。そういう“聴く者の想定”をあえて覆すところにこそ、こういうコラボレーションの意外性があると思うのだ。
5.日野繭子+勝井祐二
日野のノイズと勝井のメロディーをどう融合させるのか?これも楽しみな演奏だった。これまでに日野のライブを3度見ているが、どの演奏も圧倒的なノイズ照射が彼女のマナーだったからだ。
しかし、ここでは勝井の旋律が演奏の核となり、それを日野がストイックなノイズ演奏で浮遊させて行く展開だった。サイレントに始まった演奏は、やがてトランス感を伴ったアンビエント・ノイズへと昇華して行った。
類似性がある訳でもないのだが、勝井のヴァイオリンに僕はイッツ・ア・ビューティフル・デイを思い出した。
願わくば、何処かでこのアンビエント感を突き抜ける暴力的な展開を…と思っていたのだが、そこまでは突き抜けなかった。ライブ終了後に日野さんにそのことを言ったら「そこまでの余裕は、なかったなあ」とのことだった。
でも、彼女の新たな試みは一つの成果を見せたと思う。
5.大友良英+勝井祐二+中村亮
このトリオは、なかなか刺激的な演奏を聴かせてくれた。前半の演奏は、キング・クリムゾン「太陽と戦慄(パートⅡ)」の音像と比する刺激に満ちていた。
ただ、後半に来てその音楽的刺激が薄れて行ったように感じて、残念に思った。
6.全員でのセッション
この日のラストは、フルメンバーによる演奏で。狭いステージではあるが、この5人での演奏は華やかで楽しいものだった。
なかなかに刺激的な試みだし、音的な意義も感じ取れるイベントであった。
ただ、今回のコラボレーションの数々はいわば一期一会的性格があるから、どうしてもいささかの予定調和的収束を感じる個所も散見された気がする。「この人とこの人なら、こういう展開だろうな…」という予想を覆されるような音があまりなかったということである。
多分に、相手との呼吸を読みながらの演奏であったことがその理由だと思うのだが、そこに音的なバトルの如きものが加わるとさらに面白い音楽となったように思う。
その意味では、イケそうでイケない寸止め感が僕にはあった。
石原岳の運動共々、より広くアピールする活動となることを望みたい。