Quantcast
Channel: What's Entertainment ?
Viewing all articles
Browse latest Browse all 230

虚構の劇団第5回公演『エゴ・サーチ』@紀伊國屋ホール

$
0
0

本日、10月20日東池袋あうるすぽっとで虚構の劇団第9回公演『エゴ・サーチ』が東京千秋楽を迎えて僕もそれを観て来たのですが、今回は初演時のレビューをアップします。

What's Entertainment ?

2010年9月19日、紀伊國屋ホールで鴻上尚史・作/演出、虚構の劇団第5回公演『エゴ・サーチ』の千秋楽を観た。その感想を書きたい。

What's Entertainment ?

「エゴ・サーチ」とは、インターネット上で、自分の本名やハンドルネームで検索すること。
エゴ・サーチの結果、インターネットで出会ったもう一人の自分。そんなふうに、この物語は始まる…。

こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

------------------------------------------------------------------

What's Entertainment ?

夏休みを取って沖縄の離島を訪れた小田切美保(小野川晶)。彼女は不思議な青年クミラー(小沢道成)に出会う。彼は、実はガジュマルの妖精キジムナーであった。何故、彼は現れ、そして美保に姿を見せたのか。それは、彼の戦時中の友達だった女の子にそっくりだったから。美保は、1年後に必ず戻って来ると約束して1日滞在しただけで島を後にした。

作家志望の一色健治(山﨑雄介)は、大学卒業後にアルバイトをしながら小説家を目指している。彼の持ち込んだ文章に興味を持った新人編集者の夏川理香(大久保綾乃)は、彼の担当になり原稿を待っている。しかし、健治の執筆は5枚のみで遅々として進まない。彼の物語は、女性が沖縄の離島を訪ね、そこでキジムナーに出会うところまでで筆が止まっている。
理香は偶然健治のブログを見つけ、昨日の記事が『スター・ウォーズ』シリーズを全て観たと書かれていたことに腹を立てている。しかし、ブログのことを健治に言うと、彼はブログをやっていないと訝しがる。そこで、理香は打ち合わせの席でパソコンを見せる。そこには、確かに一色健治のブログがあった。しかも、プロフィールは何から何まで彼のもの。唯一の違いは、ブログの健治は卒業後小さな広告会社に勤務したが、交通事故に遭って2年前の11月5日に退職。現在はアルバイト生活なのに対し、ここにいる健治は卒業後ずっとアルバイト生活を送っていた。やはり作家志望の健治も同じ時に交通事故で瀕死の重傷を負っており、それ以来ふとしたことで自分の足が激しく痙攣するようになっていた。

田中実(渡辺芳博)と桐谷舞(高橋奈津季)の二人きりの弱小IT会社に、「骨なしチキン」という冴えないフォーク・デュオの松山大悟(三上陽永)と小池良太(杉浦一輝)が訪ねて来る。ネットを使って自分たちを本格デュオとしてメジャーにしてほしいと言うのが彼らの依頼。才能は全く感じられないが、家賃さえ払えず倒産寸前の会社ゆえ背に腹は代えられず、彼らの依頼を引き受けることにする。
舞は、全く面識がないはずの良太に「以前に会ったことはないですか?」と聞かれて否定する。

カメラマンを目指しているという佐伯と名乗る男、彼は若い女に手当たり次第「モデルになってくれ」と声をかけては金を借りて姿を消す詐欺を繰り返していた。広瀬隆生(古河耕史)が佐伯の本名で、今回彼がカモにしたのは島袋日菜子(大杉さおり)。彼女の恋心につけ込み、広瀬は友達の借金の保証人になり金が必要だと日菜子から金をせびっていた。彼を信じて疑わない日菜子は、金を工面するために風俗嬢に転職してしまう。

あれから2年が経っても美保は島に現れなかった。クミラーは、彼女が死ぬことを予感していたこともあり、東京の彼女の部屋を訪ねる。しかし、彼女の痕跡はどこにもない。呆然としていると、そこに美保が現れる。しかし、彼女を一目見たクミラーは悟る。美保は既に死んでおり、しかもそのことを彼女は気付いていない。美保がこの世に思いを残していると考えたクミラーは、それとなく彼女に聞いてみる。すると、美保は恋人の一色健治に会いたいと言う。
しかし、健治の元を訪ねても、彼は小田切美保など知らないと答える。美保は、恋人が自分のことを知らないと言ったことと、自分の姿が彼には見えていないことを知って愕然とする。仕方なく、クミラーは美保が既に死んでいることを告げるのだった。

小説は一向に進まず、ブログの一色健治にメールで会う約束をしてもすっぽかされてしまった健治。彼の姿を見て途方に暮れる理香。理香はブログの管理人について調べるために、IT関連の仕事をしている大学時代の友人・舞に健治のバイト先の居酒屋で会う。事情を聞いた舞は、後日そのことを田中に話した。すると、田中は商売そっちのけでこの話に興味を持つ。そんな田中の態度に、舞は苛立つ。
しかし、彼女の田中に対する苛立ちの理由はこのことだけではない。舞は田中のことを愛しており、彼女の気持ちに田中は気づいている。しかし、彼は舞のことを受け入れてはくれない。
舞には消したくても消せない暗い過去があり、その苦しみは今もなお続いている。学生時代に付き合っていた舞の恋人との情交写真が、ファイル交換ソフトを通じて流出してしまうという事件があった。今もその写真はネット上に散らばり、そのことで彼女を脅迫しようとする輩がいつまで経っても現れるのだ。
正義感の強い田中は、舞に内緒でその卑劣な輩たちと対峙して、時には鉄拳さえ振るうことがあった。

広瀬は、理香に目をつける。働く美しい女性の写真を撮りたいからと何度も口説かれ、とうとう理香は根負けしてしまう。打ち合わせ場所であるバイト先に、理香が広瀬を連れて現れたことに驚く健治。しかし、片隅の席で彼らの様子を伺う者がいた。クミラーだ。
一向に進まない小説のアイデアを健治と理香が話していると、そこに広瀬とクミナーが参加して来る。「離島」と「若い女」という健治の物語に彼らはそれぞれ思うところがあり、黙っていられないのだ。
その若い女に名前が付いていないことに健治と理香が気付くと、広瀬は仮に「美保」と名付けようと提案。クミナーも、その名前に同意する。その様を、店の片隅で窺っている幽霊の美保。

ストリート・ライブをしている骨なしチキンの熱烈なファンになった物好きな女性がいた。日菜子だった。いつしか、彼女は骨なしチキンと行動を共にするようになる。
一方、メンバーの良太は舞のことを思い出す。以前にネット上で見た流出写真の女であることを。このことをネタに、二人は舞をどうにかしようと考える。とりあえず脅迫文を書いて彼女の渡そうと舞の会社に向かう二人。しかし、会社近くの公園でフードを被った男を殴りつけていた田中に遭遇してしまう。男は逃げ、田中の拳からは血が流れていた。ネットにある写真が流出した友人を脅迫して来た輩に鉄拳制裁を下したのだ、と答える田中に二人は震え上がって退散するのだった。

一色健治のブログを興味本位で調べた田中は、その記事からブログ主の健治のマンションを突き止める。

骨なしチキンは演奏場所として、日菜子の恋人のカメラマンが住んでいると言うマンションの屋上に行くことにする。

健治たちは、物語について話しているが、広瀬の提案で、彼の部屋で話し合うことにする。そして、健治、理香、山崎、クミラーで話しているうちに、段々広瀬の様子がおかしくなってくる。
広瀬は断言する。美保が離島に1日しかいなかったのは本島で待つ恋人と待ち合わせをしていたからだ、と。そして、健治が2年前の11月に自動車事故を起こしたのは何故なのか。どこに行こうとしていたのか。それは一人でなのか。広瀬は矢継ぎ早に言葉を続けた。驚き戸惑う健治の脳裏を記憶がフラッシュバックしていく。
広告代理店に勤める自分。同じチームで不眠不休で納期と闘っている広瀬とバイトの美保。そして、自分は美保と付き合っており、この仕事が終われば二人は東北の彼女の田舎に二泊三日のドライブ旅行に行くことになっている。しかし二人の関係をどうしても広瀬に告げることができない自分。それは、三人チームが壊れるのが怖いからだ。健治は薄々気づいている。広瀬にも想っている人がいることを。

広瀬が、堰を切ったように話し出す。二人が嘘をついた腹いせに、自分は納期当日に風邪と偽って欠勤したことを。そのせいで健治は一睡もできぬまま美保と旅行に出かける羽目になった。そして、健治は居眠りしてしまい、交差点で彼の車にトラックが突っ込む。美保は即死したが、健治は軽傷だった。
その会話を聞いていた幽霊の美保は、その時のことを思い出す。自分が眠らずに健治の運転を見張っていると約束したこと。一度帰ろうとした美保が忘れ物を取りに職場に戻ると、眠り込んでしまった健治に広瀬が口づけしていたところを目撃してしまったこと。そう、広瀬が恋慕していたのは、美保ではなく健治だったのだ。
もう広瀬の言葉は止まらない。交通事故は10月。では、11月5日の事故は何だったのか?それは、良心の呵責に耐えかねた健治が、このマンションの屋上から飛び降り自殺を図った日。一命を取り留めた健治は、意識を取り戻すと美保に関する部分の記憶だけをすっぽりと失っていた。

会社から姿を消してしまった健治を何とか見つけ出そうと考えた広瀬が取った行動。それが、健治になりすましてブログを開設することだった。彼の目論見通り健治はブログにアクセスして、広瀬に会いたいとメッセージを書き込んで来た。そして、待ち合わせ場所に現れた健治から、広瀬は彼の全てを把握したのだった。
全ての記憶が戻った健治は、マンションの屋上へと駆け上がる。彼を追って広瀬、理香、クミナー、幽霊の美保も屋上へ走った。再び飛び降りようとする健治と、彼を止めて自分の方が飛び降りようとする広瀬。
緊迫した雰囲気を一気に脱力させる面々が突然屋上に現れる。骨なしチキンと日菜子だ。すると、次に現れたのは田中と舞。
田中は、骨なしチキンに言う。明日人を集めてライブをやる、と。そして、ライブを聴いて失望した人々を前にこう言えと。「自分たちは、沖縄の離島で廃校になろうとしている小学校があることを伝えたくて音楽活動をしているのだ」と。
その田中に舞が言う。「あなたは私に自分を偽っている。あなたの名前は田中実ではなく長谷川哲次だ。あなたのことを警察が訪ねて来た。あなたは自分の正体を偽り、そして私のことなど愛してはくれない」と。そして、舞は思いあまって健治を押しおけて屋上から飛び降りようとする。田中は答える。「俺は、自分の信念に基づいた行動で傷害事件を起こし、警察に追われている。その時効成立まであと4年。俺は逃げ切らなければならないから、お前のことは愛しているが受け入れられない」と。そして、屋上から姿を消す田中。彼を追いかける舞。
呆気にとられた一同の隙をついて、健治はマンションの屋上から飛び降りた。

沖縄の離島。骨なしチキンはここで日菜子と共に演奏活動を続けている。相変わらず、舞は彼らの活動をサポートしている。田中の行方はようとして知れないが、後4年など大したことないと彼女は強がる。
クミナーのお陰で足の怪我だけで命に別条がなかった健治は、この地で自分の贖罪の意味を込めて必ず小説を完成させると言う。もちろん、彼の担当者である理香もここにいる。二人が寄り添い、小説に取り組む姿を見て、幽霊だった美保は姿を消す。広瀬の行方も分からない。そして、広瀬の本当の恋の相手を美保は語らなかった。
世の中、知らない方がいい事実があることをクミナーは知っている。その代わりに、クミナーは健治に伝える。人の魂は、永遠ではないと。魂は、その人の記憶を生きている者が忘れた時に、本当に失われてしまうのだ、と。
そして、クミナーは、あと500年はこの世界で生き続けるのだ…。

------------------------------------------------------------------

いよいよ鍛えられてきた若い10人の俳優たちが本当に頼もしい。彼らの成長も相まって、今回の舞台は今までで最高の出来となった。

What's Entertainment ?

複雑なプロットを見事につなぎ合わせて行く鴻上演出。いささか物語を詰め込み過ぎるところは相変わらずなのだが、劇団員全員に役をつけるとなると、どうしてもそういう構成で物語を紡がなければならないのだろう。そこは、ある意味劇団の宿命であり、物語性の弱点でもある。
しかし、後半で物語を解き明かしていく広瀬とマンション屋上でのカタルシスは見事である。広瀬の秘めた恋情も相まって、健治が飛び降りようとする場面は思わず胸が熱くなった。

物語の強度からすると、田中と舞の存在や広瀬が女たちを騙すエピソードは要らないように思う。余分な個所を削ぎ落とせば、舞台はよりシャープなものになっただろう。その意味では、骨なしチキンはくすぐりとして「あり」だが、日菜子も不要だろう。

山﨑雄介、客演古河耕史の色気がいい。脇を固める渡辺芳博の存在ももはやこの劇団には不可欠である。
そして、個人的には高橋奈津季が好きだ。やはり、彼女のどこか翳りのある演技は魅力的だと思う。いつか、彼女が主役の舞台を観たいものだ。

今回のストーリーで最後に登場する長谷川哲次とは、旗揚げ公演公演『グローブ・ジャングル』の登場人物である。果たして、このスピン・オフがあるのかにも注目したい。

いずれにしても、虚構の劇団の現時点での最高傑作には違いない。いい舞台だったと思う。

初演から3年の月日が経過して、大久保綾乃と高橋奈津季はすでに劇団を去っている。今回の再演を観ても、僕はあの時とほぼ同じ印象を受けた。
今回の公演については、宮崎駿『風立ちぬ』ネタのくすぐり『島立ちぬ』とか、ブログに書かれていたDVDが『スター・ウォーズ』から『ハリー・ポッター』に代わっていたこと以外、大胆な変更もなかった。
あのマンション屋上でのシーンは、やはりタカルシス伴う物語強度を維持していた。

しかし、である。
今、この芝居をメインの一色健治は牧田哲也、広瀬隆生は伊阪達也、夏川理香は八木菜々花と客演で固めて公演することに、「虚構の劇団」としてどのような意味があるのだろう…という思いがどうしても払拭できなかった

多分、この劇団は本当に今「劇団としての意味」を問われているのだろう…。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 230

Trending Articles