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肯定座第二回公演『濡れた花弁と道徳の時間』@高円寺明石スタジオ

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10月27日、高円寺の明石スタジオにて奈賀毬子主宰の肯定座第二回公演『濡れた花弁と道徳の時間』千秋楽を観劇した。


What's Entertainment ?


作・演出は太田善也(散歩道楽)、舞台監督は今井聰、美術監督は田中敏恵、照明は松田直樹、照明オペレーターは高橋登志江、音響は志水れいこ、音楽は電気スルメ、宣伝美術は宮地大介、HP製作は斉藤智喜、写真撮影は宮坂恵津子、制作は中田伸也・肯定座制作部。
企画・製作は肯定座。


とある町のラブホテル、405号室。サラリーマン風の男つくも(久我真希人:ヒンドゥー五千回)が、とても10代には見えないケバい女子高生あびる(奈賀毬子:肯定座)と4度目のセックスをしている。
もちろん金が取り持つ仲だが、あびるはセックスにもまるでやる気がない。事が済むと、つくもはひとしきりまっとうな正論を吐いてあびるに説教を始めるが、次の瞬間にはローターを使ったプレイをリクエストする。
フロントに電話してローターを取り寄せたつくもだが、届けに来た従業員白木かなえ(菊池美里)の後ろから長身の外国人ジョージ(佐瀬弘幸:SASENCOMMUN)が乱入。つくもに襲いかかる。護身用に持っていたスタンガンで反撃するあびる。
どうやらジョージは305号室と間違えたらしく、謝りながら退散する。
気を取り直して浴室に向かうつくも。その隙に、あびるは彼の財布の中を漁るが、免許証を見て、彼女は顔をしかめる。

304号室。かなり年の離れた夫婦の酒井正臣(安東桂吾)と優香(福原舞弓)は、子作りするためにラブホテルにやって来た。家には正臣の母親が同居しており、どうにも落ち着かないからだ。正臣は、子供ができたら陽太と名づけようと、いささか早すぎる提案をする。
先に浴室に入る優香。すると激しい爆音とともに、閃光が。仰天する正臣。すると、浴室から長髪髭面の中年男(ちゅうり:タテヨコ企画)が気絶した優香を抱きかかえて現れ、正臣は二度びっくり。
男は、自分は未来からやって来た陽太だと荒唐無稽なことを言い出す。しかも、彼は今日ここで二人が子作りするのを止めに来たのだと言った。自分が生まれると、皆が不幸になると。
ものすごい音に驚いた従業員小金井桃子(久行しのぶ:タテヨコ企画)が様子を見にやって来るが、正臣は何とかごまかした。

305号室。部屋掃除のため集まった従業員三人、小金井桃子、白木かなえ、浦辺幸子(大石洋子:劇団俳協)。彼女たちは、お客たちへの不満や互いのプライベートの話に夢中で、なかなか仕事は捗らない。
そのうち、かなえは客に呼び出されて部屋から出て行き、桃子はひどく汚れたトイレを掃除するために個室へ。一人残った幸子は、てんでやる気なく客用のテレビでAVを見ているうちに、欲情して浴室へ。母子家庭の彼女は、自宅でオナニーする時子供に見つからぬよう浴室でやっていた。その習慣がついていたのだ。

305号室にチェックインした桜井詩織(平田暁子:年年有魚)と楠瀬大樹(椎名茸ノ介:散歩道楽)。これからという時に、トイレから桃子が出て来て大樹は激怒。
ところが、桃子は大樹のことを知っていた。彼女の息子が所属する小学校のサッカー部で顧問をしているのが大樹だったのだ。さっきの剣幕は何処へやら、大樹は態度を豹変させる。その一方、詩織は必死で顔を隠した。彼女の息子もサッカー部に所属しており、桃子とは面識があったからだ。この状況は、二人にとって最悪だった。
桃子を追い出しようやく二人きりになると、詩織は「今日は早く帰らないと…」言い出す。またしても不機嫌になった大樹は、彼女のことをなぶり始める。
そこに、ジョージと詩織の夫・保(富士たくや)が乱入す。妻の携帯を盗み見して彼女の浮気を疑った保は、飲み屋で知り合ったジョージを助っ人に妻の後をつけて来たのだ。
305号室は、修羅場と化すが…。

終わった時、「いや~、上手いなぁ!」と思わず唸ってしまった。とても面白い芝居である。
僕はこと舞台に関してはメジャー中心で、ごくたまに知人の舞台にも足を運ぶんだけど、あまり満足できる作品と出逢うことがない。大体は、時計の針を気にしつつ「まあ、こんなもんだよな…」と溜息をつくことになる。
ところが、奈賀毬子が去年立ち上げた肯定座のこの舞台では、芝居を観る充足感にどっぷり浸ることができた。

とにかく、太田善也の劇作が抜群に素晴らしい。練り上げたエピソード、タペストリーのように緻密な構成、ブラックさとハート・ウォーミングの巧みな使い分け、見事にエモーションをコントロールしたストーリーテリング…等々。
場面展開もシャープにしてスマートだし、キャスティングも適材適所と言っていいだろう。女優なら、福原舞弓のキュートさと平田暁子のやや疲れた艶っぽさがいい。
男優では、安東桂吾佐瀬弘幸。ただ、財津一郎ネタは要らないと思うが(笑)

ラブホテルの3室を巧妙に使って、登場人物の関係性にはストーリー展開への布石となる伏線が張り巡らされる。それが、本当に見事な舞台捌きで、観ていていちいち納得してしまうのだ。
これしかないというエンディングに至っては、もはやある種の爽快感すら漂う。

とりわけ本作を見応えあるものにしているのが、安易な情緒性にストーリーを流さないところだろう。突き放すかと思えば、感傷を伴った綺麗な収束を用意し、はぐらかすかと思わせて次にはリアルな揺れ戻しが待っている。情緒的なオチにするのかと思えば、何の躊躇も容赦もなく観る者を突き放す。
我々観客は、まんまと彼らの術中にはまっているのだ。

不満があるとすれば、それはあびるとつくものエピソードにいささか演出的過剰さが感じられるところか。あびるがきつい方言でしゃべる必要性を感じないし、あえて落語的な科白回しでしゃべるつくもにも違和感がある。
あるいは、酒井夫婦のエピソードにしても、その導入部をサラッとした入りにした方が良かったのではないか?
その辺りにもう少し洗練が加味されれば、もっと大きな劇場での再演にも十分耐え得るクオリティである。

本作は、どなたにも自信を持ってお勧めできる優れた舞台。来年夏頃を予定している肯定座の第三回公演が、今から待ち遠しい。
今回の公演を見逃した方は、後悔すべきである。かく言う僕も、旗揚げ公演『暗礁に乗り上げろ!』を見逃して後悔した口なのだが…。

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