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AVANTGARDE百花繚乱 挑発:ATGの時代

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3月9日から4月26日まで、ラピュタ阿佐ヶ谷にて上映された特集「AVANTGARDE百花繚乱 挑発:ATGの時代」




大手映画会社とは一線を画す芸術映画や実験的作品の配給、また独立プロダクションと提携しての製作など、日本映画界に大きな痕跡を残した日本アート・シアター・ギルド=ATG映画を29本集めた大特集である。
気にはなっていたけど近年なかなか劇場でかかることがなく、僕はこれまでATG作品をほとんど素通りして来た。今回は願ったり叶ったりの特集上映があり、すべての作品を鑑賞した。
ここ数年ピンク映画や独立系の自主製作映画を追いかけている僕にとって、独立プロとも積極的にコミットしたATG作品群は今こそきっちり対峙したい映画たちであった。ある種の頭打ち状態で閉塞感漂うマイノリティな日本映画やその作り手たちにとって、某かの指針があるのではないか…と考えたからだ。

上映されたプログラムは、以下の通り。

勅使河原宏『おとし穴』(1962)
羽仁進『彼女と彼』(1963)
黒木和雄『とべない沈黙』(1966)
今村昌平『人間蒸発』(1967)
森弘太『河 あの裏切りが重く』(1967)
羽仁進『初恋・地獄篇』(1968)
岡本喜八『肉弾』(1968)
大島渚『新宿泥棒日記』(1969)
篠田正浩『心中天網島』(1969)
大島渚『少年』(1969)
松本俊夫『薔薇の葬列』(1969)
熊井啓『地の群れ』(1970)
吉田喜重『エロス+虐殺』(1970)
実相寺昭雄『無常』(1970)
吉田喜重『煉獄エロイカ』(1970)
黒木和雄『日本の悪霊』(1970)
若松孝二『天使の恍惚』(1972)
新藤兼人『鉄輪』(1972)
中島貞夫『鉄砲玉の美学』(1973)
斉藤耕一『津軽じょんがら節』(1973)
黒木和雄『竜馬暗殺』(1974)
吉田憲二『鷗よ、きらめく海を見たか めぐり逢い』(1975)
村野鐵太郎『鬼の詩』(1975)
黒木和雄『祭りの準備』(1975)
長谷川和彦『青春の殺人者』(1976)
須川栄三『日本人のへそ』(1977)
山口清一郎『北村透谷 わが冬の歌』(1977)
吉田憲二『君はいま光のなかに』(1978)
後藤幸一『正午なり』(1978)
※当時の公開順

数あるATG作品の中から、日本映画で60~70年代に絞って厳選したセレクトだと思うけど、僕自身の嗜好性もあって楽しめたものもあれば退屈に感じたものもあった。
確たる普遍性を纏った作品もあれば、時代の風雪に耐えられていない作品も当然あった。当時はトピカルであった題材や語り口が、今となっては古めかしさへと変貌してしまっているものには、観ていて一抹の寂しさと気恥ずかしさが同居してしまい、何とも居心地が悪かった。

そんな中、これら29本の作品群の中であまりの素晴らしさに僕が言葉を失ったのはこんな作品だ。

篠田正浩『心中天網島』


日本的な様式美と映画表現の前衛性、人形浄瑠璃を人間による実写で表現する慧眼とあまりに斬新な構図。本当に完璧としか言いようのない傑作だった。
唯一の不満は、紙屋治兵衛(中村吉右衛門)と小春(岩下志麻)が河原で心中を図る前の場面にほんのわずかながら弛緩があること。
ただ、それを除けば本当に一瞬たりとも息抜けない途轍もない傑作だった。
これは余談だけど、天井桟敷に在籍していた若き池島豊青年が、寺山修司の口利きで現場の手伝いをしたらしい。

岡本喜八『肉弾』


大戦末期の日本を舞台に、ある種ブラック・ジョーク的に描かれた戦争映画。とにかく、シニカルではあってもニヒリスティックに陥らない洒脱なセンス、佐藤勝の軽妙でチャーミングなテーマ曲、寺田農のユーモラスな芝居と大谷直子の眩いばかりの若さ。本当に、まったく古くならないソフィスティケーションの極致である。
ナレーションは、仲代達矢。




斉藤耕一『津軽じょんがら節』


ある意味、この映画の主役は荒れ狂う日本海の波の音と吹きすさぶ風の音、そしてばち捌きまで分かるような津軽三味線の響きかもしれない。
江波杏子と西村晃の見事な存在感、佐藤英夫のいやらしさ、新人・中川三穂子の体当たりの熱演。それに比べると、織田あきらの弱さが、本作で唯一惜しまれる点。
呆気ない無常感さえ漂うエンディングが同じ1973年公開の神代辰巳監督『恋人たちは濡れた』のエンディングとも繋がるように感じたのは、僕だけだろうか。

黒木和雄『竜馬暗殺』


史実に映画的な嘘を交えて、異色の坂本竜馬像を見事に構築した傑作。モノクロの画面に、粒子の粗い画質があたかも幕末ドキュメンタリーのように映って観る者の心をつかんで放さない。
原田芳雄、石橋蓮司、松田優作のむせ返るような男臭さに交じって咲く一輪の華中川梨絵の美しさ。当初キャスティングされていた山川れいかが病気降板しての代役だったことは、ファンには知られたエピソードだ。




これら4本の大傑作には及ばないけれど、印象深かった作品たちは、こちら。

勅使河原宏『おとし穴』…勅使河原宏と安部公房のコンビは、2年後に日本映画史に残る傑作『砂の女』を撮ることになるが、本作も如何にも安部公房的な毒とユーモアを含んだ前衛的秀作。若き日の井川比佐志と田中邦衛が、存分に魅力的な演技を披露する。

大島渚『少年』…これは、実在の事件を基に撮られた作品で、少年を演じた阿部哲夫は養護施設に収容されていた孤児だそうだ。映画的には、鬼畜然とした父親役の渡辺文雄と夫と息子の間で揺れる継母役の小山明子が凄味のある演技を見せている。
ただ、両親逮捕後の展開に、いささかの歯切れ悪さを感じるのが残念であった。

実相寺昭雄『無常』…この作品が放つ畸形的な腐臭、暗黒的な業を感じさせるエロティシズムは、まさしく背徳の極致。悪魔的な主人公を演じているのは、田村亮。
本作は、ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞した。日本映画でこの賞を受賞した作品はもう一本あって、それは小林政広監督の『愛の予感』(2007)だ。

熊井啓『地の群れ』…被爆者集落、在日朝鮮人集落、被差別部落とあらゆる社会的な差別を苛烈に描いた作品。画面から漂う息苦しいまでの容赦なさは、軽く時代を越えて鋭利なナイフのように我々の胸をえぐる。
熊井がこの作品の前に撮影したのは、かの大作『黒部の太陽』(1968)だ。

上述した作品以外で佳作だと思ったのは、『初恋・地獄篇』『日本の悪霊』『祭りの準備』『青春の殺人者』『君はいま光のなかに』
作品の出来云々よりも、当時の時代をパッケージした意味で貴重な映像資料的価値を有する作品には、状況劇場が登場する『新宿泥棒日記』、ピーターのデビュー作『薔薇の葬列』、山下洋輔トリオの演奏シーンが登場する『天使の恍惚』を挙げておきたい。
ただ、これらの作品や『とべない沈黙』『エロス+虐殺』『煉獄エロイカ』は、当時の尖鋭的な表現が今の目で見るとどうにも古臭く感じてしまうのも事実。

個人的にまったく乗れなかったのは、『鷗よ、きらめく海を見たか めぐり逢い』『鬼の詩』『北村透谷 わが冬の歌』『正午なり』であった。

特集上映を通して感じたのは音楽の素晴らしさで、特に前期ATGにおいては、武満徹、一柳慧、湯浅譲二、黛敏郎、高橋悠治といった現代音楽を代表する作曲家のスコアが並んでいた。
また、これも独立プロ的と言っていいのかどうなのか、女優たちが潔くスパッと脱いでいるのも印象的だった。大谷直子、高橋洋子、竹下景子、原田美枝子、緑魔子、中川三穂子、等々。
もちろん、成人映画を飾った人気女優たちも出ている。田中真理、水原ゆう紀、絵沢萠子、片桐夕子、杉本美樹、芹明香、フラワー・メグ、東てる美、松井康子。
かなりの頻度で登場した俳優は、佐藤慶、寺田農、田中邦衛、渡辺文雄、小松方正、原田芳雄、戸浦六宏、あと、地味に外波山文明と下元史朗が登場する作品もあった。

いずれにしても、2か月かけてすべて観た甲斐のあった特集でありました。

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