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三浦大輔『愛の渦』

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2014年3月1日公開の三浦大輔監督『愛の渦』




制作は間宮登良松、企画は加藤和夫、プロデューサーは岡田真・木村俊樹、企画協力は太田雄子、宣伝プロデューサーは深瀬和美、原作・脚本は三浦大輔、音楽は海田庄吾、ラインプロデューサーは坂井正徳、音楽プロデューサーは津島玄一、キャスティングはおおずさわこ、撮影は早坂伸(J.S.C.)、照明は神谷信人、美術は露木恵美子、録音は永口靖、編集は堀善介。
制作プロダクションはステアウェイ、配給はクロックワークス、宣伝協力はミラクルヴォイス、スターキャスト・ジャパン、製作は「映画 愛の渦製作委員会」(東映ビデオ、クロックワークス)。
宣伝コピーは「笑っちゃうほどむきだしの欲望 集まったのは性欲を満たしたいだけの男女。向かう先は愛か、底なしの欲望か。第50回岸田國士戯曲賞受賞の伝説の舞台、衝撃の映画化。」
2014/日本/ビスタ/DCP5.1ch/123分/R18+

本作は、三浦大輔が2005年に劇団ポツドール第13回公演として初演、第50回岸田國士戯曲賞(2006)を受賞した舞台を映画化したものである。
上映時間123分中、着衣シーンが18分30秒というのも話題となった。




こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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六本木の喧騒から少し離れた閑静な住宅街。瀟洒なマンションの一室にある秘密クラブ「ガンダーラ」は、いわゆる裏風俗店である。
時間は午前0時から早朝5時まで、料金は男性2万円・女性1千円・カップル5千円。ルールは避妊具を着用すること、行為の前にはシャワーを浴びること、女性の意思を尊重してセックスすること。
秘密裏に開設された店のホームページは、「乱交」という言葉で検索しないとヒットしないようになっている。



今宵、ここに集まったのは親からの仕送りで料金を払った陰鬱なニート(池松壮亮)、茶髪でけんかっ早そうなフリーター(新井浩文)、一見真面目そうなサラリーマン(滝藤賢一)、町工場で携帯電話のボディを作っている肥満体(駒木根隆介)、眼鏡をかけて如何にも気弱そうな大学生(門脇麦)、気の強さがにじみ出ている保育士(中村映里子)、今風の可愛いOL(三津谷葉子)、夥しい数のピアスをつけているヤバそうな女(赤澤セリ)。



店長(田中哲司)は、店のルールを説明すると出て行った。部屋に残ったのは、チャラそうな店員(窪塚洋之)。



皆が空気を読む中で、ピアス女だけがわがもの顔で振る舞っている。この女はこの店の常連らしく、店員にもあれこれと用事を言いつけている。



こう着状態を破ったのはフリーターで、彼はOLに声をかけると「お先に」といった風情でプレイルームへと消えて行った。それがきっかけとなり、次はサラリーマンと保育士が、続いて工員とピアス女がプレイルームに向かった。
部屋に残ったニートと女子大生。ニートはおずおずと女に話しかけ、ようやく二人もプレイルームへと消えた。



一番内気そうに見えた女子大生は、大きな喘ぎ声を出しながら激しくニートの体を求めた。その光景に、他の者たちも目を見張った。



とりあえず一度事が終わると、一同は緊張から解放された。で、2回戦となる前に次の相手を品定めしつつ、皆自分のことを話し始めた。
一通り下ネタ系の話が終わると、フリーターは保育士と、サラリーマンはOLとプレイルームへ。工員はピアス女、ニートは女子大生と。しかし、2回戦が終わったところで場の雰囲気にはおかしなものが漂い始める。性欲だけではなく、各々のエゴまでが解放されて行ったからだ。
男たちはピアス女のお相手だけは勘弁願いたいと思い、保育士は童貞工員のことを無理だと言った。挙句、OLの股間は臭いだの、ニートが女子大生に情を移して一人占めしようとしているだのと、一触即発の緊張感が漂って行った。

そこに、イカれた風情のカップル(柄本時生、信江勇)が加わる。二人は、自分たちの強い愛情を確認するために参加したのだと言う。女はニートと、男は女子大生とプレイルームへ。ところが、本気で感じている女を見た男が激怒。女を引っ叩くと、出て行ってしまう。女も、泣きながら男の後を追った。ニートは、女子大生の表情を窺っている。
このハプニングがガス抜きになったのか、場の雰囲気は収まった。

午前5時のアラームが鳴り、一晩の肉宴が終わったことを告げた。カーテンの隙間から、朝日が漏れ入っている。
6人は服を着て、帰り支度をしている。すると、女子大生は携帯がないと呟いた。店員は、ニートから携帯を借りると彼女の番号を押した。着信音が、彼女のバッグの奥で鳴った。
店員は、不服そうな表情を浮かべるニートの携帯から、凄んで発信履歴を消させた。女たちが先に出て行き、しばし男たちは部屋に残される。ストーキングを防ぐためだ。店長は、ピアス女を連れて出て行った。二人が付き合っていることを知って、工員は言葉を失った。

早朝の街をトボトボ歩くニートの携帯が鳴った。女子大生からだった。ニートは、喜び勇んで彼女が指定した喫茶店に向かった。
席について向き合うと、「電話してくれて、良かっ…」と言いかけるニートの言葉を遮り、女子大生は「私の番号、消して下さい」と言った。彼女は、自分の痕跡がなくなっていることをちゃんと確認したくて、念のためにニートを呼び出しただけだった。
ニートは、失望の色を浮かべて言われたとおりにすると、喫茶店を出た。



一人残って後片づけをしている店員の携帯に、妻からメールが届く。そこには、生まれたばかりの我が子の写真が添付されていた…。

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如何にも三浦大輔らしい、身も蓋もないくらいに剥き出しの欲望交錯する密室劇である。演劇としての評価はすでに固まった作品だが、それを映画に再構築することで、より直截的に明け透けな肉体性が露わになっている。
まずは、その過剰なまでの肉体性を演じきった役者陣に称賛の言葉を贈りたい。それぞれの役者が、絶妙な間と呼吸でこの個性的な作品にリアルな空気を付与していると思う。

上映時間123分中、着衣シーンが18分30秒という言葉からも明白だが、注目されるのはプレイルームにおける大胆な濡れ場の数々だろう。
ただ、物語描写の観点からいえば、見るべき個所はことが動き出すまでの心理戦的な“間”であり、次第に剥き出しになる各人のわがまま勝手なエゴイズムの方である。とりわけ、「何か話して、場の雰囲気を変えなければ…」と空回り気味に言葉を発するサラリーマンの姿は、見ていてなかなか痛い感じである。
そして濡れ場では、やはり門脇麦の魅力的な体のラインと大胆な演技がインパクト絶大だ。オープニングで店長を前にうじうじしている姿から、一度体を交わして振り切れてからの彼女では、人が違ったような変化が見えるところもこの映画の力だろう。

ただ、この密室劇を展開して収束させるために用いられたエピソードには、「三浦大輔といえども、ある種の予定調和的挿話が回避できなかったのだろうか…」という感想を持ってしまった。
具体的には、後半になってから加わるカップルに不自然さを感じるし、女子大生の携帯を探すために店員が他の客の携帯を借りるというのはどう考えてもあり得ないだろう。この店の電話を使えば済むことなのだ。
そして、店での「欲望処理のためだけの行為」の対極として、店員の家族に「新しい命が誕生した」いうシニカルなエピソードを提示したことが何とも空々しい情緒的幕引きに思えてならなかった。
まあ、女子大生がニートを突き放すところは、この作品のクールな荒涼だと思うけれど。

本作は、如何にも現代的な愛と欲を表現した一本。いささか物語的深度が感じられないところも含めて、この辺りが“今”的なのだろうか。
こういう作品を一般で作られると、成人映画はいよいよ存在意義が希薄になってしまうだろう。

余談ではあるが、ピアス女を演じた赤澤セリは作・演出家の赤澤ムックのこと。彼女は、ほたるが出演した二人芝居『トナリネ』 の演出も手掛けている。

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