2014年4月20日に文藝春秋社から刊行された、村上春樹9年ぶりの短編集『女のいない男たち』。
収録されているのは、「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」の全6編である。
一貫したコンセプトでまとめられたとても読みやすい短篇集である。中でも、「イエスタデイ」「独立器官」の2編は、如何にもの春樹的物語と言っていいだろう。
「シェエラザード」は、初期の文体とストーリーテリングを思い出させるちょっと不思議な話である。「シェエラザード」というタイトル、空き巣をめぐる体験、前世は“やつめうなぎ”という飛躍にある種の懐かしさを覚える読者も多いのではないか。
完結した短編という見地に立った場合、個人的な好みで言えば僕は断然「ドライブ・マイ・カー」である。都市生活者の孤独を乾いた文章で淡々と語る物語とユニークな運転手の二人芝居のような展開は、なかなかに刺激的である。
で、この短編集で一番の問題作…といえば、「木野」である。
短編「螢」が『ノルウェイの森』へと広がって行ったように、この「木野」も語られるべき長大な物語が潜んでいるという確たる感触を持った。そして、そのまだ見ぬ物語は恐らく『ねじまき鳥クロニクル』のような、人間の暗部や理不尽な暴力性を内包した物語であるはずだ。
実際に書かれるかどうかは分からないけれど、その長大な物語をできることなら読んでみたいと思う。
なお、エピローグ的な書き下ろしの「女のいない男たち」は、この短編集においてはいささか浮いているように思う。
本短編集は、村上作品としてはあまり難解ではないから、興味をもたれた方は一読をお勧めする。
余談ではあるが、僕が村上春樹の小説を読んでいつも感じるのは、「とても記号的な物語を書く作家だなぁ…」ということである。