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勾玉族(スガダイロー、纐纈雅代、服部マサツグ)2015.8.7@国立NO TRUNKS

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2015年8月7日、国立NO TRUNKSにて勾玉族(まがたまぞく)のライブを観た。以前にもこの編成で演奏しているが、今回このトリオに名前がついた。命名したのは、纐纈雅代さん。
お店のオーナー村上寛さん曰く、「怒れる洋輔トリオ編成!」ということだけど、確かにスガダイローさんは山下洋輔でジャズに目覚めた人で、山下さんに師事しているしその早弾きも有名である。
僕が彼らの演奏を聴くのは、今年の3月20日 以来で、場所は同じ国立NO TRUNKS。



勾玉族:スガダイロー(pf)、纐纈雅代(as)、服部マサツグ(ds)






では、この日の感想を。

第一部

Free improvisation
45分一本勝負の即興演奏。修行僧のようなスガダイロー、ネイティヴ・アメリカンのような纐纈雅代、サラリーマン然とした服部マサツグと、衣装はバラバラである。阿蘇帰りの纐纈は、タンクトップから露出する肩がかなり日焼けしている。
ある意味、極めて正統的にスイングするピアノと、手数が多くトライバルな音を響かせるドラムス。次第に加速して行く演奏は、ヒートアップしつつもグルーヴィーな佇まいを維持する。
どちらかといえばコンストラクティヴに聴こえた二人のプレイに纐纈雅代のアルト・サックスが加わると、音が構築からフリーへと解き放たれる。纐纈のサックスは、野性味あふれる男前なブロウである。そこから、音像はややエキセントリックな表情を纏っていく。

息苦しいまでに濃密なトリオ演奏からサックスが抜けて再び二人になると、マジックのように会場の空気が変化する。まるで、別の視界が開けるような劇的さである。
爽快なピアノとドラムスのバトル的な応酬から、服部の長尺なドラムソロへ。何度も右手に握られたスティックを飛ばしてしまうような、激しいプレイである。続いて、スガダイローの幾何学的に響くピアノソロ。
それから再びトリオ演奏に戻り、今度は三者三様の自由な演奏を聴かせた後、ピアノが美しい旋律を紡ぎ出してやや感傷的にメロディアスなエンディングを迎えた。

第二部

1 Anthropology(Charlie Parker)
第二部は、バードの曲でスタート。軽快にグルーヴする演奏が、キュートで耳に心地よい。このトリオの表現力の豊かさが伝わる、とても魅力的なプレイである。

2 Billie's Bounce(Charlie Parker)
お次もチャーリー・パーカーで、今年3月20日のライブでも演奏していた曲。クールにストイックな演奏を聴かせるスガダイローのピアノが、美しい。もちろん彼の早弾きも好きだが、個人的にはバラード・プレイに強く心惹かれる。
しばしピアノとドラムスで演奏した後、アルト・サックスが加わる。そこから、サックスとドラムスでの演奏。再び、トリオへとチェンジして行く。バリエーションに富んだ、誠に刺激的な演奏である。
考えてみると、ビ・バップの礎を築いたチャーリー・パーカーを演奏しつつ、一曲の中でスイングやフリーにまで行き来するプレイは、ある意味コンパクトに駆け抜けるジャズの歴史そのもののようだ。

3 夏の思い出(作詞:江間章子、作曲:中田喜直)
今回のセット・リストの中では、ひときわ異彩を放つ選曲。「夏が来れば 思い出す はるかな尾瀬 とおい空♪」というあの曲である。スダガイローさん曰く「夏ですからね、夏らしい曲を」とのことである。
この曲における繊細なピアノ・プレイは、まさに尾瀬沼の上に広がる青い空の映像が浮かぶ珠玉の美しさ。あぁ、イッツ・ア・センチメンタル・ムード!
曲に合わせて、時折纐纈がポエトリー・リーディング的に歌を口ずさむのだが、サックス演奏時の男前な彼女とは違う“はにかんだ表情”がとても可愛い。こんなこと言われて、本人がどう思うかは置いておいて(含笑)
後半では、サックスとドラムスが演奏に加わる。曲の美しい佇まいを損なわうことなくフリーにブロウする纐纈のサックスを聴いていたら、何となく川下直広のプレイを思い出した。

4 カラスの結婚式(纐纈雅代)
纐纈雅代のオリジナル曲で、3月のライブでも演奏されていた。個人的にも大好きな曲である。
先ほどの演奏とは打って変わって、今度はダークで不穏なイントロからスタート。そこから、目まぐるしく演奏が展開する。エキゾティックなワルツ的旋律を奏でたかと思うと、まるでチンドンのような音が顔をのぞかせる。そこからフリーへと移行して、むせび泣くような鳴きのフレーズを聴かせる。
スガダイローのピアノと素手まで使ってドラムスを叩く服部のパーカッシヴなデュオ演奏の後で聴かせたドラムソロは、まさしく彼の独壇場。爽快なくらいにフィジカルな演奏が、熱い。
三人に戻ってのエンディングも、とても素敵だった。

-encore-

Cherokee(Ray Noble)
観客の拍手に導かれてメンバーは楽器の元へと戻ると、猛スピードでこの曲を。チャーリー・パーカーもレパートリーにしていたが、個人的にはやはりクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ五重奏団『スタディ・イン・ブラウン』で親しんだ楽曲である。
勾玉族のパンキッシュなフリー・ジャズが、国立の夜をヒリヒリと駆け抜けた。


いやはや、勾玉族の三人はこの夜も最高に刺激的な演奏を聴かせてくれた。この三人ならではのオリジナリティと一筋縄ではいかない表現力、そして音楽的な豊饒さ。
まさしく、今の現在進行形としてのジャズがここにある。

終演後、僕はスガダイローさんとちょっと話をさせてもらったんだけど、話題のひとつは今月下旬に新宿K's cinemaで上映される「MOOSIC LAB 2015」について。スガダイローさん主演の『劇場版 しろぜめっ!』と僕の友人・当方ボーカルこと小松公典が脚本を書いた『101回目のベッド・イン』がプログラムに入っているからだ。



そして、纐纈雅代さんから初リーダー作『Band of Eden』のCDを買って、彼女とスガダイローさんにサインを入れてもらう。ポストカードが三枚ついて来た。






とにかく、仕事で疲れ切った心と体をリフレッシュさせてくれる激しくて優しい音楽だった。
人生におけるささやかな幸福のひとつは、こういう時間を過ごした時の満たされた気持ちに他ならない。

8月17日には、吉祥寺MANDA-LA2で纐纈雅代、若林美保、スガダイローの三人による「解禁3」というライブ・イベントがあって、これも凄く楽しみだ。
興味を持たれた方は、足を運ぶことをお勧めする。


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