製作は藤井浩明・山田順彦、原作は清水一行、脚本は白坂依志夫・増村保造、撮影は原一民、美術は阿久根巖、音楽は林光、照明は小島真二、編集は中静達治、録音は原島俊男、整音は西尾昇、衣裳は藤崎敏江、助監督は奥村正彦、記録は宮崎田鶴子、スチールは石月美徳。製作は東京映画、配給は東宝。
こんな物語である。
愛知県名古屋市熱田区。東海道新幹線が周辺住宅街に途轍もない騒音をまき散らしながら、間断なく時速200キロの猛スピードで通過して行く。
一時は入院して容体が回復した老婆は、騒音をB-29の音と混同しながら激しく体を痙攣させて、主治医の名古屋中央病院臨床研究医・秋山宏(近藤正臣)と看護婦で秋山の恋人・君島知子(関根恵子)の治療も空しく事切れた。秋山は、自分の無力さと無策の国鉄に対して怒りを露わにした。
秋山は、理由も話さず知子にニトログリセリンを病院から少し持ち出すよう頼んだ。知子は、困惑しつつも秋山にニトログリセリンを渡した。すると、秋山はしばらくヨーロッパ旅行をすることにしたと告げた。
秋山が姿を消した翌日。新幹線のトイレから出てきた女性(芹明香)は、便器に物が詰まっていて流れないと毒づいた。調べてみると、便器の奥からニトログリセリンと脅迫状が発見された。新幹線による騒音と振動を止めなければ、10日後に新幹線を脱線させると脅迫状に書かれていた。
国鉄関係者と警察はその脅迫状の信憑性を議論していたが、その翌日に今度は豊橋駅で新幹線ひかり号が脱線した。一歩間違えば後続のひかり号が追突して大惨事となるタイミングだった。
事態を重く見た国松警察庁長官(小沢栄太郎)は、生え抜きのエリートで警察庁犯罪科学捜査研究所長の滝川保(田宮二郎)に事件の捜査指揮を一任する。滝川は、山崎警察庁捜査一課長(小池朝雄)、明石警視庁特別捜査班班長(井川比佐志)、中野愛知県警公安一課長〈勝部演之〉、村田愛知県警捜査一課長(渥美国泰)と共に捜査本部を立ち上げ、短期決戦的な極秘調査を開始した。
滝川は、脅迫状の内容が名古屋新幹線騒音公害訴訟団の要求と一致している点に着目。訴訟団が主張の科学的根拠とする論文を中心的に執筆した秋山の存在に行きつく。秋山は現在出国中とのことだったが、秋山には外見のよく似た従弟がいることと脅迫状に付着した指紋が秋山のものとほぼ一致したことから、ヨーロッパを外遊中なのは秋山になりすました従弟であり、秋山は現在も日本にとどまり一連の事件に関わっているものと滝田は断定した。
その頃、秋山は東京にある従弟のアパートに潜伏して、秋葉原電気街で電気機器を物色していた。秋山は、もう一度新幹線を止めるとマスコミに犯行予告をした。マスコミは事件を隠していた警察庁を糾弾するが、国松と滝田は次の犯行を阻止できなければ事件を公開捜査に切り替えることでマスコミ各社と折り合いをつけた。
ところが、またしても秋山は新幹線を止めてみせた。いよいよ、滝田は公開捜査に踏み切った。
潜伏中の秋山は、立ち寄った飲み屋で偶然知り合ったホステスの落合芙美子(梶芽衣子)と深い関係になる。芙美子は、かつて看護婦をしていたが医師への不信感からスナックのホステスになった女だった。彼女は、秋山のことを指名手配犯だと気づいていたが、彼の自己犠牲的な正義感に深く共感した。
秋山は、芙美子の協力を得ながらいよいよ大胆な行動を取り始める。深夜に長田国鉄総裁(山村聡)宅を訪れ、自らの主張と要求を直接伝えると会話を隠し録りしたテープをテレビ局に送った。
そして、いよいよ犯行予告当日を迎えるが…。
121分間、手に汗握る社会派クライム・サスペンス・ムービーの良作である。
新幹線騒音問題といえば、当時を代表する公害問題の一大トピックであった。また、頻発するストライキや累積する赤字で、国鉄に向けられる国民の目も厳しさを増していた時期である。
まさしく、当時の社会的関心が集約されたような映画だった訳だ。
ちなみに、清水一行の小説『動脈列島 新幹線転覆計画』は1974年に光文社のカッパ・ノベルスから刊行され、第28回日本推理作家協会賞を受賞している。
とにかく、豪華な俳優陣、畳みかけるようなテンポの良さ、スケールの大きな仕掛けで娯楽映画としても緻密に練り上げられた力作である。
色々とご都合主義的な展開もあるが、それも確信犯的だろうしアクセルを思いっきり踏み込むような増村保造監督の演出には有無を言わせぬ迫力がある。観ていて、実に爽快である。
1970年代以降、増村は大映テレビを中心にテレビドラマの演出にも力を入れるが、本作もある意味2時間サスペンスのお手本的なキレ味ある演出が光っている。
なお、製作の藤井浩明と共同脚本の白坂依志夫は、大映倒産後に増村が独立プロ行動社を設立した時の同人である。
物語の主軸に据えられた正義感に溢れる青年医師・秋山や捜査に関わるエリート捜査官・滝田のクールでクレヴァーな造形も魅力的だし、彼らを取り巻く人々も生き生きと描かれている。
しかも、ただシリアスなだけでなく前半で見せる近藤正臣と関根恵子のしっかりした濡れ場や、梶芽衣子との道行きの恋愛的な関係性の外連味もいい。また、日活ロマンポルノを代表する名女優芹明香がチラッと姿を見せるのも、ファンには嬉しいところだ。
最後の最後まで引っ張る展開も、随分と後のドラマに影響を与えたのではないか。
増村保造の職人的な演出の確かさを堪能して頂きたい一本である。