前回の「解禁2」が2014年7月14日だったから、1年ぶり待望の「解禁」である。ちなみに、前回は纐纈と若林に不破大輔という布陣だった。
それでは、当日の感想を。
第一部
○若林美保
壮大なゴシック・ミュージックが流れ、黒のコルセットを装着して白いシースルーの襦袢を纏った姿で若林美保が登場。手にしているのは、赤い縄。ショーの出だしとしては、なかなかのインパクトである。そこから、トップレスになりコルセットを外しての吊りは、緩やかに宙を舞う感じがなかなかに見せる。
個人的には前半の選曲がやや単調だったような気がする。それと、欲を言えばもう少し踊りに間があればなぁ…と思う。
ただ、感傷的でドラマチックに盛り上がって行くラストのスケール感は、流石わかみほと唸った。
○スガダイロー
シンプルな白いシャツ姿でピアノに向かうと、スガダイローは不安を煽るようなフレーズを単音で奏で始める。破綻すれすれに聴こえる旋律が、実にスリリングだ。
そこから一転、今度は暴力的なまでの強いタッチで演奏。そのスタイルには、彼が師事した山下洋輔の姿を重ねる人もいることだろう。まるで破壊神のようなサウンドは、傍若無人に前進を続ける軍隊の足音を聞くようである。ダークにグルーヴするプレイが、圧巻だ。
演奏は次々に表情を変え、小刻みに鍵盤を叩きカラフルで幻想的な音を紡いでいたかと思うと、一音一音に神経を張り詰めた透明なサウンドが会場を包んだ。
○纐纈雅代
ビザールでパンクな黒のタンクトップ姿で登場した纐纈雅代は、一音目から力強くブロー。フリー・ジャズというより、僕には何処か海童道宗祖の法竹を想起させるような響きに聴こえた。
そこからのむせび泣くような旋律は、血を吐くようにバラードを奏でる阿部薫の音像と重なった。時折、遠い海から聞こえてくる鯨の鳴き声の如きフレーズが挿入される。
フリー・ジャズと土着的な呪詛を思わせる純邦楽が時空を超えて融合するような剛腕のプレイは、彼女の真骨頂だろう。闇を切り裂く悲しみのブルースである。
第二部
○スガダイロー×若林美保
スガの奏でる音の海の中をたゆたうように踊る美保。妖艶と幻想が一体となった素晴らしいコラボレーションである。
あえてエロティシズムを抑制することで、逆に彼女の官能性が露わになる。まるで猛禽類のように美保の動きを窺いながら、スガは自分の奏でるべき音を鍵盤に探す。美保曰く「スガさんに視姦されているよう」なセッションは、観ている側にも十分に刺激的だ。
恍惚の表情で優雅に舞う美保と、緊張感溢れる研ぎ澄まされた音を響かせるスガ。一瞬一瞬を切り取るようなピアノの旋律に乗せて、美保は徐々に肌を露出させてデカダンスの深海へと沈み込んで行く。
まるで、踊りとピアノのクリスタル・サイエンスとでも形容したくなるパフォーマンスは、この夜のひとつの成果と断言したくなるような素晴らしさだった。
○スガダイロー×纐纈雅代
若林美保が袖にはけると、代わって纐纈雅代がステージへ。奏でる曲は、「ハーレム・ノクターン」。パンキッシュで暴力的な演奏が、最高に刺激的だ。
フリーキーな中にもしっかりと音楽的対話が聞き取れる演奏は、この二人ならではのオリジナリティに溢れている。ヒリヒリした皮膚感覚の如き音像で繰り返される構築と解体は、強靭なジャズとなって会場の空気を揺らす。
○スガダイロー×纐纈雅代×若林美保
再び若林美保がステージに戻り、三人でのパフォーマンスへ。強靭なピアノソロを聴かせるスガに、纐纈の高速なアルト・サックスが被さる。そして、美保は自らの体を吊るす。
エキセントリックとヒステリックが交錯するパラノイア的な音空間が現出したかと思えば、次には力強くメロディアスなプレイへと変貌を遂げる。纐纈が正統的なメロディをブローした後、今度は純度の高い水晶のような珠玉のバラードをスガが聴かせる。
最後は、三人によるまさに夜のジャズとでも形容したくなるプレイでフィニッシュ。
刺激的な音と踊りが堪能できる誠に意義深いコラボレーションであった。この夜、MANDA-LA2で「解禁3」を体験した人は、誰もが至福の時間を享受したものと確信する。
この三人が披露したパフォーマンスは、尖鋭的でありながら決して観るものを拒絶しない、正真正銘の自由なジャズに他ならない。しかも、「今」の「日本」のシーンでしか表現することができないオリジナリティに貫かれていた。
本当に、素敵なことじゃないか!
吉祥寺のライブハウスで繰り広げられた、ささやかな奇跡とでも言いたくなるような特別な夜だった。
関係者の皆様、お疲れ様でした。