1964年7月11日公開、渡邊祐介監督『悪女』。
企画は吉野誠一・片桐譲、脚本は下飯坂菊馬・渡邊祐介、撮影は西川庄衛、美術は進藤誠吾、音楽は伊部晴美、照明は森沢淑明、編集は長沢嘉樹、録音は大谷政信、スチールは藤井善男。製作は東映東京撮影所、配給は東映。
本作は、『二匹の牝犬』のヒットを受けて、渡邊祐介監督が再び小川真由美と緑魔子を起用して製作したものである。『二匹の牝犬』同様、成人映画として公開された。
こんな物語である。
三村はつ(杉村春子)が営む弥生家政婦会に所属する田中姫子(小川真由美)。福島の貧しい農家育ちの姫子は、人が喜ぶことが自分の喜びという奇特な性格の働き者で、現在はトラック運転手の鈴木亀吉(北村和夫)という恋人がいる。
姫子には、生活のために奥州街道沿いでトラックの運転手相手に売春をしていた過去がある。そんな中で出逢ったのが亀吉だった。亀吉は純情な男で、始めはパンパンを毛嫌いしていたが、ふとした偶然で姫子と再会。二人は付き合うようになった。生真面目な亀吉は、結婚してから…と姫子とは肉体関係を持っていない。
弥生家政婦会の上得意でブルジョアの園城家は、とにかく人使いの荒さから家政婦が長続きしない。今回も一カ月ともたずに辞めてしまい、姫子が派遣されることになった。
園城家の家長・礼次郎(三津田健)は優しい好人物だったが、妻と死に別れてから柳町に通うようになり、そこで知り合った娘ほどに歳の離れた芸者・由紀(高千穂ひづる)と再婚した。
ところが、礼次郎は狭心症を患って倒れてしまい、前妻との間の子供二人は相当に問題ある人間であった。
長男の英介(梅宮辰夫)は、テレビのシナリオ・ライターだが最近はあまり仕事もなく、ひたすら酒と女で派手に荒れた生活を送っている。彼は、こともあろうに由紀とも関係している。
長女で女子大生の冬子(緑魔子)は、由紀の結婚を財産目当てと踏んで義母に攻撃的な態度を貫いている。また、彼女は享楽的な性格で、レズのパートナーを屋敷に連れ込む始末だ。
そんな状況を、婆やのしの(浦辺粂子)は苦々しく思っていた。
意外にも、園城家での仕事に姫子は根を上げず、長続きしていた。冬子の人使いはサディスティックなまでに荒く、英介の傍若無人さも目に余ったが、姫子には堪えていないようだった。
そんな中、事件は起きた。冬子は、友人たちを大勢呼んで自分の誕生日パーティーを園城家の屋敷で盛大に催した。乱痴気騒ぎが続く中、勝負に負けた方が裸になるというゲームを受けて立った冬子は、そのゲームに負けてしまう。すると、冬子は自分の代わりに裸になるよう姫子に命じた。
姫子は、冬子の友人たちに取り囲まれて服を脱がされそうになったが、そこに帰宅した英介のお陰で救われる。一難去ったと思われたが、その夜姫子は英介に襲われてしまった。
流石の姫子も円城家を飛び出し、はつに暇を申し出た。そして、亀吉に結婚したいと懇願。もちろん亀吉には何の異存もなく、彼は姫子を連れて実家の両親・大造(宮口精二)とてい(五月藤江)に結婚の報告に行った。
その夜、初めて二人は結ばれようとしていたが、姫子は激しい吐き気に襲われる。つわりだった。姫子の妊娠を知った亀吉は激怒、泣きながら彼女を家から追い出し、結婚も破談になった。
英介の子供を身籠った姫子は、再び家政婦として円城の邸宅に戻るが…。
小川真由美と緑魔子で撮った前作『二匹の牝犬』もなかなかに挑発的な風俗娯楽映画であったが、本作は東映エロ路線の原点的なハチャメチャさが満載のあざとい怪作である。
感覚としては、過剰な昭和の昼帯ドラマを現在のとんでもVシネ的な破壊力で味付けしたような風情とでもいえばいいか。後半の展開はほとんどホラーだが、ラストは女囚もの的な語り口で終幕するというアクロバティックさである。
訳あり家政婦根性もの的な前半から、これでもかと言わんばかりに姫子に数々の悲劇がもたらされる後半のジェットコースター的展開も凄いが、一番クラクラするのは彼女の精神構造と思考パターン…みたいなところが本作のモンドさを加速する。
とにかく、メイン・キャストの小川真由美、緑魔子、梅宮辰夫、高千穂ひづるが振り切れたようにアッパーな演技を披露するのも見どころだが、脇を固める北村和夫、杉村春子、浦辺粂子、あるいは宮口精二と五月藤江が生真面目な芝居をするコントラストにも何やら凄味がある。
サービス精神旺盛といえばそれまでだが、緑魔子のレズシーンというのも、分かったような分からないような演出である。
個人的には緑魔子の外連味たっぷりな存在が買いだが、流石にドラマ自体のやり過ぎ感はどうかな…と思わなくもない。
昭和風俗に咲いた徒花的作品ゆえ、好事家にはたまらない作品だろう。