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タナダユキ『ロマンス』

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2015年8月29日公開、タナダユキ監督『ロマンス』



製作は間宮登良松、企画は加藤和夫、プロデューサーは佐藤現・中澤研太・坂井正徳、脚本はタナダユキ、音楽は周防義和・Jirafa、エンディングテーマは三浦透子「Romance ~さよならだけがロマンス~」、音楽プロデューサーは津島玄一、宣伝プロデューサーは丸山杏子、キャスティングディレクターは杉野剛、撮影は大塚亮、美術は仲前智治、録音は小川武、編集は宮島竜治(J.S.E.)、スクリプターは増子さおり、衣裳は宮本茉莉、助監督は松倉大夏、製作担当は鎌田賢一、ポスター撮影は川島小鳥、イラストは伊東瞳、ポスターデザインは大島依提亜。
製作プロダクションは東北新社、製作は東映ビデオ、配給・宣伝は東京テアトル。
宣伝コピーは、「サヨナラだけが人生だ。サヨナラだけがロマンスだ。」
2015年/日本/97分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル


こんな物語である。

26歳の北條鉢子(大島優子)は、小田急線ロマンスカーのアテンダントをしている。鉢子は成績優秀だが、割とダメンズな彼氏の直樹(窪田正孝)とずるずる恋愛している。「電車はいい。目的地があって、そして帰ってくる場所があるから」が彼女の口癖だ。



鉢子は、今日もロマンスカーでダメダメな後輩・久保美千代(野嵜好美)のやらかしたヘマをフォローしつつ仕事にいそしんでいるが、彼女の心は乱れていた。というのも、出勤前にポストを確認すると、何年も会っていない母・頼子(西牟田恵)から手紙が届いていたからだ。



車内販売をしていた鉢子は、お客がカートからお菓子を万引きしたことに気づく。すぐに男の手をつかむが、その客・桜庭洋一(大倉孝二)は「誤解だ」とか「今、金を払うつもりだった」と見え透いた言い訳をした。
おまけに、桜庭は終点の箱根湯本駅で降りた後、逃走。足に自信のある鉢子は、再び桜庭を捕まえて駅事務室に連行した。
せっかく捕まえたというのに事は穏便に片づけられ、桜庭は無罪放免となった。このごたごたのせいで、鉢子の乗るべきロマンスカーは箱根湯本駅を出発してしまう。当の桜庭は、ずっとへらへらのらくらしている。鉢子にとっては、まったくもって面白くないことばかりだ。おまけに、悪びれもせず桜庭は鉢子に話しかけて来た。



鉢子は、駅のゴミ箱に母からの手紙を破って捨てるが、こともあろうに桜庭がその手紙を拾い出して読んだ。
手紙の内容は、また男と別れたので一番楽しかった思い出の場所を訪ねようと思うという意味深なもの。
鉢子の両親は喧嘩が絶えず、ある日父親はまだ幼い鉢子を置いて家を出て行った。離婚以来、頼子は次々と男を引っ張り込んでは関係を持った。鉢子が通っている学校の生徒の父親と不倫したこともあり、それが原因で鉢子はいじめられた。
鉢子にとって、頼子との生活にいい思い出などなかった。そんな家族だったが、一度箱根を三人で旅行した時は、普段の喧嘩が嘘のように両親は仲が良く、鉢子にとっても幸せな時間だった。
母が手紙で書いていた「思い出の場所」とは、もちろん箱根のことだろう。

手紙を読んだ桜庭は、「お母さんを探しに行こう!」と妙に熱く鉢子に迫った。まったくもって、何なのだこのおっさんは。
ウザがる鉢子のことなどお構いなしに、桜庭はレンタカーを借りると強引に鉢子を乗せた。流石の鉢子も桜庭の勢いに気圧されてしまい、一緒に母親探しをする羽目になってしまう。



鉢子の記憶を辿りつつ、桜庭の運転する車で二人は頼子が現れそうなスポットを回った。しかし、当然のことながらそう簡単に頼子と出逢える訳もない。箱根は広いのだ。
桜庭は映画プロデューサーのようだったが、彼が手がけたという映画のことなど鉢子は一本も知らなかった。どうやら、彼の作った映画はこけてばかりらしい。そのせいなのか、桜庭は女房と子供に逃げられていた。



反目し合っていた二人は、微妙な距離感と感情のまま珍道中を続けるが…。




『百万円と苦虫女』(2008)以来となる、久々のタナダユキのオリジナル脚本による新作である。
ロマンスカーのアテンダントが、怪しげな映画プロデューサーを名乗る中年のバツイチ男と箱根の景勝地を一日で回りながら、当て所なく母親を探す…という、言ってみればただそれだけのアンチドラマチックな小品である。
物語の大半は、大島優子と大蔵孝二の会話劇のような印象を受ける。ドラマ展開もある種の定型だし、驚くようなツイストもないままに淡々と物語は進んで行く。

正直に言えば、鉢子の母である頼子、同僚の久保ちゃん、恋人の直樹、あるいは桜庭と、揃いも揃ってダメ人間ばかりが登場するのだが、そのダメっぷりもいってしまえば類型的である。
そもそも、恋人の直樹など必要のないキャラクターだし、鉢子と桜庭の出逢いももう少し何とかならなかったのか…と思う。
ただ、それでも僕はこの映画を最後まで飽きることなく観てしまった。というよりも、観終わってみれば悪くない作品だと思う。僕は、結構こういう映画が好きである。

先ずはヒロインの大島優子がハマり役だし、彼女のキュートな魅力がよく出ていると思う。そして、相手役の大倉孝二は流石の演技巧者である。大島との丁々発止のやり取りが、本作における映画的リズムを作り出していて心地よい。
何といっても、こういうミニマムな作品は役者の魅力とリズムがすべてである。

で、この作品を見て、僕は「う~む、さすがタナダユキ!」と唸ってしまうシーンが二つあった。

本作の展開として、大方の人が予想(あるいは期待)するように鉢子と桜庭はラブホテルで一泊することになる。
で、これまた大方の人が予想して(あるいは諦めて)いるように、二人は未遂で終わる訳だが、その映画的なかわしかたがなかなかに秀逸だった。
「弱っている女を抱こうとするこの男は最低だ。でも、その男に抱かれている私も最低だ」と思いながら、求めて来る桜庭を拒むことなく自虐的に押し倒されてしまう鉢子という展開は、なかなかできないと思う。どうしたって、一度は拒むというリアクションにしがちだろう。
こういう、ある種のクールネスにこそ今のリアルな女性を感じたりする訳だ。

もう一つは、事が未遂に終わった後、桜庭が自分の身の上話をするのだが、話し終わって振り向いてみれば鉢子は眠りに落ちている。
そこまで観ればそれこそ定型的な展開なのだが、その後桜庭が自分の上着を鉢子に掛けて寝ると、鉢子は薄目を開ける。寝ていなかった訳だ。ここでも、正直「やられた」と嬉しくなってしまった。
この二つのシーンだけでも、僕としては観る価値大であった。

まあ、流石にラストのシーンはいささか蛇足だと思ったけど。

本作は、小さな作品ではあるけれど、お勧めしたい現代の良心的な女性映画である。
タナダ監督には、是非またオリジナル脚本で撮って欲しいと思う。

余談ではあるが、ロマンスカーの乗客として杉作J太郎が、派出所のお巡りさんとして松浦祐也がチラッと登場する。

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