企画は栗山富郎・加茂秀男・吉田達、脚本は神波史男・小野竜之助、撮影は仲沢半次郎、美術は中村修一郎、音楽は八木正生、照明は銀屋謙蔵、編集は祖田富美夫、録音は加瀬寿士、スチールは加藤光男。製作・配給は東映。
本作は、降旗康男第一回監督作品であり、谷隼人のデビュー作でもある。
こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。
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田舎での生活に辟易したハイ・ティーンのヨーコは、家出。とりあえず、彼女は同郷のタケシ(荒木一郎)を頼って彼が働く新宿の中華料理屋に押し掛けた。タケシは、驚きながらもオーナーに頼んでヨーコを住み込みのウェイトレスとして雇ってもらった。
しかし、やる気もなく尖っているヨーコは、店での態度も生意気そのものでトラブルを起こす。その夜、ヨーコが寮で寝ていると、タケシが忍び込んで来て彼女を犯そうとした。ヨーコは、田舎で複数の男からレイプされたことがあり、そのことをタケシも知っていた。激しく抵抗するヨーコの首をタケシが絞めると、騒ぎに気づいた同僚たちが部屋に飛び込んで来て、タケシを叩き出した。ヨーコは、すべてにうんざりして寮から出て行った。
朝方の新宿をヨーコが歩いていると、一台の車が停まり運転していた裕福そうな男が声を掛けて来た。デザイナーの浅井(岡田英次)で、彼はヨーコを車に乗せると自分の住む高級マンションに連れて行った。
浅井はヨーコにモデルのようなメイクを施させて、如何にも高級そうなナイトクラブに連れて行った。いい気分でヨーコは浅井とマンションに戻ったが、浅井は先ほどまでの紳士然とした雰囲気から一変、ヨーコのことを暴力的に押し倒した。これが、この男の本性だった。
翌朝、浅井のマンションを愛人の一人が訪ねて来る。高慢ちきそうな女の態度にも腹を立てたヨーコは、女を突き飛ばすように部屋から出て行った。
またしても新宿の町を彷徨っていたヨーコは、一人の女に声を掛けられた。トルコ嬢のハミル(城野ゆき)だった。ハミルは、遊び慣れた風のクールな女性で二人は意気投合する。ハミルは、行きつけの喫茶店にヨーコを連れて行った。マスターの矢吹(大坂志郎)は気のいい中年男で、仲間のナロン(石橋蓮司)はナヨナヨした美容師見習。
ハミルは仕事があるからと店から出て行き、ナロンは仲間のたまり場であるジャズ・バーにヨーコを連れて行った。
ジャズのビートが響く店内では、紫煙と音楽に合わせて踊るお客の熱気が充満していた。ナロンは、ヨーコに仲間たちを紹介してくれた。モデルのアコ(大原麗子)、ハーフの自動車修理工トミイ(関本太郎)、予備校生のジロー(谷隼人)。
彼らは、睡眠薬の錠剤を貪りラリッた状態で愉快そうに笑い、踊った。ヨーコもナロンから渡された睡眠薬を飲み込むとよろめきながら踊り狂っていたが、いつしか彼女の意識は激しい睡魔に飲み込まれて行った。
翌朝、ヨーコはアパートの一室で目を覚ました。部屋は絵の具で散らかり、壁には何枚かの油絵が立てかけてあった。隣には、ジローがいた。ここは、彼の部屋だった。
ジローは、大阪の裕福な家の一人息子で、親の意向で東京の予備校に通っているが本当は絵描きになりたいのだという。
ジローはヨーコに惹かれておりヨーコもまんざらではなかったが、如何せんジローはナイーブで奥手に過ぎた。そんな煮え切らない態度に、ヨーコは苛立った。
二人は、町に映画を観に行った。バカンスの恋に身を焦がす洋画で、劇中に登場するサントロペの海岸の光景にヨーコは心が沸き立った。
職のないヨーコに、ハミルは名曲喫茶らんぶるのウェイトレスの仕事を紹介してやるが、相変わらずの態度ゆえ彼女はあっさり不採用になった。
くさくさして歩いていたヨーコに、声を掛けて来る男(東野孝彦=英心)がいた。沖縄生まれの四回戦ボクサーで、彼は出身地からオキと呼ばれていた。ヨーコは、オキをたまり場のジャズ・バーに連れて行き、仲間に紹介した。
オキは気立てのいい男で、皆に気に入られた。ヨーコ達はオキの試合を観に行くが、彼は負けてしまう。オキは、再び練習に打ち込むためヨーコ達のところに顔を出さなくなった。
ハミルは、店の常連客にプロポーズされて結婚することになっていたが、実は男には家庭があった。ハミルは、ショックから睡眠薬自殺してしまう。冷たくなったハミルの亡骸を前にしたヨーコは、自分は世の中に負けないと息巻くのだった。
ヨーコとジローの関係は相変わらず煮え切らぬままだったが、ジローは親から呼び出されて実家に帰ることになってしまう。その前日にようやく二人は結ばれるものの、翌朝にはヨーコに見送られてジローは東京を後にした。
色んなことが上手く回らなくなり、ヨーコはますます苛ついて行った。
ある時、いつもの店に現代画家の絵画が飾られており、その絵で賞を取った画家の中田(戸浦六宏)が仲間の詩人・井村(寺山修司)を相手に得意げに話していた。そのスカした態度に腹を立てたヨーコは、仲間がとめるのも聞かず絵画を切り裂き暴れ回った。
睡眠薬服用での乱痴気騒ぎで、ヨーコ達は全員警察に連れて行かれた。しかし、仲間たちは皆いいとこの坊っちゃん嬢ちゃんであり、家族が身元引受人となって警察から解放された。ナロンの兄(相馬剛三)がヨーコの身元引受人になってくれたおかげで、彼女も無罪放免となったが、これを機に遊び仲間たちは乱痴気騒ぎから卒業して行ってしまった。
またしても、ヨーコは一人ぼっちになってしまう。
ヨーコは、新宿の町でタケシと再会した。タケシは、ヤクザになっていた。ヨーコはタケシに頼んで浅井のことを痛めつけてもらうが、急にビビったヨーコは取り乱してしまう。ヨーコの態度がおかしいことに白けたタケシは「こっちは、スケには困らねぇんだよ」と吐き捨てて、去って行った。
ヨーコは、自分も世の中に負けたんだと塞ぎ込んで、ジローのアパートで手首を切った。
ヨーコは、病院のベッドの上で目を覚ました。傍らには、母親(中北千枝子)が心配そうにヨーコを見つめていた。田舎に帰ろうと母親が言っているところに、ジローがやって来る。彼は、父親の財布から三十万円を失敬して東京に舞い戻って来たのだ。
娘がこうなったのもあんたたちのせいだと母親はジローを責めるが、ヨーコは止めた。
ヨーコの容体も回復に向かっていた。病院の屋上で、ヨーコはジローと話していた。ヨーコは、二人でサントロペに行こうと誘った。
旅立ちの日。港に、かつての仲間たちが集まっていた。その中には、ヨーコの母親とジローの父親の姿もあった。ジローの父親(佐野周二)は、「息子のことをよろしく頼みます」とヨーコに頭を下げると、これはせんべつ代わりだと言って財布から札束を渡してくれた。
貨物船に乗り込んだヨーコとジローは、いつまでも見送る者たちに手を振るのだった。
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後に夫婦となる緑魔子と石橋蓮司が、共演した作品である。どちらかというとアクの強い役が多い石橋だから、ナロン役のキッチュさは何処となく微笑ましい。
とにかく、本作はオープニング・シークエンスのクールさが秀逸。刺激的な演奏を繰り広げるジャズメンのシルエットが映し出されるタイトルバックは、とにかくメンバーが凄い。八木正生、渡辺貞夫、日野皓正、原田政長、冨樫雅彦という日本ジャズ・シーンを牽引した俊英達である。後日、降旗は「シルエットだけじゃなければ…」と残念がっていた。
また、本作がモノクロで撮られたのは予算の関係だが、スタンダードのモノクロで美しく撮ろうという降旗の思いは「シネスコ上映が基本の劇場で、いちいち上映機のレンズを取り替えられない」と東映興行部に却下され、シネスコ・モノクロになってしまった。
監督デビュー作のほろ苦いエピソードが多い本作だが、内容の方もいささか散漫な出来。当時のフーテン的な若者群像を描いたモラトリアム青春映画で、特筆すべきトピックもないプログラム・ピクチャー然とした一本である。
見るべきものといえば、昭和41年当時の新宿の町並み、若き日の緑魔子と大原麗子のコケティッシュな魅力といったところだろう。
よりマニアックなことを言えば、中華料理店の店員役として小林稔侍がチラッと顔を見せるが、彼と城野ゆきとはキケロ星人のジョーとアカネ隊員として『キャプテンウルトラ』で共演することになる。
個人的には、緑魔子の自由奔放な佇まいと素晴らしい劇番がすべてと言い切ってしまいたいような作品である。というのも、物語構成があまりに場当たり的で、ドラマとしてのテンポに乏しく、中途半端にエピソードを連ねたオムニバス的な映画という印象を受けるからだ。
これでは、いくら当時のヒップな若者風俗を描いた作品といっても、いささか問題だろう。
ただ、緑魔子ファンと日本のジャズ愛好家にとっては観て損のない一本だろう。