12月24日クリスマス・イブの夜に、中野サンプラザホールで山下達郎「PERFORMANCE 2013」千秋楽を観た。
開演時間の18:30を7分ほど回ったところで客電が落ち、ステージにメンバーが登場。コンサートは、アップテンポな曲に仄かなノスタルジー香る「新・東京ラプソディー」で幕を開けた。
続いて大定番の「SPARKLE」、これも久しぶりの「LOVE SPACE」と最初の3曲でいきなりライヴはエンジン全開となった。この選曲でスタンディングしないところが、如何にも正しき達郎オーディエンスである。
ただ、MCによると今回のツアーには20代の一見客も多かったのだそうだ。
ツアー・ファイナルということもあって、この日はマスコミ招待なしの上に普段ならPAサイドで開放しないシートにまで客を入れていた。「大丈夫ですか?僕じゃなくて、呼び屋のSOGOのせいですから(笑)」とは、達郎の弁。
「今日は長いですから、そのつもりで」というMCに、会場はさらにヒートアップした。
今年は『MELODIES』がリリース30周年、『SEASON’S GREETINGS』が20周年という節目の年で、この2枚がようやくリマスター再発された。特に前者は「夏だ!海だ!達郎だ!」というパブリック・イメージを払拭するつもりで製作したアルバムであり、リリース当時は地味だという声も随分あったという。
ただ、このアルバムのお陰で自分はリゾート商品のように消費されずに済んだと達郎は自己分析した。コンサートでは珍しく、その『MELODIES』から「あしおと」と「ひととき」が演奏された。
僕も、達郎のアルバムでどれか一枚と言われたら迷わず『MELODIES』と答えることにしている。その次が『RIDE ON TIME』か。
この4年は毎年コンサート・ツアーを行っており、この日演奏された曲はオールド・ファンにはなかなか嬉しい渋いチョイスだった。達郎の声と演奏は、好調そのもの。小笠原拓海と宮里洋太という若い二人が、バンドに新たな勢いと息吹を付与したのも大きい。
「僕の書く歌には、情けない男がよく登場する」と言って歌われたのが、「スプリンクラー」と「PAPER DOLL」。
そして、近年はあまりにも安易な有名曲のカヴァー・アルバムが多いと苦言を呈した後、達郎らしいカヴァー曲を2曲。
1966年に発表され、アメリカン・ポップス史上に燦然と輝くThe Beach Boys『Pet Sounds』収録の「God Only Knows(神のみぞ知る)」。続いて、ブルー・アイド・ソウル最高峰The Young Rascalsの1967年発表アルバム表題曲「Groovin’」。
後者は、言うまでもなく「サンデーソングブック」のエンディング曲として達郎のカヴァー・ヴァージョンが毎週流れている。
映画『陽だまりの彼女』の主題歌「光と君へのレクイエム」は、今回のツアー途中に決まったため選曲していなかったとのこと。「でも、せっかくだからテレビサイズで」と前置きして、達郎のキーボードでサラッと歌われた。
恒例の一人アカペラのコーナーは、『SEASON’S GREETINGS』から3曲。中でも、Jimmy Jam & Terry Lewisが製作したAlexander O’Nealの「My Gift To You」(1988)は超絶的な難曲だという。歌い終わった後、達郎は「間違えずにできた」と笑った。
達郎にしては珍しくポリティカル・ステイトメントなMCの後、演奏されたのは「DANCER」。続く「希望という名の光」の途中で、先ごろ亡くなった青山純について「80年代、90年代を代表する日本屈指のドラマーは、ちょっとだけ生き方が不器用でした」と達郎は語った。ツアー中だったため、彼の葬儀にも出席できなかったのだそうだ。
僕も、何度となく達郎のバックで叩く青山純のドラムスを聴いた。彼への思いを込めて、曲の後半で「蒼茫」が歌われた。
ここから、コンサートはいよいよ佳境へ。「メリー・ゴー・ラウンド」からの「Let’s Dance Baby」(この曲は、元々キング・トーンズのために書かれた。)では、クリスマスらしく「White Christmas」やWHAM!「Last Christmas」(1984)、Bobby Helms「Jingle Bell Rock」(1957)に果てはユーミンの「恋人がサンタクロース」までメドレーで登場。この曲で、ようやくオーディエンスが踊り出すのもいつもの光景だ。
達郎が書いたKinKi Kidsのデビュー曲「硝子の少年」(1997)では、「お正月」やRay Charles「I Got A Woman」(1954)といった“らしい”遊びも。
「LOVELAND,ISLAND」で一度ステージを去ったメンバーは、アンコールに応えてもう一度登場。達郎は、赤いバンダナとシャツ姿。そう、彼は今年還暦を迎えたのだ。
ここで満を持しての「クルスマス・イブ」から「RIDE ON TIME」。ソロ回しの時に伊藤広規がPink Floyd「Money」(1973)のイントロを弾くと、達郎は「ギャラに不満なのかな…」と呟く。その後の柴田俊文は、Boz Scaggs「Lowdown」(1976)の一節を。
JAL「沖縄キャンペーン’79」のイメージソングとして書かれた「愛を描いて-LET’S KISS THE SUN-」(これが達郎の初タイアップ曲)の後に、奥方・竹内まりやが登場。二人でお馴染みのThe Everly Brothers「Let It Be Me」(1959)をデュエット。
「こんなことなら、練習しとくんだった」と言って、エレキギター一本で「Last Step」を歌った後、このツアー最後に歌われた曲は当然の如く「YOUR EYES」だった。
この日のライヴでは、達郎が何度も「時間、大丈夫ですか?」とお客に確認するのがとても印象的だった。何せ、「That’s My Desire」のア・カペラをバックに達郎がステージ袖に消えたのが22:15である。トータル3時間35分!の演奏時間だったのだから…。
日本最高の音楽パフォーマンスのひとつが、ここにある。まさしく、驚異の60歳である。
最後に達郎は、こう言った。「お互いに、恰好よく歳を取って行きましょう」と。彼がステージに立つ限り、僕はずっとその会場へと足を運ぶことだろう。
まさしく、至福のクリスマス・イブであった。
【2013.12.24 山下達郎PERFORMANCE 2013 at 中野サンプラザホール set list】
01.新・東京ラプソディー
02. SPARKLE
03.LOVE SPACE
04.ずっと一緒さ
05.あしおと
06.ひととき
07.スプリンクラー
08.PAPER DOLL
09.FUTARI
10.God Only Knows
11.Groovin’
12.光と君のラプソディー
13.My Gift To You
14.Bella Notte
15.Have Yourself A Merry Little Christmas
16.DANCER
17.希望という名の光~蒼茫
18.メリー・ゴー・ラウンド
19. Let’s Dance Baby
20.硝子の少年
21.アトムの子
22.LOVELAND,ISLAND
-encole-
23.クリスマス・イブ
24.RIDE ON TIME
25.愛を描いて-LET’S KISS THE SUN-
26.Let It Be Me(with 竹内まりや)
27.Last Step
28.YOUR EYES
山下達郎(vo,g)、小笠原拓海(ds)、伊藤広規(b)、難波弘之(p,el-p)、柴田俊文(keyb)、佐橋佳幸(g)、宮里洋太(sax)、国分友里恵(chor)、佐々木久美(chor)、三谷泰弘(chor)