脚本は澤本嘉光、撮影は野田直樹、美術は相馬直樹、録音は原田亮太郎、主題歌「アイデンティティ」・エンディング曲「ユリイカ」はサカナクション(ビクターエンタテインメント)。製作は「ジャッジ」製作委員会、配給は松竹。
宣伝コピーは「恋と仕事。人生最大の審査(ジャッジ)!」
2013年/日本/105分
こんな物語である。
広告代理店大手の現通でクリエイターをしている太田喜一郎(妻夫木聡)。彼は、広告に対する情熱は人一倍だが、才能や要領に問題ありで、いつでも上司の大滝一郎(豊川悦司)からそんな役回りばかり押し付けられている。
大滝が担当したきつねうどんのCMが完成。「コン、コン、コン、コ~ン♪こし、こし、こし、こし♪」という音楽に乗せてキツネの着ぐるみを着た喜一郎が腰を振って踊るだけの作品だが、エースコックの宣伝室長(あがた森魚)から「ダメだよこれ、もっとちゃんと猫に見えないと。これじゃ、キツネだよ」と意味の分からないダメ出しをされる。大滝はCMの作り直しを喜一郎に命じて、自分は逃げてしまった。
監督(木村祐一)にド顰蹙を買いながら喜一郎が手直ししたCMは、画面に「※これはネコです」とテロップを入れて、踊りの合間にキツネが「ニャー」という酷い代物。もちろん、評判は最悪だった。
現通社長(風間杜夫)と共に大口クライアントちくわ堂を訪ねた大滝は、社長(でんでん)から息子(浜野謙太)の作った信じられないくらい酷い出来のちくわCMを見せられる。
ちくわ堂の社長は、このCMがサンタモニカ国際広告祭で入賞すれば年間取扱額240億の広告をすべて現通に一任すると言うが、落選すれば広告代理店を変えるとムチャ振りして来た。
実は、サンタモニカ国際広告祭の審査員を務めることになっていた大滝は、身の危険を感じて審査員の役を喜一郎に押し付けてしまう。「ちくわが落選したら、お前は会社クビだぞ」と言いながら。
サンタモニカ国際広告祭とは、年に一度開催される広告の国際コンクールで、審査員たちも一流クリエイター揃いだ。当然のことながら、会話は英語。
審査のことはもちろん、英語もまともにしゃべれない喜一郎は、「広告祭のことなら、全部この人に聞け」と大滝に紹介されて資料保管室を訪ねる。
地下の保管室・別称リストラ部屋の主である鏡(リリー・フランキー)は、見るからに風采の上がらぬオッサンで、教えてくれることといえばペン回し、カマキリ拳法、レストランで美味しい食事にありつくための英会話、そして幾つかの英語による“つかみ”くらいのもの。
ところが、彼は大昔にサンタモニカ国際広告祭で審査員経験があった。その折、目立つために鏡は審査会場にメガフォンを持ち込み、ついたあだ名がまんま「メガフォン」。
鏡は、自分の存在をアピールするアイテムとして山のようなアニメグッズを喜一郎に持たせた。
鏡から「パートナーを連れて行かないとホモに狙われるぞ」と脅された喜一郎は、同僚の太田ひかり(北川景子)に一週間だけ奥さんのふりをしてほしいと懇願。理由は、苗字が同じだから。
ひかりは、英語が堪能で仕事もできる女性で、制作部では「できる方の太田」と呼ばれている。ただし、彼女は無類のギャンブル好きで、休日ともなれば場外馬券場界隈にいる変わり種だ。
一度は「絶対ヤダ!」と突っぱねたひかりだったが、「サンタモニカは、ラスベガスまで飛行機で1時間」という口説き文句に負けて、喜一郎に同行する。
広告祭は、審査員自身が関わっているCMも出品されるため、審査の裏では熾烈な駆け引きが行われていた。喜一郎以外に日本から参加しているのは業界では名の知れた白風堂の木沢はるか(鈴木京香)で、彼女が持ち込んだのはトヨタのCM。ちなみに、喜一郎が持ち込んでいるのはエースコックのきつねうどんとちくわ堂のちくわ。
しかし、広告祭は審査委員長も取り込んでの多数派工作がすでに出来上がっていた。
果たして、グランプリの行方は?喜一郎のクビは?そして、ひかりとの恋は?
様々な思惑を乗せ、審査(ジャッジ!)の幕が切って落とされる…。
観る前から、テレビ局や広告代理店が絡んだ「ザ・ムービー」的雰囲気を醸し出している映画である。そして、当然の如く製作委員会の中にはフジテレビも入っている。
物語はといえば、ディフォルメされた広告業界内幕もので、監督の永井聡はサントリー「グリーンDAKARA」のテレビCM等のディレクター、脚本の澤本嘉光は東京ガス「ガス・パッ・チョ」やトヨタ「ドラえもん」シリーズのCMディレクターをした人である。
そもそも、澤本が海外広告祭の審査員をやった時にアニメキャラのプリントTシャツを着用して人気者になったというエピソードがあり、それを面白がった松竹が「だったら、映画で…」と提案したのが制作の端緒らしい。
エースコックやトヨタがそのまんま出てくるところも如何にもだが、白風堂が出品したトヨタCM「Humanity」はカンヌ国際広告祭銀賞受賞CM(プレゼンを担当したのは澤木)である。
…で肝心の内容はといえば、始めの3分の1を見れば残りの3分の2は予想がつくし、あなたが予想したその展開は寸分狂うことなくその通りに進行する。そういう作品である。
良くも悪くも。
チラッと登場する役者も、風間杜夫、あがた森魚、木村祐一、竹中直人、玉山鉄二、加瀬亮、でんでん、伊藤歩、新井浩文、田中要次…と無駄に豪華。
現通経理係の松本さん(松本伊代)で、「センチメンタル・ジャーニー」ネタというのも世代的にはベタ過ぎるし、喜一郎がやるカマキリ拳法の出典元は、やはり「カックラキン大放送!!」(日本テレビ)におけるラビット関根(関根勤)だろうか?
そんな訳で、映画として過剰な期待を寄せて映画館に足を運ぶ人はそうそういないと思うが、そういうスタンスで観る分にはコスト・パフォーマンスに叶った良心的一本であると思う。
合コンで妻夫木聡がもてないというのはさすがにあり得なさ過ぎて鼻白むが、最終的に喜一郎の情熱がすべての流れを変えてしまうという甘過ぎる予定調和が、皮肉でも何でもなくこの作品にはよく似合う。
豊川悦司、鈴木京香、リリー・フランキー、荒川良々も予想の範囲内でいい仕事をしているが、個人的には地味ながら玄里がとても気になってしまった。
だが、この映画の最大の見所にして商品価値といえば、やはり北川景子のキュートさ。それに尽きるだろう。
正直、彼女がスクリーンで生意気に振る舞っていればそれだけで満足…のレベルである、僕は。
映画のラスト。スクリーンに向かって、一言しゃべる北川の表情にノックアウトだ。
ただし、北川景子ファンなら絶対に劇場スクリーンで観ることをお勧めしておく。