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アンドリュー・スタントン『ウォーリー』

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2008年6月27日公開(日本公開は12月28日)、アンドリュー・スタントン監督『ウォーリー(原題『WALL・E』)』





製作はジム・モリス、製作総指揮はジョン・ラセター、ピーター・ドクター、脚本はアンドリュー・スタントン、ジム・リードン、原案はアンドリュー・スタントン、ピーター・ドクター、スーパーバイジング・アニメーターはアラン・バリラーロ、スティーヴン・クレイ・ハンター、撮影監督はジェレミー・ラスキー、ダニエル・フェインバーグ、プロダクション・デザインはラルフ・エッグルストン、音楽はトーマス・ニューマン、主題歌はピーター・ゲイブリエル「ダウン・トゥ・アース」、サウンド・デザイナーはベン・バート、スーパーバイジングテクニカル・ディレクターはナイジェル・ハードウィッジ、編集はステファン・シェパー、共同製作はリンゼイ・コリンズ。
製作はピクサー・アニメーション、ウォルト・ディズニー・アニメーション、配給はウォルト・ディズニー・スタジオ。
なお、本作は2014年に3Dによるリバイバル上映が予定されている。


こんな物語である。

29世紀。700年前に環境汚染がいよいよ深刻化した地球は、巨大宇宙船アクシオムに人々が乗り込み宇宙空間へと脱出。環境が正常化して再び地球へと戻れる日が来るまで、人類は宇宙空間を旅することとなった。
そんな荒れ果てた廃墟の如き地球に、ただひとつ動いているものがいた。量産型ゴミ処理ロボット、ウォーリー(ベン・バート)だ。人間が立ち去った後の地球を綺麗にしておくため大量に生産されたロボットだが、この700年間で次々に機能停止してしまい彼が最後に残った1台だ。
ウォーリーは、集めたゴミを体内でキューブ状に圧縮して整然と積み上げる作業を淡々と700年間続けている。ウォーリー唯一の仲間は、ゴキブリのハルだ。



長い歳月が経過するうちウォーリーにシステムエラーが起こり、彼の中には人間同様の感情が宿っていた。
ゴミを集める作業の傍ら、ウォーリーはお気に入りの物を集めて宝物としてコレクションしている。特に、ジーン・ケリー監督のミュージカル映画『ハロー・ドーリー!』(1969)のビデオは大のお気に入りで、ウォーリーは棲家代わりのトレイラーハウスで事あるごとに再生していた。映画の中で、男女が手を握るシーンにウォーリーは強い憧れを持っている。




そんなある日。巨大な宇宙船が地球に着陸して、中から白いロボットが現れた。彼女の名前はイヴ(エリサ・ナイト)で、どうやら地球を探索しているようだった。ウォーリーはひと目見てイヴに惹かれるが、イヴの方ではウォーリーになどまったく関心を抱かない。それでも、ウォーリーは何とかイヴにコミットしようとする。そんなウォーリーの一途さに、指令一筋で堅物なイヴも次第に態度を和らげて行った。




ウォーリーはイヴをトレイラーハウスに招き、とっておきの宝物を見せる。それは、古いブーツから芽吹いた緑の植物だった。すると、イヴのプログラムが起動して植物を体内に取り込みフリーズしてしまう。




驚いたウォーリーがイヴを看病していると、巨大宇宙船がイヴを強制収容してしまう。ウォーリーはイヴを追って巨大宇宙船にしがみついた。
巨大宇宙船アクシオムは、ウォーリーを乗せて再び宇宙へ飛び立った。

イヴへの指令とは何なのか?そして、ウォーリーの運命は?


アニメーションが本来表現すべきキャラクターのモーション、子供に向けられたファンタジックな寓話性に加えて、老若男女を問わぬ普遍的かつ広い視野での愛情と警鐘までも内包したとても優れた作品である。

言うまでもなく、宇宙船アクシオムはノアの方舟だしイヴは植物を持ち帰ったからの引用である。
そして、観た方ならすぐにピンとくるだろうが、本作における宇宙船内のシーンのいくつかはスタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』(1968)にインスパイアされている。リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れるのは指摘するまでもないだろうが、アクシオム自動操縦装置オートの艦長への反乱やゴキブリHALのネーミングにもそれは顕著だろう。
ちなみに、HALはハル・ローチとHAL 9000から取られているようだが、『2001年宇宙の旅』におけるHAL 9000のHALとはIBMを一文字ずつずらしたネーミングである。



なお、WALL・EはWaste Allocation Load Lifter Earth-Class(地球規模ゴミ分別積載機)、EVEはExtraterrestrial Vegetation Evaluator(地球外植物探査機)の略である。

ストーリーとしてダイナミックに展開するのはもちろんウォーリーがアクシオムに潜入して以降だが、映像的な素晴らしさが遺憾なく発揮されているのは、むしろ動きの少ない前半部分だと僕は思う。
まるでサイレント映画のように科白がなく、ウォーリーがたった一人でゴミを回収するシーン。その一つ一つの仕草に彼の心の動きや孤独といったメンタリティがリアルに表現されている。
そして、寂莫感の中にも何気ない遊びやユーモアが散りばめられている。ハルの動きがいささかリアルに過ぎて、岩場を動き回るフナムシみたいなのがちょっと気持ち悪いんだけど(笑)
しかも、ウォーリーにしてもイヴにしてもロボットであるから、彼らの喜怒哀楽は仕草や搭載されたライトで表現しなければならない。にもかかわらず、彼らの感情は観る者の心に確実に伝わって来る。
いや、ツールが限られているからこそ感情表現が過剰にならず、それがかえって切なさに昇華されるのである。
個人的には、ウォーリーとイヴの愛情交換に面映ゆい部分もあるんだけど、それは僕がいささかすれているからだろう。

物語の展開自体は言ってみればかなり定型的なのだが、こういうアニメーションにおいてはおかしなギミックを使うよりも正統的に突き進むべきなのだ。
CG映像を駆使した本編も素晴らしいが、エンドロールの温もりあるイラストレーションも実に可愛い。

本作は、モーション・ピクチャーとしてのアニメーションの粋を感じさせる傑作。
どなたにも、自信を持ってお勧めできる一本である。

余談ではあるが、劇中でさりげなく流れるルイ・アームストロング「バラ色の人生」のノスタルジーに僕はハッとした。


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