2月11日ソワレ、新宿眼科画廊・地下で射手座の行動第1回公演『行動・1』を観た。
作・演出・音響・照明はふじきみつ彦、出演は岩谷健司・岡部たかし・永井若葉(ハイバイ)・山村麻由美、ピアノ・衣装・小道具は山村麻由美、演出助手は猪瀬青史、製作は長谷川まや、協力は株式会社ディケイド・株式会社クリオネ・Krei株式会社、有限会社イーピン企画・株式会社ASH&Dコーポレーション・大橋さつき・美馬圭子・木下いづみ、チケット管理システムはCoRichチケット!。
射手座の行動とは、作・演出を手掛けるふじきみつ彦の一人ユニットである。
本公演は、4本のスケッチからなる80分の芝居である。
1「こだま」
籍は入れたものの新婚旅行もまだの男(岡部たかし)は、妻(永井若葉)を自分が運転するこだまの運転席に乗せてしまう。もちろん、会社にも車掌にも内緒だ。妻は、出発前からすでにテンションがマックス。
「お前のためだったら、俺は何だってできるよ」という夫に感動する妻。夫は、こともあろうに妻に運転までさせてしまう。
しかし、そのうち妻は新幹線といえども各駅停車のこだまに不満を言い出す。あまつさえ、熱海を通過してもいいかと無茶苦茶なことをのたまい、夫を慌てさせる。「どうせ他の女の人も乗せたことあるんでしょ?」と繰り返す妻に苛つき始める夫だったが、実はかつて女を乗せた前歴があった。しかも、今の妻が乗りたがっているのぞみに。乗せたのは前の妻で、彼女の実家は沼津だった。
三島駅停車中、前妻をのぞみに乗せたことで夫婦は揉め出す。いつまで経っても出発しないことを不審に思った車掌(岩谷健司)が、運転室にやって来て…。
2「ある院長の憂鬱」
数年かかりつけている整骨院に時間外に呼び出されたデザイナーの男(岡部隆たかし)は、院長(岩谷健司)と女性医(永井若葉)と共に妻(山村麻由美)の到着を待っている。デザイナーの妻は同僚と一緒に生徒の父親の家を訪ねているが、どうも要件が延びているらしかった。
ようやく妻が到着すると、院長は改まった顔でこう切り出した。「大変心苦しいのですが、もううちには来ないで頂けないでしょうか」。唖然として、訳を尋ねる夫。院長が彼の妻を好きになってしまい、このままでは自分を抑えきれなくなるからというのがその理由。
「お互い、家庭のある身ですし」という院長に患者夫婦はいよいよ複雑な顔をする。そればかりか院長が妻を意識し出した理由は、彼女が“そこそこ”で“ちょうどいい”からだと言われて、夫婦は顔をしかめた。
聞けば、院長は医者になる前新幹線の車掌をしていたが、問題を起こして辞めたとのことだった。もう、社会で失敗することは許されないと院長は真剣そのもので…。
3「タクシー」
兄妹(岩谷健司、山村麻由美)を乗せて駅に向かったタクシーは、動物を轢いてしまう。タクシーの運転手(岡部たかし)は車を降りて動物の死骸を検証しているが、兄妹はさすがに不快な表情を浮かべる。それもそのはず、このタクシーはすでにタヌキを二匹轢いていた。
会社から「動物ならいくら轢いても大丈夫」と言われていると運転手は言うが、お客からあまり指摘されるので彼もさすがに気にし始める。運転手は、自分の代わりに気持ちだけでも一匹轢いたことにしてくれないかと訳の分からないことを兄妹に頼んだ。
そこに、たまたま通りかかった運転手の妻(永井若葉)が会話に参加するが…。
4「親」
中高一貫の私立校。中学一年生の息子を持つ父親(岩谷健司)から「自分の息子とある生徒を二年以降別のクラスにしてくれ」と再三クレームを受けて、教師三人(岡部たかし、永井若葉、山村麻由美)は彼の家に説明に訪れた。彼の家は、父一人子一人の父子家庭だった。そのことも、父親を頑なにしている要因の一つだ。
しかし、三人の教師は慇懃に謝るだけで、クラス替えのことになると歯切れが悪い。検討に検討を重ねていると言って、のらくらとその場を交わすだけだ。
この父親は短気で、自分のことをモンスター・ペアレントだと思っているんだろうと絡んで来る始末だ。
一度は話をまとめて家を辞去しようとした三人だったが、父親に引き留められて出るタイミングを失ってしまう。この後、夫と待ち合わせている一番若い音楽教師は、先に整骨院に着いているはずの夫に連絡した。
さらに話を続けるうちに、いよいよ父親の雲行きが怪しくなってきて…。
各20分程度のショート・スケッチ4本で構成された舞台は、それぞれのエピソードが巧みにリンクされており、なかなか楽しめる80分であった。
ただ、昨日の祝賀会『冬の短篇』 で観たふじきみつ彦脚本作「冬の焚き火」「冬のロープウェイ」のコンパクトにしてシニカルにハイブロウなショート・スケッチを体験した者としては、物足りなさを感じたのも事実である。
ふじきの劇作にセンスがあることも、岩谷健司、岡部たかし、永井若葉が役者として上手いことも僕はすでに知っている(イーピン企画の山村麻由美は今回初めて観た)から、どうしても期待値が高くなってしまう訳だ。
端的に言えば、今回の舞台はいささか脚本が技巧的に過ぎて、僕には素直に笑えない部分があった。
何処に向かって進むのか分からない前半は面白いのだが、後半に施された仕掛けが作為としてのシニシズムに感じられる。だから、観ていてどこか疲れてしまうのだ。
一番面白いと思ったのは「こだま」だったが、その話も車掌が「実は、私も…」と告白するくだりで「ああ、ツイストが技巧的だなぁ…」と感じてしまった。僕は、運転手の妻と車掌のエピソードをパラレルになぞるのではなく、もう少し違った展開を期待したのだ。
「ある院長の憂鬱」もなかなか楽しめはしたが、患者の妻が突然京都弁を喋り出して以降に過剰さを感じた。ここからの展開は、役者の演技はアッパーになるのだが、テンポは逆に停滞気味に思えた。
そして、これは好みの問題かも知れないが、僕は「妻が、院長に囁いて去るところで終わっていれば!」と心底思った。その後があることは、蛇足の感ありだった。
「タクシー」は、そもそも話の骨格が存在せず、ひたすらシニカルにねじくれた展開を見せる。掴みの動物を三匹轢いたというところから運転手の妻が登場して以降まで、物語に笑いの芯がないように思う。
故に、体感時間が一番長く感じたのがこのスケッチであった。
「親」は、前半の一面的な正論を吐く父親と徹頭徹尾慇懃な態度を取る教師三人のチグハグな会話は可笑しい。
しかし、伊勢丹の袋のくだり以降、話は力ずくのナンセンス的展開に向かう。一度辞去しようとした教師たちを親が引きとめてからのやり取りに、何処かトゥー・クレヴァーさが漂って僕は駄目だった。
モンスター・ペアレントか否かという激論が教師間で戦わされた…という捻じれ方や「モンスター」ではなくただの「ペアレント」だったという流れは、イソップ寓話「北風と太陽」の北風的強引さで今ひとつノレなかった。
舞台でショート・スケッチをやる場合、やはり観る者に“時間”を感じさせてはダメだと僕は思う。より具体的に言えば、考える時間を与えてはダメで、笑っているうちに「あれ、もう終わっちゃったんだ」と観客を煙に巻くことができればその舞台はおおむね質の高いものである。
その意味では、今回の射手座の行動公演はいささか考え過ぎのように感じられた。
とにもかくにも、第2回公演を待ちたいと思う。もちろん、僕は観に行くつもりだ。