2013年4月8日公開、山戸結希監督『おとぎ話みたい』。
企画は直井卓俊、アソシエイトプロデューサーは平林勉、脚本は山戸結希、音楽はおとぎ話、美術は井上心平・松原夏子、撮影は今井孝博、照明は中西克之、編集は山戸結希・平井健一、音響設計は小川武、リミキサーは小野川浩幸、振付はKaoRi、ヘアメイクはMasayo、スタイリングはスエタカヨウコ(Daredevil)、制作協力はSPOTTED PRODUCTIONS。製作・配給は寝具劇団。
宣伝コピーは「あなただけが、私の田舎でした。」
2014年12月6日から19日までテアトル新宿で上映されたニュー・バージョンは、MOOSIC LAB 2013で上映されたものを再編集して音響を5.1chにバージョン・アップしたものである。
なお、本作は山戸が上智大学在学中に手掛けた作品で、MOOSIC LAB 2013にてグランプリ、最優秀女優賞(趣里)、ベストミュージシャン賞(おとぎ話)を獲得している。
こんな物語である。
高崎しほ(趣里)は、受験を控えた高校三年生。何もない田舎町に暮らす彼女には、胸に秘めた目標がある。進学希望の友人たちは地元の大学を受験すると言うが、彼女は東京の大学を志望している。東京でダンサーになること、それが彼女の目指すものだった。
掃除を終えたしほが誰もいない学校の廊下で踊っていると、向こうから新見先生(岡部尚)が歩いて来た。新見先生は呆れたような顔をするが、すれ違いざまに研究室にとあるバンドのCDがあるから借りれると言って歩いて行った。
そのバンドはしほのお気に入りで、こんな田舎町でこのバンドを聴いているのは自分くらいだと思っていたから彼女はとても驚いた。
新見先生に言われて彼の研究室を初めて訪れたしほは、そこがちょっとした文化サロンのような場所だと感じて感心する。CDを貸してもらったしほに、新見は彼女の踊りのことを言った。しほがダンサー志願であると知った新見先生は、書棚からダンス・メソッドの本を出して貸してくれた。
その日の帰り、いつもと変わらない田舎の殺風景な道を歩きながら、しほの心は躍っていた。凍てついた空気までもが、キラキラと輝いているように見えた。しほは、新見先生が何だか洗練された特別な人のように思えた。
その日以来、しほは足繁く新見先生の研究室に通うようになる。すると、新見先生は学校OBで地元ではちょっと知られたロック・バンドのメンバーも在学中は自分の研究室に入り浸ていたのだと言った。しかも、時々彼らは学校屋上で練習しているのだとも。
しほが屋上に行ってみると、そこには憧れの先輩たち(おとぎ話:有馬和樹・牛尾健太・風間洋隆・前越啓輔)が練習していた。彼らは、東京でサクセスする夢をしほに語った。しほは、自分と同じ夢に向かっている彼らのことを尊敬と憧れの眼差しで見つめた。
その日の帰り、いつもと変わらない田舎の殺風景な道を歩きながら、しほの心は躍っていた。凍てついた空気までもが、キラキラと輝いているように見えた。しほは、新見先生が何だか洗練された特別な人のように思えた。
その日以来、しほは足繁く新見先生の研究室に通うようになる。すると、新見先生は学校OBで地元ではちょっと知られたロック・バンドのメンバーも在学中は自分の研究室に入り浸ていたのだと言った。しかも、時々彼らは学校屋上で練習しているのだとも。
しほが屋上に行ってみると、そこには憧れの先輩たち(おとぎ話:有馬和樹・牛尾健太・風間洋隆・前越啓輔)が練習していた。彼らは、東京でサクセスする夢をしほに語った。しほは、自分と同じ夢に向かっている彼らのことを尊敬と憧れの眼差しで見つめた。
東京でダンサーをしていたが、今では引退してこの町に戻って来ている河西先輩(小林郁香)も研究室の常連だった。河西先輩は、ダンサーの先輩としてしほにアドバイスしてくれた。彼女は、ダンサーを目指すならいつでもバランスを意識して生活しろと言った。
しほは新見先生と親しくなり、時々一緒に帰るようになった。ただそれだけのことなのに、しほの心は高鳴った。
先輩たちのバンドが東京に遠征すると言うので、しほも連れて行って欲しいと頼み込む。彼女は、バック・ダンサーとして彼らに同行することになった。
研究室に顔を出してみると、今日も河西先輩が来ていた。彼女が師事していたダンサーの杉本先生(井土紀州)が近く東京でワークショップを開催すると彼女は言った。「しほちゃんも参加してみたら?」と。突然の提案に新見先生は驚くが、しほにとってそれはグッド・タイミングだった。ちょうど、先輩たちと一緒に上京している時だったからだ。
東京でワークショップに参加したしほは、杉本先生から踊りのことを褒められた。そのことで有頂天になったしほは、意気揚々と地元に戻った。
河西先輩からワークショップのことを聞かれたしほは、自信満々にその時のことを話した。ところが、踊ることについて杉本から質問された時に「踊るという行為は、自分の肉体を使った卑しい行為だから…」と答えたと言うと河西先輩は不快そうに顔を歪めて、杉本先生は自分にとって本当に大切な師であり、踊りに対してそんなことを言って欲しくないとピシャリとはねつけた。
カチンと来たしほは、ダンサーを引退してこっちの戻って来たくせにいつまでも踊りの周りにしがみついてみっともないと言い放ってしまう。
その剣幕に驚いた新見先生がしほをなだめようと言葉を挟むが、しほの感情は収まらず新見先生に対しても東京で何もせずにこっちの戻って来たくせにと言ってしまう。
流石に新見先生もその言葉には色めき立ち、もう君にはここに来てほしくないとしほに言った。今度は河西先輩が新見をなだめる番だったが、しほは研究室を飛び出してしまう。
その夜、ベッドに入ったしほは、「先生に、謝らなくちゃ…」といって枕に顔をうずめた。何故、自分はあんなにムキになって新見先生に酷い言葉を言ってしまったのか。彼女は、その本当の理由を分かっていた。
翌日、しほは新見先生の研究室を訪れて謝ろうとするが、「謝るのは、自分が楽になりたいからだ」と新見先生に突き放されてしまう。
しほは、どうすることもできず新見先生の研究室を後にするが…。
今、ストレートに青春を描くことは難しい。近年観た映画の中で僕が出色だと思ったのは吉田大八監督『桐島、部活やめるってよ』 (2012)だが、それも「ああ、今青春映画にリアリティを持たせようとすれば、こういう撮り方しかないんだろうなぁ…」という感じだった。
『おとぎ話みたい』を観ようと強く思ったのは、「青春」という時間軸の中にまだ身を置いているであろう若手の監督が、今のキャストとスタッフで撮った作品だと確信したからである。
しかも、それが女性監督であるというのも興味を引かれた理由だし、山戸監督を高く評価したのが井土紀州監督(この映画の中でも、役者として登場する。)であるというのも大きなポイントであった。
さらには、映画の尺が60分に満たないことも関心を持った。
映画館で観た予告編では、おとぎ話の演奏をバックに詩を朗読する趣里の映像が流れるのだが、何度も繰り返される「サブカル貧乏」といういささか気負ったフレーズが良くも悪くも耳に残ったし、強い輝きを宿した瞳と綺麗な顔立ちの彼女の口から吐き出される「わたしのひもにしてあげる。」という言葉にクールを装った蒼さみたいなものを感じた。
「一体、どんな作品なのだろう…」と観る前からとてもワクワクしていた。それと同時に、今、自分がこの作品と対峙して、一体どんな思いを抱くのだろうか?という思いもあった。
青春的な景色というのを、僕は随分前に何処かに置いて来てしまったのではないか…という気持ちだってあるからだ。そりゃ、自分の年齢を考えれば当然のことないのだけれど。
硬質で文学的過剰さを纏った畳みかけるが如き趣里のモノローグで映画は始まる。そして、思春期の少女そのままの佇まいと頑なさを体現しながら、彼女は、映画の中で躍動し、もがき、苛立ち、身を焦がし、傷つき、けれど純粋にひたむきにひたすら突き進んで行こうとする。
正直に言えば、映画の前半はなかなかその世界観にノレない自分がいた。それは、あまりにも頭でっかちな文学少女的フレーズの数々と、(役者としてはアマチュアだから致し方ないとは思うのだが)おとぎ話のメンバーの演技が拙く映ったからである。物語に、映画的なリズムが刻まれないもどかしさを感じた。
それでも、この映画に惹きつけられるのは、やはり趣里演じる主人公・しほの人物造形にリアルな力があるからだろう。ああ、確かにこういう女の子っているよなぁ…と。
ところが、映画がある時点に差し掛かるとあたかもマジックのように物語は躍動を始め、しほの生き方同様に疾走するようなすスピード感を伴ってグングン前へ前へと進んで行く。
具体的に言うと、それはストーリー紹介で書いた最後の部分からだ。ここから、映画はしほの初恋にフォーカスされて、彼女のがむしゃらな行動と共に観る者に迫って来る。
詩的に堅く感じられた彼女の言葉にも、傲慢と繊細さを行き来する心情にも、少女の面影を残したその表情にも力強い映画的リアルが付与されて行くのだ。
その、ヒリヒリした皮膚感覚が何とも心地よく、そしてビターな痛みに心がチクリとする。そう。それは、あまりにも青春的だ。
しほの疾走に身を委ねることの快感が、僕にとってはこの映画最大の魅力と言っていいだろう。
もちろん、山戸の演出やおとぎ話の音楽の力もあってのことだが、やはりこの映画は趣里が体現する思春期の女の子・山崎しほの魅力こそがすべてと言い切ってしまいたい。彼女が、踊り、しゃべり、動き、思う、その姿の一部始終が、そのままこの映画なのだ。それを、51分という尺でひたすらに観せてしまう手腕、それが本作における山戸監督の演出力なのだ。まったくもって、凄い才能が出て来たものである。
新見先生を演じる岡部尚の神経質でナイーブな雰囲気、ある意味しほのライバル的存在の河西先輩を演じる小林郁香もいいキャスティングだと思う。
おとぎ話のライブ・シーンもふんだんに挿入されるが、彼らの演奏に乗って踊る趣里の動きや生き生きとした表情もとてもキュート。
また、新見先生としほが手を取って踊るシーンや居酒屋で戯れているシーンのモノクロのイメージ映像も、心に残る。
山戸結希の次なる作品を楽しみに待ちたい。
また、山本政志監督『水の声を聞く』 とはまったく違った演技を見せる趣里は、これからの活動が期待される若手女優の一人だと思う。
是非とも、観ることをお勧めしたい素敵な作品である。
本作は、てらいなきストレートな青春映画が現在でもちゃんと有効であることを知らしめた一本。
また、山本政志監督『水の声を聞く』 とはまったく違った演技を見せる趣里は、これからの活動が期待される若手女優の一人だと思う。
是非とも、観ることをお勧めしたい素敵な作品である。